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赤瀬川原平『背水の陣』

※過去に書いた書評を順次アップしていきます。

2003年8月

身の回りのことから環境問題を考える
超自然体の“ゲンペイ流環境論”

 タイトルを見ただけでは何だかわからないが、環境問題について書かれた本である。といっても、声高に環境保護を叫んだり、しかつめらしく啓蒙を垂れるような類のものではない。

「ぼくのような人間までもが、環境問題を考えなければならなくなった」――そんな書き出しに象徴されるように、あくまでも肩ヒジ張らず自然な姿勢で、著者は身の回りのことからひとつずつ考えていく。「最近、庭の草むしりをしながら、草むしりというのはエコ贔屓だな、とつくづく思う。エコロジーではない、エコ贔屓」などとダジャレみたいなことを言い出したり、「髪の毛は自分だろうか。環境だろうか」と考えてみたり。ゴミについて、犬のフンについて、中古カメラについて、ハコモノ行政について、お金について……話題はあちこちに飛ぶ。一見、環境問題と関係ないようなことでも、どこかで環境とつながっている。そう、「身の回り」とは、その人にとっての「環境」にほかならないのだ。

 ベストセラーとなった『老人力』のような発想の転換、『超芸術トマソン』のような視点の変換といった著者ならではの“芸風”は、ここでも健在。中古品の愛用を積極的に推進するための省庁「中古省」の設置と「中古法」制定の提案などは、冗談ながらも的を射る。本書を読んでも、環境問題の具体的解決法が得られるわけではない。が、「地球にやさしく」なんていう耳触りがいいだけで実は傲慢な言葉をお題目のように唱えている人々よりも、少なくとも問題の本質に一歩近づくことはできるだろう。

『背水の陣』
赤瀬川原平
日経BP社

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