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月刊廃棄物

 毎度毎度、聞いたこともないようなマイナーな業界新聞、業界雑誌を紹介している当連載だが、今回取り上げるアイテムは、ある意味メジャー。環境問題に関心が集まっている昨今、まさに「今が旬!」とも言うべき雑誌である。
 タイトルは『月刊廃棄物』。1975年の創刊だから、近年の軽佻浮薄なエコロジーブームに乗ったオシャレ系エコ雑誌とは年季が違う。70年代前半は、高度経済成長のひずみが公害という形で噴出した時代。71年には『ゴジラ対ヘドラ』が公開されているが、ヘドロを怪獣に仕立ててしまうくらいだから、当時の環境汚染がいかに激烈だったかがわかるだろう。
 そんな時代に敢然と立ち上がったのが『月刊廃棄物』である。創刊当時の誌面は未確認なので断言はできないが、それまで捨てたい放題だった廃棄物を「さすがにどうにかしなきゃ」ということで創刊されたものと推測する。

 それから数十年を経た今、表紙に銘打たれた「環境保全と資源化への提言誌」のキャッチコピーが、実に時代にマッチしている。これが「地球にやさしく」とかじゃないところがミソである。そんな耳ざわりはいいけど実は傲慢なフレーズで表される“自己満足的エコ気分”は、ここにはない。現に目の前にある廃棄物をどう処理すればいいのか――それがこの雑誌のテーマなのだ。
 巻頭から約3分の1は、廃棄物処理装置の類の広告が延々と続く。
「強力破砕・頑丈! 好評!!他社の追随を許しません。リサイクル機器として、安心してご利用できます」と謳うのは、「強力ごみ破砕機ライオン」「廃プラは単純焼却から溶融減容へ」というキャッチフレーズを掲げるのは「廃プラスチックの減容装置25年の実績を誇るシグマ機器株式会社」である。「一般廃プラの減容固化物(球状)は当社が引取先を紹介致します」とアフターサービスも抜かりない。名機産業株式会社のロータリースター解砕機は「設置場所を選ばず、破砕からふるい作業まで1台でOK!」、しかも「基礎なしで設置でき、移動も簡単!」「破砕後の粒形が抜群に良い!」という。破砕後のサンプル写真も掲載されているが、どのへんが「抜群に良い」のか、素人目にはよくわからないのが残念だ。
 ほかにも新型空缶リサイクル車「トリプルA(エース)」や、「毎日出る生ごみを有機質肥料にリサイクル!」できる家庭用生ごみ処理機「たべ丸A(エース)」など、身近(?)な商品もある。

 肝心の記事のほうを見てみると、3月号の巻頭特集は「日本列島を覆う海岸漂着ごみ汚染の実態」だ。漂着ごみ問題に詳しい防衛大学校の山口晴幸教授による全国718カ所の海岸調査と92万個以上の漂着ごみの採集研究の結果を紹介し、千葉県富津市と京都府網野町での現地取材も交えて、ごみ汚染の実態に迫る。
 詳細なリポートもさることながら、掲載されている写真に驚愕。そういう場所ばかりを写したとはいえ、ペットボトルや空缶、使い捨てライターや注射器、化学薬品名が表示されたポリタンク、なんだかわからない発泡スチロールの球などが大量に積み重なり、まるでごみ集積所のようになった海岸の写真は、「マジですか!?」と目を疑ってしまうほど。
 その後も、「ドイツでワンウェイ飲料容器デポジット規定が発動」「ごみ有料化実態調査から見えてきた現状と課題」といったガチンコの記事が続く。「自治体Today」のコーナーでは、「不法投棄ゼロ目指し、監視警報装置の設置や条例制定」という東大阪市の取り組みが紹介され、廃棄物の中間処理業者を紹介する「中間処理探訪」というコーナーもある。とにかくこれ一冊で、ごみ問題の現状がよくわかる仕組みなのだ。
 そんな中、一服の清涼剤となっているのが、1コママンガ「ゴミック『廃貴物』」。コミックの「コミ」と「ゴミ」を引っかけ、さらに廃棄物の資源化という意味を込めて廃棄物の「棄」を「貴」とシャレたタイトルがイカす。「その246」とあるから、もう20年以上続いている計算になる。なんと単行本も第4集まで出ているのだ! 中身のほうは、まあ、なんというか、それなりであるが……。

 なんでもかんでもリサイクル、環境を破壊するものはすべて悪、みたいな風潮には疑問を感じる私だが、この雑誌は理想や善意ではなく実利としての環境保全やリサイクルを追求しているところに好感が持てる。
 しかし、3月号で個人的に最も心を惹かれたのは、仙台市のごみ減量作戦のイメージキャラクター「ワケルくん」である。「キチンと分けてますか?」をキャッチフレーズとする七三分けのマジメそうな青年。この青年が、仙台市民の間で大人気なのだという。
「市民の声を聞くと小学生から年輩の方までほとんどの人がこの『ワケルくん』を知っている。女子高校生の中にはホームページからダウンロードして印刷したポストカードを持っている人もいた」というからアイドル並みだ。「1975年5月3日、ドイツのシュツットガルト生まれ。血液型A型、身長182㎝、体重82㎏、趣味はそば打ちで、特技は書類整理や料理の取り分け、割り勘の計算。好きな言葉は『幸福はワケルと倍になり、哀しみはワケルと半分になる』」など、細かいキャラクター設定もされている。昨年(2002年)12月にはテーマソングも作られたとか。
 人気だけでなく、「この『ワケルくん』効果であるが、キャンペーン後、ごみの排出量が前年度と比べ、減少傾向になっている」と実力も兼ね備える。ところが、この「ワケルくん」、キャンペーン終了とともに姿を消すかもしれないのだ。ウェブサイトは3月いっぱいで閉鎖、「その後もイベントなどでの活用を行うというが、具体的に『ワケルくん』がどうなるかは現在未定であるという。このままなくなってしまうのか、それとも新たな展開となるのか、この先が注目されるところである」と記事は結ばれている。
 はたしてワケルくんの運命は!? ぜひ「その後のワケルくん」もリポートしてほしいものである。

(※2002年から2004年にかけて『トップジャーナル』という雑誌に連載した原稿です。情報は掲載当時のままで、取り上げた業界紙誌が現在もあるかどうかは未確認です)

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