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日本の童貞

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2003年7月

日本社会における「童貞観」の変遷を女性の目からクールに分析した労作

 とりあえずタイトルだけでつい買ってしまったこの本。戦前から現在に至るまでのセックス・リサーチや雑誌記事などに表れた「童貞」に関する言説を抽出し、社会における「童貞観」の変遷を分析したものだが、とにかくよくぞこれだけの資料を調べたと感心してしまう労作である。笑ったのは、「童貞」という言葉自体の変遷をたどった章で、『波留麻和解』『和蘭字彙』なんてところまでさかのぼっているのだ。エッチな言葉を辞書で探すのは思春期男子の専売特許かと思ったら、こういうことをこんなにまじめに調べている人がいたなんて!(ちなみに、日本語の辞書に初めて「童貞」が登場するのは1921年刊の『言泉』だとか)

 が、本書の目玉は、やはり「童貞が『カッコいい』時代があった!!」(帯の惹句より)という発見だろう。といっても、それはあくまでも1920年代のインテリ層に限られた思想にすぎなかったようだが、当時の大学生が「私は私の愛人の処女たることを礼讃すると同時に私の童貞もが彼女によって礼讃せらるゝことを希望します」「今日まで童貞を守り得た誇りと、この誇りを以て結婚に臨むのが男子の義務」などと真剣に述べているのには驚いた。

 これだけ社会の童貞観について調査・分析を加えながら、著者自身の童貞観が述べられていない点が残念というかフェアじゃない気もする(全体にフェミニズム系のトーンが強いだけに)が、童貞問題をここまで丹念に追いかけた功績は大。心に童貞を飼っているすべての男子に一読をオススメしたい。

『日本の童貞』
渋谷知美
文春新書 760円

※2015年に河出文庫で文庫化された模様。

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