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#008 極意、強弱記号の音量は3段階で作れ!

今回のテーマは、「強弱記号」について「奥村式演奏法」オリジナルのアプローチです。
一般的な「強弱記号」の概論の解説ではありません。
しかし、これを知っていれば、演奏に抜群の威力と効果を発揮しますので、ぜひ参考にしてみてください。

【pp,p,mp,mf,f,ff この強弱記号の音量についてどのように考えるのか?】

作曲家によっては、ppp、pppp、ppppp … や、fff、ffff、fffff … など、いくつもpやfを重ねて指示される場合もありますが、今回はまず使用頻度の高いこのppからffまでの6つの強弱記号( pp,p,mp,mf,f,ff )の演奏方法を基本として考えていきます。

皆さんは、この6つの強弱記号の音量をどのように演奏しているでしょうか?
大体は、「音量を6段階に分けて演奏しているよ!」という人が多いに違いありません。
もちろん、楽典にもそのように書いてあるし、原則はそれでまったく間違いありません。
しかし、実際のところ、どれだけ正確に6段階の音量を使い分けられているでしょうか?
できないことはありませんが、正確に実演しようと思うと、なかなかの高度な技術が必要とされます。
さらには、音量を6段階に作ったとしても、今度はそれが難易度が高い技術の割に、音楽を表現する上で、思うほど効果的に聴く側に伝わらないのです。
なぜなら、たとえ演奏する側が6段階で音量を表現したところで、聴く側はこの6段階の音量をはっきり判別できるわけではなく、明確にこの6段階のニュアンスを伝えるためには、また違った工夫が必要なのです。

そこで今回、私が強く勧めたい演奏方法が、タイトルにもある「音量は3段階で作る」という考え方です。

【基本的に音量は3段階で作れ!】

まずは、強弱記号の6段階ある記号を、単純にわかりやすく、以下のように3つ音量に区切るのです。

基本的に音量を、
「大きめ」
「普通」
「小さめ」
の3段階に分ける。

音量を大中小3段階にすれば、演奏する側も、聴く側も、「これは大きめだ」、「これは普通だ」、「これは小さめだ」と、非常に明確に音量感を感じ取れるのです。

実はこの音量の大中小、3段階でのニュアンスが伝わることがとても大事なのです。
あえて言えば、この3つの音量感だけ伝わればおおよそ、どのような表現をするのにも十分なのです。

これをもし6段階で複雑に演奏しようと思うと、この大中小3段階の音量感を見失ってしまいがちになってしまいます。
特に真ん中の「普通の音量」が意識されずに、「大きい」か「小さい」の二極化した演奏になってしまうこともあるでしょう。

さて、3段階の音量で良いと言う話をしましたが、実際には6段階の違いが聴いている人にはっきり伝わるように演奏しなければいけません。

ここで、まず知っておきたいのが、人は音量の絶対値で強弱を認識するのでは無いということです。

【強弱記号は音量の大小のことではなく強弱を指定している】


例えば60名のオーケストラ全員でpで演奏した場合と、クラリネット一本でfで演奏した場合を比べた時、絶対的な音量ではきっとオーケストラの方が大きく、クラリネットの方が小さく聴こえるでしょう。
しかし、聴いている側はきっと、オーケストラはpで演奏したことが伝わり、クラリネットはfで演奏したことがきちんと伝わるはずです。
つまり、聴く側はそれぞれの楽器が、その楽器の持つ音量の中で「大きめ」だったか、「小さめ」だったか、「普通」だったか、そのニュアンスを感じて「音の強弱」を認識しているのです。

そもそも、「強弱記号」というのは、「音量の大小」のことを言っているわけではなく、「音の強さや弱さのニュアンス」のことを指示しているのです。

これを理解した上で、これから説明する方法でアプローチすることにより、簡単に6段階を演奏する側も、聴く側も認識できるようになります。

【音量6段階の作り方】

まず6段階を3つに分類します。
ppとpを「小さめ」
mpとmfを「普通」
fとffを「大きめ」

とし、さらにそれぞれをさらに2つに分類します。

【大きめの音量、fとff】

はじめに、fとffから説明していきましょう。
人はfとffの違いをどのようにしてわかるのでしょうか?
これは実際に音量で区別しても、思った程聴く側には伝わりません。fとffを並べて区別すればわかるでしょうが、実際に楽曲で演奏しながらだと音量の差だけでは、あまり違いがわからないのです。
そこでまず、どのように演奏するとffに感じられるのかを考えてみます。

まず、声でも楽器でも構いません。
普通の音量で音を出したら、そのままクレッシェンドしていきます。
そうすると、これ以上大きくならないところで音量がキープされます。
この、音量がこれより上がらない状態になった時、ffに感じられるのです。

もう少し具体的に説明すれば、音量がそれ以上に大きくならず、また音量がそれ以下に小さくならない時にffと感じられるのです。
もし音量が落ちてしまったならば、その瞬間ffではなくfに聴こえてしまうのです。

つまり、「f」と「ff」の違いは、
「大きめ」の音量で、フレーズが作れる(音量のアップダウンができる)場合は「f」に感じ、「大きめ」の音量で、それ以上音を大きくすることもできず、それ以下に音量を小さくもできず、結果的にフレーズがほとんど作れない場合(音量を一定に持続できる場合)は「ff」に聴こえるということなのです。

ちなみに、この理屈から言えば、決して最大の音量にしなければffに聴こえないということではなく、これ以上大きい音が出ないと聴いている人に錯覚を起こさせることができ、「大きめ」で一定の音量であれば、どの音量でもffに感じさせることができるわけです。

【小さめの音量、pとpp】

次に、pとppを説明します。
考え方は先程と基本的に同じです。

「小さめ」の音量でフレーズが作れる(音量のアップダウンができる)場合は「p」に感じ、「小さめ」の音量で、音量がこれ以上にも以下にもならないで、フレーズがほとんど作れない場合(音量を一定に持続できる場合)は「pp」に感じます。

こちらも、先程と同じで、たとえ、決して限界まで音量を落とさなくても、「小さめ」で一定の音量であれば、どの音量でもppに感じさせることができるのです。
逆にほんの少しでもフレーズを作って音量が大きくなってしまっただけでppには聴こえなくなってしまい、pに聴こえるようになってしまいます。

【普通の音量、mpとmf】

最後に、mpとmfについての説明です。
実は一番演奏することが難しいのがこの「普通」の音量のmpとmfです。

このmpとmfもやはり音量とフレーズの両方の組み合わせで表現することができます。

「普通」の音量より少し弱めに演奏すると「mp」。
「普通」の音量より少し強めに演奏すると「mf」。

さらには、

「普通」の音量で、フレーズの音量の幅を小さくすると「mp」。
「普通」の音量で、フレーズの音量の幅を大きくすると「mf」。

ちなみに「普通」の音量と何度も出てきていますが、基本的に「普通」の音量についての指示記号はありません。強いて言えば、何もついていない時は「普通」の音量で出しても良いかもしれません。(ただし、何もついていない場合でも「普通」の音量とは限りません。)
つまり、なんとなく「普通」に音を出すということはまず無いということなのです。

以上のように、音量で3段階、それにフレーズの表現法を組み合わせることにより、ppからffまでの6段階は、演奏する側にも、聴く側にも明確に、そして簡単にニュアンスが伝わるのです。
結果的に、音量も6段階に聴こえるように出来上がります。

【要件を知ることが大事】

どのようにしたらfに聴こえ、どのようにしたらffに聴こえるようになるのか?など、6つの強弱記号それぞれの「そのように聴こえるための要件」を知れば、なんとなく行き当たりばったりで音量6段階を作るよりもはるかに正確に表現することができるようになります。

もちろん音量をただそのまま6段階に作ることは全然間違いではありません。
今回、紹介したアプローチを加えることにより、より聴く人たちに、絶対的な音量の大小だけではなく、強弱のニュアンスが伝えられるようになると思うのです。

【ppp,pppp,ppppp … fff,ffff,fffff… その先の世界】

さて、これまで話した6段階というのは、そもそも無限に区切れるものを便宜上6段階に区切って指定してあるわけですが、さらに、ppp,pppp,ppppp … や、fff,ffff,fffff… と、その先の世界があるわけです。
たとえば、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の第1楽章では、6小節の間に、ppp→pppp→ppppp→ppppppと出てきます。
ここまでくるとむしろ神聖な感じさえしてきますが、このような記号が出てきたらどのように考えれば良いのでしょうか?

■考え方 その1

実は演奏する時に実用的に使用する音量というのは、声や楽器の音量の限界とは少し異なります。
仮に、小さい音で考えた場合、楽器によって、限りなくゼロに近い音量がでる楽器もあれば、ある程度までしか下がらない楽器もあり、弱音の限界値というのは一つのオーケストラの中でも音量が異なります。
そもそも、小さい音が出るからと言って、小さすぎれば聴く側に届かず、逆に、音量が大きく出るからと言って、割れるほど大きな音量を出せば良いかと言えば、そういう問題ではないのです。
つまり、楽器の性能を最大限に引き出そうという気持ちも大事ですが、実際のところは、実用的に演奏で使用する音量というのは限られたものなのです。

これは、車に例えるとわかりやすいかもしれません。
車のスピードメーターは国産車のほとんどは時速180キロを示し、輸入車であればそれ以上の表示がされています。
しかし、日本においては実際に公道を走行する場合は基本的に時速60キロ、徐行で時速8キロ程度、高速道路では基本的に制限速度は時速100キロとなっています。実際にはもっとスピードを出して走る車もいるわけです。

基本的に音量をスピードに置き換えて、これを強弱記号例えるならば、ffは時速100キロ、ppは徐行で時速8キロ、mfで時速60キロ、mpで時速50キロといった感じでしょうか。
おおよそ演奏に必要な音量というのはこのような感覚であり、実用的な音量だと思うのです。

つまり、ppp→pppp→ppppp→pppppp は時速8キロ以下、
fff→ffff→fffff→ は時速100キロ以上、と思うとかなりの緊張感を伴いますが、結構実際には幅があるのです。

もちろん、どこで演奏するか、どこで走るかによって演奏の仕方も異なるでしょう。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏なんかは日本の法定速度の枠を超えて、まさにアウトバーンを走っているようですし、野球場で応援のトランペットを聞いていると、サーキットを走っているようですし、それぞれの場所にあった演奏の仕方があると思うのです。

時に、アマチュアゴルファーの僕がとにかくドライバーを飛ばしたい衝動にかられるのと同じように、アマチュアのオーケストラでとにかく音を出したい衝動にかられる人たちも多いと思います。
痛いほど僕も気持ちはわかりますが、それは結構な音量的スピード違反をしていると考えられます。

■考え方 その2

法定速度は必ず守らなければなりませんが、音楽の話となればまた少し別です。
法定速度通りの演奏が音楽として面白いかというと、また違うものだと思います。
個人的に自分で常に心掛けていることですが、「背伸びをしていこう」をモットーにしています。
地にべったり足をつけてしまうと、見える景色もいつも通りですが、背伸びをすると、いつもの景色が全然違って見えます。
よく「地に足をつける」という言葉がありますが、「背伸び」はギリギリ地に足がついている状態で、地から足が離れてしまうと、それは無謀ということになるのだと思います。

つまり、もう一つの考え方としては、未知なる音量へのチャレンジ、限界への挑戦をするということの大事さも忘れてはならないと思うのです。
きっと作曲者はそんな思いをどこか少しこめて記号の数を増やしているのかもしれません。

【演奏で使える実用的な音量について】


さて、じゃあいったい、それぞれの記号を演奏するのに、どのくらいの音量を目安にしたら良いのでしょうか?
演奏する時に使う実用的な音量について少し触れたいと思います。

基本的に、歌も楽器も原則、最大の音量も最小の音量も、ロングトーンをした状態で出せる音量しか演奏時には使いません。
瞬発力で一瞬ならかなり大きな音量を出すことができるのですが、そのようにして出る音ではフレーズが作れないため、よほどのことがなければ瞬発力で出す音は使いません。ちなみにピアノの場合はトレモロで出せる音量が実用的な音量の目安になるでしょう。

【さいごに】

今回は、「強弱記号」をただ6段階で音量を作るだけでなく、演奏時におけるより効果的な表現をするための、聴く側に明確にニュアンスが伝わる事を目的とした演奏法でした。

ぜひ試してみてください。


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