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自分ゴト化するきっかけは、いろいろです 【週刊新陽 #23】

札幌では、陽が落ちるのがだいぶ早くなりました。

8月はあんなに暑かった校舎内も、9月に入り、冷たい風が入ってくるようになりました。新陽高校から近い平岸街道沿いはコスモスが見頃を迎えています。

今週は、そんな季節の変わり目の新陽高校からお届けします。


備えあれば憂いなし

9月1日は防災の日。98年前(1923年)の9月1日に発生した関東大震災にちなんで制定されたそうです。

北海道では、2018年9月6日胆振東部地震が発生。地震の被害も大きかったものの、そのあとの北海道全域の停電“ブラックアウト”は人々の生活に大きな影響を与えました。

9月は台風シーズンでもあり、近年は防災週間として「いざという時に備えよう」という意識を喚起する活動が各地で行われています。

新陽でもこの日、『防災を考えよう』というテーマの授業を全校で実施。

オンライン授業の中でどのように防災を学ぶことができるか、年度初めから担当の先生たちがアイデアを出し合い、練ってきた企画です。

今回は、火災に関する(福岡市消防局公式)動画を視聴→防災に関するアンケートをフォームで回答→意見をシェア、という流れを基本としながら、それぞれの先生が趣向を凝らした授業をしていました。

あるクラスでは担任が校内をパソコンで映しながら歩いてバーチャル避難訓練してみたり、理科の先生のクラスでは一酸化炭素中毒が起きる仕組みを説明したり。意見シェアの時間を2クラス合同のディスカッションにしたコースもありました。

「動画を見て、いつ何が起きるかわからないと実感した。」
「家の周りの避難場所など家族と話しておこうと思った。」
「バイト先で火事が起きたら、と心配になった。支配人に聞いて自分でも動けるようにしておこうと思った。」

など、それぞれに防災に対する意識を高めてくれたようでした。

意外と知らない、選挙のキホン

9月1日にはもう一つ、全生徒が参加する授業が行われました。

テーマは『選挙の基本を知ろう』。

札幌市の選挙管理委員会事務局と共同で、「政治に参画する意識と選挙倫理観の育成」を目的としたオンラインプログラムを作りました。

選管の出前授業というと、投票意欲を高めるための講義や模擬選挙の体験が思い浮かびますが、今回は少し違う視点で、新しいプログラムづくりにご協力いただきました。

選挙のキホン (1)

まず前日、生徒たちにGoogleフォームを配信し、選挙に関する15問のクイズに答えてもらいます。そして当日は1問ずつ正解を発表し、選管の方に解説していただくライブ配信型の授業です。(教職員zoomと各ホームルームmeetを繋ぐアイデアもなかなか良かった。)

たとえば、マルバツクイズだとこんな感じ。

Q.有権者であっても投票所では投票入場券を持参しなければ投票することはできない?(→バツ:入場券がなくてもOK)

Q.選挙運動は、「選挙が始まる日」から「投票日」まで行うことができる?(→バツ:投票日はできません)

Q.16歳の高校生が、自分のSNS(Facebook/Twitterなど)で立候補者の投稿をシェアしたり、リツイートしてもいい?(→バツ:18歳未満の選挙運動は禁止)

どれも良い問題で、私自身知らなかったり、勘違いしていた知識があることが分かりました。

後半、生徒からの質問に答えていただいたり、「地元の高校生に知ってほしいこと」というレクチャーで、1時間の授業は終了。今回の授業が少しでも当事者意識を持つきっかけになれば、と思います。

高校生は、18歳直前の世代と18歳になり選挙権を持つ世代が混在しています。これらの世代が、「政治はよくわからない」とか「選挙は面倒くさい」と思わず関心を持つことで、若い世代が抱える社会課題に対しての政策も行われるようになるはずです。

勇気を出したら視野が広がった - オンラインダイアログ

8月31日の放課後、ダイアローグ・イン・ザ・ダーク(DID)オンラインスタディを、有志の生徒5名と教員2名が体験していました。

DIDはドイツ生まれの「暗闇ソーシャルエンターテイメント」。純度100%の暗闇で、全盲のアテンドに案内されるまま、枯葉を踏んだり、ジュースを飲んだり、クリスマスカードを書いたり・・・さまざまな体験から五感の豊かさを感じることができます。

そして、DIDオンラインスタディは、コロナ禍で子どもたちの体験の機会が激減・激変していることを知ったアテンドたちの想いから生まれたオンライン対話のプログラムです。

冒頭、ベテランアテンドのひやまっちから「みなさん、こんにちは!」と元気に声をかけられると、少し緊張気味の生徒たちも「こんにちは。」「こんにちはー」と反応。

「こうやって映っていると、僕が目が見えないかわからないかもしれないから」と白杖を見せながら「これ知ってる?」と聞くひやまっちに、「見たことある」「名前はわかりません」と生徒たち。さっそくダイアログ(対話)が始まっていきます。

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まずは自己紹介。ニックネームと「お気に入りの香り」というお題で、「僕はメロンの匂いが好き。カットしたメロンじゃなくて、スーパーでかすかに感じるあれ。」とひやまっちが言うと、生徒や先生たちは

・豚丼専門店から香るタレと肉が合わさった匂い
・線香の香り
・麦茶のパックの匂い
・バニラや桜のようなあまい香り
・家の近所のコーヒー屋さんの前を通るときのできたてのコーヒーの香り
・ラベンダー畑のラベンダーの匂い
・家に帰った瞬間わかる奥さんの手料理の匂い。特にニンニク系!

と、思い思いの香りを語り、すこしずつ緊張もほぐれてきたようです。

メインプログラムは『感覚マップ』。

五感ぜんぶを使って地図を作るワークで、今回は、最寄の自衛隊前駅から新陽高校までのルートを描くことになりました。紙に地図を描いた後、その途中どんな音が聞こえるか、どんなにおいがするかなどを一人一人説明していきます。

ひやまっちがいつか新陽に来るときにちゃんとたどり着けるように、と想像しながら丁寧に表現する生徒たち。

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ワークが終わり、「やってみてどうだった?」という質問には、

「同じルートでも感じる音や匂い、風が違っておもしろいと思った」

「地図を作るのは簡単。でも説明が思った以上に難しかった。どこまで細かく説明していいのか、情報が多すぎるとかえってわかりづらいのかな、と悩んだ。」

など、初めての体験を通して皆それぞれに感じたことがあったようです。

最後にプログラム全体を振り返り、時間を少しオーバーするほど盛り上がっていた対話の一部をご紹介します。

オンライン授業を経験する中で、声を出して共感するのを控えるようになっていたというしまもん。テレビ会議では同時に声を出すと混線してしまうことがあるため、音を出さず、画面越しに伝わるように大きくうなづいたり、いいねマークでリアクションする習慣がついていたそうです。
今回もいつものオンラインの感覚でいたところ、ふと「ひやまっちに伝わらないじゃん!」と思い、積極的に、でもみんなと重ならないよう間合いをとりながら声を出したとのこと。

そして、その変化に気づいていたのがブルー
「しまもん、最初はうなづいていたのに、だんだん声を出すようになったよね。相手に伝わらない時にどう工夫するか、柔軟に対応できるんだなって思った。こういう機会があればみんながもっと気づいて、面白いコミュニケーションが増える気がしてワクワクしました。」
駆け出しの写真家しょうちゃんは、全盲のカメラマン大平啓朗さんの話を紹介しながら「目が見えていたら、ひやまっちは何がしてみたい?」と質問。

「一番やってみたいことは、キャッチボール。3次元でボールを投げる、空中から飛んでくるものを受ける。これって普段の僕の生活の中にはないんだよね。
それから、実は写真にも興味がある。なにかの瞬間を切り出したものを自分で見ることはできないけど、他の人に見せたら見せた人数分だけフィードバックがあって、たとえば5人に見せたら5人分の目を借りられることになる。でも、シャッターを切るのをついつい忘れちゃうんだ(笑)」とひやまっち。

しょうちゃんは、一枚の写真で色々なものを表現してみたいと考えていて、ひやまっちの「見た人の分だけ違う感覚がある」という言葉に共感したようでした。
「ひやまっち、ぜひシャッター切って!」と熱いエールがあったので、いつか2人が写真を介して伝え合う日がくるかもしれません。
運動系部活に所属しているはにゃは1年生。これまで、こういう機会があっても部活と重なって参加を諦めていたそうです。でも今回は勇気を出して、トレーニングを休むという選択をしました。

「一気に視野が広がった!」

最後の最後に、はにゃが言った言葉です。

「視野が広いと言われることもあるけど、目が見えないなど違う場面に来たら一気に狭くなってしまうことに気づきました。自分の視野の狭さ、弱さを知りました。今日はすごくたのしかった!ありがとうございました!!」

実は今回の体験は、私の友人で、DIDを支援している若林直子さんからのギフト。「新陽の生徒たちにぜひダイアログを体験してほしい」とプログラムを寄付してくれたのです。(直子さん本当にありがとう〜)

このダイアログ体験をもっと多くの子どもたちに届けたい、というプロジェクトが始まっています。勤めている学校や自分のお子さんが通っている学校でやってみたいと思った方、ぜひリンク先からお問い合わせください!
(注)実際にミュージアムで体験するプログラムとオンラインプログラムがあります。また、このプロジェクトの対象は小学生・中学生です。


【編集後記】
新陽が出会いと原体験を大切にしているのは、1つの体験がきっかけとなり心が動きはじめることが少なくないからです。何がそのきっかけとなるか、そしてきっかけからどう動くかは、生徒一人ひとり違います。それが新陽の人物多様性
校長としてできることは、出会いの種をたくさん蒔くことと、芽が出て育ってくれるように土を耕し続けることぐらいかな、と思う今日この頃です。

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