翠雲堂本店

いつか仏壇を買う日は来るのか?

 東京メトロの稲荷町駅から田原町駅の間。ほんの1㎞ほどの通り沿いに50数軒の仏壇・仏具店がひしめいている。いわば“仏壇界の秋葉原”みたいな街であるが、次々新製品が出る家電やパソコンならともかく、仏壇なんて一生に一度買うかどうかのものだろう。こんなに店が集まってて、どーすんだ!? はたして商売成り立ってんのか? そんな疑問を胸に、お盆の仏壇街に出かけてみたのだが……。

 とにかく人がいないのだ。カレンダー的には平日だが、まがりなりにもお盆休みの時期である。にもかかわらず、通りは閑散とした雰囲気。客と店員のホットな商談を観察するつもりだったのに、肝心の客がいないんじゃなあ……。

 が、せっかく来たので、とりあえず手近な店に入ってみようと思うのだが、間口が狭く、じいさんばあさんがバッチコイの態勢で待ち構えてるような店は、高級ブランド店並みの敷居の高さを漂わせている。で、しばらくウロウロした末に思いきって比較的大きめの店に入り、展示してある仏壇を眺めていたら、何しろほかに客がいないもんで、ヒマを持て余した店員のオジサン(財津一郎似)がアルゼンチン代表のメッシばりのステップで寄ってきて「どういった場所に置かれます? 洋間ですか?」と聞いてくる。「いや、まあ……」とかモゴモゴ言ってたら「お位牌は作られたんですか? 四十九日はもう近々で?」と連続攻撃。「いや、今すぐってわけじゃないんですけど、そろそろかなあとか思って」って、自分で言ってて意味不明だが、何をどう納得したのか、「そうですか。じゃあ、ご説明だけでも」と、仏壇基礎知識を伝授してくれる財津一郎。将来、仏壇を買うときには参考にしたいと思う。

 しかし、「将来、仏壇を買うとき」は、本当に来るのだろうか? 30代~50代の友人・知人23人にプチアンケートを取ってみたところ、結果は下のグラフの通り。

Q.将来、仏壇を買う日が来ると思いますか?

 現在、自宅に仏壇があるという人は一人もいなかった。個別の意見を見てみると、「買わざるをえない日が来るかもしれないが、そのときも『買わん』と言い張れるぐらいの人間関係を周囲と維持しておきたい」(41歳・男・編集者)、「母が死んだら何らかの形で身近に感じられるものは欲しい。が、仏壇にするかはわからない。卓上の宝箱みたいな感じのものなら買う」(43歳・女・漫画家)、「木工、彫金、漆、彩色など、どの技術をとっても仏壇は奥深く精巧な工芸品だと思う。そりゃ欲しくなるでしょ」(37歳・男・美術ジャーナリスト)など、あまり一般的ではない意見が続出……。

 こんな偏ったデータではイカン。というわけで、インターネットで30代~50代の仏壇購入経験者を募集してみたら、あっというまに100人突破。やはり、世の中にはフツーに仏壇を買ってる人が大勢いるのである。

 購入額の平均は26・4万円(最高120万円、最安1万9800円)。購入時の平均年齢は34・8歳。この年齢で仏壇を買うというのはちょっと早い気がするが、それは調査対象がすでに購入済みの30代~50代だからであって、実際には40代~50代で親が亡くなって買うというパターンが一番多いようだ。

 今回取材した中で最年少は、「17歳のときに母が亡くなったため、20万円近くで購入した」という現在31歳の女性。「当時、すでに父とは生活費を分けて暮らしていましたので、母のお葬式から仏壇、墓石購入まですべて自分でやりました」って、立派すぎ! 昔からよく前を通っていた老舗の仏壇店で、いろいろ相談に乗ってもらって買ったという。

「桜でできた、小ぶりだけど質のよいシンプルなものを買いました。家まで説明に来てくれて、細かく相場や現状を教えてもらい、信用できると思ったので決めました。私にとって母の存在は大きかったので、心の拠り所が欲しかったんです」

 一方、「2年前に主人が急死したので、あわてて買いました」という35歳の女性は、「それまで仏壇なんて興味なかったので、何がどうなってるのかさっぱりわからず、お坊さんに頼んで一番安くて小さいのを8万円で買いました」。無理して仏壇を買わなくても、写真や位牌だけを飾っておくという選択肢もあると思うのだが、「そういうことは考えられませんでした。住んでいた地域が地方だったこともあり、仏壇はあって当たり前という慣習だったので。和室がないのでリビングのチェストの上に置いてますが、正直、今はもうあまり拝んでいません……。大きな声では言えないけど、本音は世間体で飾ってる感じです。誰かが来たときに、旦那さんが亡くなったのに仏壇もないんじゃおかしいから」と苦笑する。うーん、世間体ってやっぱりプレッシャーなのね。

 同様に「父が急死して急いで用意せねばならず、相手の言い値で買ってしまった」という43歳の男性も「自分が仏壇を買うとは全然想像してなかった。でも、いざそういう場面になったら『買わなきゃ』という頭が働いて……。28万円でしたが、高いのかどうのか。適正価格がわからないですよね。狭い家がますます狭くなるし、今考えれば買わないという選択もあったかも」と語る。

 変わったところでは、死んだペットのために買ったという31歳の女性。「主人と2人で子犬の頃から飼っていた犬を熱中症で死なせてしまって。火葬にして納骨堂にも納めましたが、やっぱりそばにもいてほしかったので、分骨して仏壇に祀ってます」という。買ったのはペット用ではなく、人間用のミニ仏壇で、お値段は約10万円也。

「大手の仏壇店で買ったんですが、初めはただ『小さい仏壇を探している』と。で、いろいろ相談に乗ってもらっているうちに、『実はペットのためのもので……』と打ち明けました。店員さんもやっぱり驚いてましたが、『ペット用の仏壇も見たけど、気に入らなくて』と説明したら、どうやら納得されたようです」

 あと、あまり詳しくは書くといろいろアレなのでやめておくが、「某宗教団体に入信したから」という理由で購入した人もチラホラ。そうか、そういう需要もあるんだなあ。でも、よく知らないけど、あそこの仏壇って専門の業者があるんだっけ? だとしたら、一般の仏壇・仏具店の売り上げにはならないよな。

 それにしても、実際のところ、仏壇ってどのくらい売れるものなのか。

「本店だけで月に80から多いときで100本くらい。ウチは今9店舗あるんですが、その年間トータルで3000本は売れますね」と教えてくれたのは、大手仏壇店「翠雲堂」本店店長・鵜瀬隆文さん(51歳)。年間3000本と聞くと多い気もするが、本店だけで見れば一日平均2~3本という計算だ。お客は土日が多いことを考えれば、平日はゼロという日もあるだろう。大手でこれだから、小さい店は、推して知るべし。たまに入ってきた客にマンツーマン接客をかますのもうなずける。

「この通りは秋葉原と同じで、ご紹介の方以外は皆さん他店との比較をされますね。何店か見て回られて、それでご希望に合ったものを買われると。当然、値引率というのも頭の痛いところで(笑)、『よそは何割引いてくれたけど、こちらはどうか』とかいうこともあります。定価で買われる方は皆無ですから

 仏様をお祀りするモノでも、値切れるものは値切るのだった。私が客のフリして何軒か回ったときも、ある店では「ウチは出てる値段より半額になりますから」と言われたが、「そういうお店は気をつけたほうがいい」と鵜瀬さんは言う。

「仏壇には定価がないんです。電化製品とか自動車なら、メーカー希望小売価格というのがありますよね。それが仏壇にはない。ですから、メーカーさんから産地直送で仕入れてるから安く売れるとか、いろんな謳い文句で半額にするとかいうお店ありますけど、元の定価があってないようなものですから、半額といってもそれが適正な価格かどうか……」

 同店での売れ筋は、上置き(押入れの棚やタンスの上に置けるもの)で20~30万円台のもの。最近は、モダンなデザインの家具調仏壇も人気で、全体の2~3割を占めるという。確かにこれなら部屋にあっても違和感なさそう、という感じの品もあった。もし買うんだったら、こういうのがいいかな……って、買うつもりかオレ!?

「信仰心というか、ご先祖さんを祀って拝んであげるという意識がなくなってきてるのかな、という感じはしますよね。ただ、自分はいらないと思っていても、いざとなると皆さん買われるんですよ。やっぱり形にして表したいというのが人間の心ですから。何もないところで拝むよりも、対象物があったほうがいいですから。ある程度の年代に達すると、その心がわかってくるんですよ」

 そういう鵜瀬さん自身は、もちろん仏壇を購入している。30年以上前に父親が買った仏壇を、母親が亡くなったのを機に買い替えたそうだ。

「今までは母が仏壇を守ってましたので、今度は私が守る番だと。社員割引で買わせてもらいました(笑)」

 仏壇を買うか否か。

 それはたとえば、演歌を聴くかどうかに近いのかもしれない。若くても聴く人は聴くけど、年を取って聴くようになる人も多い。が、聴かない人は一生聴かない――つもりが、うっかり『みちのくひとり旅』とか結構いいじゃん、なんて思って気がつくとカラオケで歌ってたりして……。人生何が起こるかわからない。くわばらくわばら。

※2004年8月12日、23日取材

【追記】その後、私も父を亡くしたが、もともと実家に仏壇があるため買ってない。演歌については去年、石川さゆりのコンサートに行ったけど、それ以外はやっぱりあんまり聴かないなあ。


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