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中吊りのオキテ

 電車に乗ると、つい見てしまう中吊り広告。雑誌、とりわけ週刊誌にとっては非常に大事な広告媒体であり、いかに読者の目を引くか、各誌しのぎを削っている。
 しかし、実はあれも何でもアリというわけじゃない。掲示に際しては鉄道会社側の審査があり、表現の変更を求められることもある。結果的に、雑誌本体の見出しと中吊りの見出しが食い違っているケースも出てくるのだ。
 この件については以前に「SPA!」で記事にしたことがあるが、たとえば同誌の中吊りでは〈隠れ巨乳の科学〉という見出しが〈隠れ豊乳の科学〉に差し替えられたりする。もろちん勝手に書き換えられるのではなく、先方から「別の表現を」という要請があり、編集部のほうで代案を出すわけだ。

 にしても、なぜ「巨乳」はNGで「豊乳」はOKなのか。JR東日本の中吊りを扱うJR東日本企画の言い分はこうである。
「『巨乳』というのは、非常に胸の大きさを強調した表現ですよね。それはやはり、不特定多数の人が見る公共の空間ではふさわしくない露骨な表現である、ということで変更をお願いしています」(「SPA!」2008年3月18日号より・以下同)
 それなら「豊乳」だって、大きさを強調していることに変わりないと思うのだが、「『豊乳』の場合は、大きいかもしれないけれど、『豊か』という表現により多少なりとも品位が保たれている、という判断なんですね。『巨乳』だと大きさだけですが、『豊乳』なら情緒的、精神的な部分も含めて豊かであると」という。

 うーん、わかったような、わからんような……。でも、それだと逆に胸が大きいことを否定しているような意味合いになりません?
「いえ、別に女性の胸の大きさを否定しているわけでも、その雑誌の内容を否定しているわけでもありません。ただ、広告として不特定多数の人が見る空間の中では、一応ちょっと配慮してください、ということ。やっぱり見る人によって、『あれはセクハラなんじゃないか』といったご指摘も多々ありますしね。それに、我々が『この言葉に替えてください』と言ってるわけじゃない。代案として出されたものを文脈やレイアウトも含め全体的に判断してるわけで」

 検閲的なものではなく、あくまでもお願い。引っかかるのは基本的にエロ系の見出しだけだし、不特定多数の人が見る公共空間での表現に一定の配慮が必要と言われれば、そのとおりだろう。ただ、実際の修正例を見てみると、「ん?」と首をかしげたくなるものもある。
 いくつか例を挙げてみよう。
・勃起力アップ→コーフン度UP
・オナニーは携帯[エロをめぐる断層の正体]→自慰は携帯[エロをめぐる断層の正体]
・急増する[乱交パーティ]に潜入→急増する[乱行パーティ]に潜入
・「明るい所で局部を見られる」より「脇の汗染み」のほうが恥ずかしい?!→「明るい所でアソコを見られる」より「脇の汗染み」のほうが恥ずかしい?!
・ヤレる模範返答集→エッチできる模範返答集

 つか、こうして並べると、ひどいなSPA!(笑) まあ、こんな記事ばっかり載ってるわけじゃなく、審査に引っかかった記事をピックアップするとこうなるわけだが、どうですか、皆さん。修正前(左)より修正後(右)のほうがエロ度が低い、品位が保たれているということなんだけど、「局部」より「アソコ」のほうがいやらしい気がしません?
 これは記事には書かなかったのだが、当時の先方の回答は以下のようなものだった。
「基本的には全体の中で局部というとソコを指していると特定できるんだけど、アソコというと『アソコってどこなの』っていう、少し漠然とした不明瞭な意味に変わる表現としてとらえられるので、こちらよりはマシです、ということで」

 正直、基準がよくわからないところはある。が、実際に乗客からの苦情もあり、その際には「出版社、広告主さんにも多くの人が見られるということをご理解していただき自制していただいている」「原案からかなり直してもらった上で出してるんです」などと説明してくれているというから、出版社サイドとしてはありがたく思うべきか。
 今度電車に乗ったときは、そのへん注意して中吊りを見てみると、違った楽しみ方ができるかもですよ。

(※当記事は「季刊レポ」が発行していたメルマガ「メルレポ」2012年7~9月配信分を再構成して掲載しています)

【追記】その後、「SPA!」はJRの中吊りをやめた模様。「週刊現代」「週刊ポスト」は別の理由(読者が定年退職して電車に乗らないから)で中吊りをやめている。

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