東京タワーで東京みやげを
※2005年6月24日取材
そのフロアに足を踏み入れた瞬間、「アレッ!?」と我が目を疑った。薄暗い蛍光灯の下にいかにも昭和な感じのダサいみやげ物屋が並んでいたはずなのに、目の前に現れたのは新幹線の駅にあるような小ぎれいな売店で、オシャレなカフェなんかもある。照明もモダンで明るく、どこかのショッピングモールみたいな雰囲気なのだ。
ココは東京タワーのタワービルの2F。東京みやげといえば、やはり浅草か東京タワーだろう、ということで来てみたのだが、なんだかすっかりリニューアルされているのである。いや、東京タワーの展望台が2002年に開業以来初めて改装され、それなりにオシャレなデートスポットとして生まれ変わっていたのは知っていた。しかし、2Fのみやげ物売場は昔のままで、そのギャップがさらにキッチュ感を醸し出していたはず。いつのまにこんなことに? と思って、カフェの店員さんに聞いたところ、今年(2005年)の3月だか4月だかに2Fも新装開店したんだとか。
せっかく来たのに、これじゃネタにならないぞ……と思いつつフロアをぐるりと一周。したら、やっぱりありました。「東京おみやげたうん」と銘打たれた一角に、昔ながらのみやげ物屋が十数店。再開発に反対して立ち退きを拒否した家みたいに、そこだけ時間が止まっている。売っているものも、タワーの置物、掛軸、絵はがき、絵皿、ちょうちん、夫婦茶碗、キーホルダーなど、十年一日のベタな品物がズラリ。いくら東京みやげだからって「東京」と書いてあるちょうちんを買って帰ってどうすんだ? と思うのだが、定番商品として売ってるからには、買う人がいるのだろう。お菓子にしても、人形焼きや「ひよ子」とかはいいとして、「白いお台場」って意味がわからない。
もっとわからないのは、ブルース・リーや映画『ジュラシック・パーク』のTシャツ、「龍」「忍」「神風」「夢」「根性」といった文字が刺繍されたリストバンド、GLAYの掛軸、高さ25㎝ぐらいの戦国武将のフィギュア、大仏の置物、十手、日本刀など、東京とは何の関係もない品が自信たっぷりに売られていること。まあ、外国人観光客向けなんだろうなと思えるものもあるけれど、何で今どき『ジュラシック・パーク』なんだよ……。
とかなんとか言ってるうちに、修学旅行らしい小学生の一団がわらわらとやって来て、猛然と物色を始めた。決められた時間内に決められたお小遣いの中から「これは!」という品をゲットしなければならないから必死である。ちょっとオタク風味のメガネ君は、ショーケースに飾られた日本刀に興味津々。もちろん模造品だが、大刀7000円、小刀5500円という値段は小学生には高嶺の花だ。一方、太めの池脇千鶴といった感じの女の子は、1000円均一のファンシーなキャラ入り腕時計の棚の前に座り込んで思案顔。迷いまくってる女の子に店のオバチャンが「これなんか大人っぽいから、ずーっと使えるわよ」なんて、いい加減なことを言っている。が、結局その子は長考の末、買わなかった。
そうかと思うと、「コレ人気なのよー」とか言われて、覗き穴から東京タワーが見えるキーホルダーや、タワーの絵入りの光るクリスタルを買っちゃう男の子も。何でそんなもん買うかなあ、と思うのだが、そういうときの彼らの表情は、まるで熱に浮かされているかのように、うつろなのだ。「何か買わなきゃ!」という焦りと、店のオバチャン&オジサンの雑だけど勢いだけはあるセールストークで、わけわかんなくなっちゃってるのだろう。
このオバチャンたちのセールストークがいかにすごいかというと、関西からの出張らしい中年サラリーマンがライターを物色しながら「もうちょい東京っぽいのない?」と尋ねたのに対する答えが、「東京タワーの袋に入れてけば東京っぽくなりますよ」という……。まあ、それで「龍」の文字の入ったシルバーのライターを買っていくサラリーマンのほうもすごいけど。
客層で目についたのは、やはり修学旅行生。あとは、はとバスで来た中高年と、ダサめのカップル、出張族といったところ。会社の同僚らしい男女2人が、パーティの景品か何かにするのか、あえて“いやげもの”((c)みうらじゅん)を選んでいたりもした。
そこで、筆者の知人友人・知人29人(20代~40代)に、東京タワーでおみやげ品を買ったことがあるかどうかを聞いてみた。
Q.東京タワーでおみやげ品を買ったことがありますか?
「買った」と答えたのは34%。これは多いのか少ないのか。話を聞いたのがほとんど東京在住の人なので、本来の東京みやげというのとは意味合いが違うかもしれない。が、「買った」という人の多くは地方出身で、子供の頃に親と来たとか、修学旅行で来たという例が多かった。で、何を買ったのかというと、「巨大な湯呑み茶碗と東京タワーがプリントされた巨大エンピツ」「にぎり寿司の写真と名前が付いた江戸前寿司ハンカチ」「『浅草』と書かれたうちわ」「東京タワーの形のサブレ」「東京タワーの電飾付きプラモデル」「大相撲のポストカード」など。結構皆さん、しょーもないもん買ってます……。
要するに、みやげ物という点では、地方の観光地も東京タワーも同レベル。よく「東京は巨大な田舎」なんて言うけれど、東京タワーはその象徴なのかもしれない。
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