天災は忘れた頃にやってくる
(※2005年9月1日取材)
9月1日は「防災の日」。今年は大きな地震や水害が多かったこともあり、新聞や雑誌、テレビでも、例年以上に防災関連の話題が取り上げられた。そういう記事や番組を見ると、「ウチも非常持ち出し袋のひとつぐらい用意しとかないとなー」なんて思うのだが、なかなか買いに行く機会もないし、いざとなるとお金がもったいない気がして結局買わなかったり……ということを続けて幾星霜。気がつけば、阪神大震災から10年も経っている。
が、そういう人は決して私だけではない。首都圏在住の20代~50代の男女100人に「最近、新たに防災グッズを買いましたか?」と聞いてみたら、「買った」と答えた人はわずか10%しかいなかった(グラフ参照)。
買った人の購入動機は「最近、大きな地震や台風が多いので心配になって」「新聞・雑誌で防災グッズの記事や広告が出ているのを見て」「テレビで防災グッズや防災訓練の話題をやっているのを見て」「もともと持っていたものが古くなったので買い替えのため」が、それぞれ30%と最多(複数回答あり)。買わなかった人の理由は「災害には備えておいたほうがいいと思うが、買うきっかけがなかったから」が79%と圧倒的だった。
よーし、「人のふり見て我がふり直せ」とも言うし、今年こそ買うぞ、防災グッズ! 最低限、飲料水と簡易トイレは必要だよな。ついでに「モノ買う人々」の取材もしちゃえ! というわけで、やってきました、東急ハンズ渋谷店。さすが「防災の日」だけあって、入口フロアのエレベーターのところからもう「防災用品はB1Cフロアにて扱っております」との案内板がかかっている。
さっそくB1Cフロアに行ってみると、階段上がった正面、一番目につくところで、「東急ハンズオリジナル緊急避難セット」を中心に、「生命のパン」「スーパー保存水」などの非常食、大人1人が3日間生きられるだけの非常用品(食料、水、保温シート)セットなどが大々的に展開されていた。さらに奥に進むと、「防災グッズコーナー」という看板が掲げられた一角があり、すでにお母さんたちが5~6人群がっている。年代は20代~60代くらいまでと幅広く、子供連れの姿も。なかには嫁と姑みたいな2人連れもいた。
「すみませーん、太陽の光で使えるやつ、あるかしら」と店員に尋ねる50代とおぼしきオバサン2人組。そんなアバウトな問い合わせにも店員は慌てず騒がず「あー、こちらですね。あいにく在庫が切れてしまって、お取り寄せになるんですよー」と即答する。
「あらー、売り切れだって」「やっぱりねー」とオバサンたちを納得させた商品とは、太陽電池と手巻きダイナモ搭載で、ラジオとLEDライト、サイレン、蛍光灯、携帯電話充電器が一体となったスグレモノ。にしても、「防災の日」に売り切れじゃ、イカンだろう。ちゃんと仕入れとかんかい! ……と思ったのだが、どうも担当者の怠慢ってわけでもなさそうなのだ。
とにかく、いろんなモノが飛ぶように売れている――というのは大げさだが、ちょっと見ている間にも、40代後半のオバサンが防災ホイッスルを4つ買ったかと思ったら、同年輩の別のオバサンはパンの缶詰を8缶購入。「トモコでしょ、お父さんでしょ、おばあちゃんでしょ……」とつぶやきながらカゴに入れていたから8人家族なのだろう。そりゃ防災の備えも物入りだ。
50代後半ぐらいの夫婦は、手動ダイナモ付きのランタンラジオとロウソク、非常持ち出し袋などを物色。大学生風の男もコンパクト肌着セット、非常持ち出し袋、ダイナモラジオ、ロウソクなどをカゴに入れ、リュックを背負った60代男性も非常食のあんこ餅、転倒防止器具などを買っていた。そうこうしているうちに防災ホイッスルは売り切れ。これじゃ、「太陽の光で使えるやつ」も売り切れるわな。
一方、OLや学生風の若い女性に圧倒的人気だったのが、簡易トイレ。ドライブ用みたいなお手軽なやつから、組み立て式の本格的なものまで、何種類ものトイレが並んでいたが、1時間ぐらいの観察中、ほとんど人が途切れない。それもほとんど女性ばかり。お手軽版を3つ買ったOLがいるかと思えば、15分以上熟考の末、一番立派なやつを買った女性もいた。やっぱり女性にとってトイレ問題は深刻なのね。
ていうか、実は私も災害時に一番心配なのはトイレである。男だから小のほうはどうにでもなるが、問題は大。私の場合、我ながらあきれるほどの快便で、「こんなに食った覚えないぞ」というくらいの量が出るのだ。だもんで、もしトイレの水が流れなくなったら……と思うとゾッとする。この機会にひとつ購入しておこう、といくつかの商品を手に取り説明書きを読んでみたのだが、どうもピンと来ない。使っているところをイメージしにくいというか、イメージしても楽しくないのだ。
そういえば、さっきの熟考女性もそうだが、防災グッズを物色する人たちには共通して、迷いのようなものが感じられた。備えはしておいたほうがいいんだろうけど、買っても使うかどうかわからない。懐中電灯やラジオならまだしも、簡易トイレなんて試しに使ってみるわけにもいかないし、むしろ使う機会がないほうが幸せ。そんなモノにお金を払おうというんだから、そりゃビミョーな気持ちにもなる。
で、思ったんだけど、こういうものこそ、プレゼントに最適なのではないか。人様にいきなり防災グッズを送りつけるのは不幸を願ってるようで失礼な気もするが、業界挙げて「防災の日には大事なあの人に防災グッズを」みたいなキャンペーンをやれば、軽佻浮薄なバレンタインデーなんかよりよっぽど世のため、人のためになるはずだ(って、バレンタインデーに何か恨みでもあるのかオレは……)。
結局、私は迷った挙げ句、「結構高いなー」「荷物になるしなー」なんて考えてるうちに「また今度でいいや」と、何も買わずに帰ってきてしまった。そんなわけで、どなたか私に簡易トイレをプレゼントしてください。編集部あてにひとつヨロシク! とか言ってたら、なんと今号で休刊だって。嗚呼、天災は忘れた頃にやってくる――。
※「モノ買う人々」を連載していた雑誌「DO YOU?」はこの原稿の掲載号を最後に休刊となった。
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