珍獣3

なんでわざわざ珍獣を飼う?

 キョーッキョーッピャーピャーピャーバサッバサッカリカリカリ……と、ひっきりなしにいろんな鳴き声やら物音やらが聞こえてくる。目をつぶればジャングルにでも迷い込んだかのような気分になるココは、千葉県柏市にある珍獣ショップ「ヴァンパイア」。

 いや、目を開けても、目の前にはワニがいるし、右手の水槽にはヘビが、左手ではワシだかタカだかのヒナ(といっても結構デカイ)が盛んに羽ばたき、奥にはカメ、足元のケージではサルとタヌキの掛け合わせみたいな得体の知れない動物(キンカジュウというらしい)がグルグル動き回っていて、すぐ外を大きな国道が走っているのを忘れてしまいそうな異空間だ。

「通りすがりに“何だ、このお店!?”って入ってきて、たとえばワニとかを『カッコイイ』って買われていく方もいらっしゃいますよ」と笑うのは、店長の須田麻結子さん。

「今はマニアの方より初めての方のほうが多いですね。マニアの方はもうある程度、目が肥えちゃってるんで、新種が入ったときとかに来られるぐらいで、むしろ“飼ったことないんだけど、興味はある”って人のほうが多い」

 須田さんに挙げてもらった同店のアバウトな人気ベスト5は以下のとおり。

1位 リクガメ類

2位 小型のトカゲ類

3位 サル類

4位 猛禽類

5位 ヘビ類、ワニ類

「リクガメは“癒し系”ということで今、一番人気が高いですね。トカゲとかヤモリの小型のものはわりと女性に人気です。サルは稀少性が高くて値段も高いので『欲しいけど手が出ない』って方が多いですね。同様に猛禽類も欲しいけど飼える場所がないということで断念される方が多い。あと、ヘビとワニは同着ぐらい。ヘビはスペース取らないのがいい、と。ワニは以前はマニア向けだったんですが、最近人気上昇中ですね」

 ペットブームといわれて久しいが、その中心はあくまでも犬や猫、せいぜいハムスターやウサギである。飼うならそういう動物を飼えばいいと思うのだが、なぜわざわざ珍獣を選ぶのか?

 3年前に約6万円でモニター(オオトカゲ)を買ったという男性は、「初めてモニターを見て、“生きてる小型の恐竜が家で飼える!”と思ったから。まるで化石の中からそのまま出てきたかのような感じがした」と、その動機を語る。2年半前に1万5000円でフトアゴヒゲトカゲを買った女性も「初めて見て“キレイだなぁ”と。この時代にこんな生体が生きてることを不思議に感じました。呼吸をし、エサを食べてる姿を見るとタイムスリップしたような気持ちになります」

 うーん、まあ、その気持ちはわからないではない。ほかにも何人か取材したが、ほとんどみんな“一目惚れ”に近い形で買っている。値段も思ったほど高くない。前出の須田さんも高校卒業後すぐぐらいのときに近所の爬虫類ショップで初めてグリーンイグアナを見て、“これは何なんだ!?”“こんな生き物が家で飼えるんだ”と思い、速攻で買って帰ったという。「当時の値段で1万円ぐらい。これが1万円なら安い、と思いました」と須田さん。

 が、もちろんそんな安い動物ばかりではない。取材時に「ヴァンパイア」にいた動物で一番高かったのは、揚子江ワニで140万円。今まで扱ったなかでの最高額は、ホウシャリクガメの約200万円だとか。

「爬虫類は犬猫と違って、大きいほど値段が上がるんです。サルなんかも人気はあるんですが、高くて手が出ないという方が多いですね。10万切る種類はまずいませんし、高いとやっぱり200万とかしますから。だから、ホントに好きな方って、『車を買うかサルを買うか』『車を買うかカメを買うか』とか、そういう比較の対象なんですよ。何も知らない人がカメに200万って聞いたら『バカじゃないの、アンタ?』って感じですよね。でも、その人からすると、車と同等ぐらいの価値だと思ってるから、現に200万出すわけで。その価値観は人それぞれです」

 好きなものには多少の出費は惜しまない――というのは、趣味の世界ではよくある話。とはいえ、相手は生き物である。それも、あまり一般的でない動物となると、「買う」より「飼う」のが大変ではないかと思うのだが……。

「初めての方は、まず『飼えるんですか?』って聞かれますね。あと多いのは『エサは何ですか?』。たとえばヘビ、トカゲなんかだと、肉食なのでエサ用のネズミがあるんですよ。冷凍されてるものなんですが、出して見せると、『これはちょっと無理……』っていう人も結構います。だけど、そういう人が、『でも、どうしてもこのヘビが欲しいから挑戦してみます』と言って買われていくと、だいたい1週間後ぐらいには『なんかヘビが可愛いから、もうエサのネズミはエサとしか見えなくなりました』みたいな感じで、慣れちゃう人のほうが多いですね」って、話だけ聞くとちょっと引くが、ようするに、水族館で「カワイイ~」とか言ってた魚が刺身になったら「おいし~」に変わるのとおんなじか。

 ちなみに、エサを食べるシーンというのは、珍獣を飼ううえでの最大のお楽しみらしく、「これぞ野生の醍醐味! ヘビの醍醐味!って感じで、最初の半年くらいは楽しくてしょうがなかった。友達を呼んでは『スネークショー』とかなんとか言って、エサ(生きてるマウス)食うとこを見せてました」(ボールパイソンというヘビを10年飼っていた男性)なんて声もあった。「ヴァンパイア」でも、初めてのお客さんにはとりあえずエサを食べるところを見せることが多いという。

「食べるとこ見せると、リクガメなんかだと『可愛い!』、ヘビとかだと『カッコイイ!』となって、購入を決める方も多いですね。あと、ごはんをしっかり食べてるってことで安心して買えるっていうのもあると思うんで」

 鳴かない、臭いがない、散歩させなくていいなど、爬虫類はむしろ犬猫より飼いやすい面もあるという。こうなってくると、そもそも「なぜわざわざ爬虫類?」という疑問自体、成立しないのかもしれない。

「実際、爬虫類やってる人で犬も飼ってるって人、多いんですよ。だから、動物好きってところで共通してて、ちょっと違うジャンルに伸びたっていう感じなのかな、とは思いますけどね。あと、結構、熱帯魚から来る人多いですよ。ペット不可のマンションで、とりあえず水槽モノだったらいいだろうというんで熱帯魚始めたはいいけど、あんまり面白味がない、と。結局、スキンシップできないんで、熱帯魚は」と須田さんは笑う。

「呼んでも反応ないし、オレのこと食おうとするし、もっとなつく生き物を飼ったほうがいいかも」(前出のボールパイソンを飼っていた男性)、「物を壊す。持ち上げようとして2度ぎっくり腰になった」(30㎏以上あるケヅメリクガメを飼っている女性)、「爪が刺さるので怖い。あと、病気になったとき、診てくれる獣医がいなくて困る」(アルマジロを飼っている男性)など、それなりに苦労はあるようだが、基本的にはみなさん、珍獣のいる暮らしを楽しんでいるようだ。

 そういえば今回、珍獣を飼っている人を探していたら、「私の家には珍獣みたいな妻がいますけど……」という人がいた。なるほど、〈珍獣を買う〉のと〈結婚をする〉ことは、似ているような気がしなくもない。

※2004年10月20日取材

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