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営業との出逢い③


「もしもーし、私E●●の○○と申しますがあー・・・」「もしもし、僕E●●の・・・」


扉を開けてビックリ。

そこには”家庭教師など縁遠い”ような、見るからに●グレ系の男たちが数名稼働していた。

四畳半ほどのスペースで、みんな受話器を持ち、いっせいに電話をかけている。

すごい熱気だ。

私はその光景に、またもや面食らってしまう。

"なんだここは..."

目の前には刺●剥き出しのお兄さんたちが受話器に齧り付くように電話営業をしてた。

「ほな、仕事中すまんけど、一旦電話やめてなあー?」

呆気に取られていると、Nがみんなに私を紹介してくれた。

「今日から体験で入ってくれる事になった泉くんや。Hくん、ちょっと電話営業のやり方をイズミくんに教えたって欲しいねんか。」


”H”と呼ばれた男が振り向いた。

見た目は30代中盤、Nと年は大差なさそうだ。

タンクトップからは筋肉隆々の両腕が伸びており、片腕には観音様の和彫が入っていた。

「泉くん?宜しくな、Hや。」


私はHから業務内容を教わることになった。

手元には京都市内を中心とした各家庭の名簿が積まれていた。

住所、名前、連絡先はもちろん、家族構成や帰宅時間、休日の過ごし方まで事細かくリサーチしてある。

私に任されたのは、これらの名簿に対し、学習教材の営業電話をして訪問のアポイントを取る"アポインター"だった。

営業電話=テレアポ、なんて人生初だ。

流れとしては、アポインターが取ったアポイントを先輩が再度荷電。

本当にニーズがあるアポイントなのか?

アポキャン(アポイントのキャンセル)が出ないか?

の再確認を目的とした通称”しぼり”を行い、確定したアポイントに営業マンが訪問するという流れだった。

一連に無駄のない流れだ。

仕事内容を一通り教え終わると、Hは私に”トークスクリプト”と呼ばれる、電話営業の台詞が書かれた1枚の紙を渡してきた。

「取り敢えず最初はそれ読みながら電話してくれたら良いから。」

「棒読みはあかんで?しっかり抑揚つけて相手と会話するようにな。」

「で、慣れてきたら徐々に自分の言葉も入れて話すように。」

そう言うと、Hは自分の仕事に戻ったのだった。

「ほな、取り敢えず電話かけてみよか!」

Nはそう言って、私に1枚の名簿を渡した。

そしてこれが、今後の人生を大きく変える”営業”との出会いになった。

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