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#007 クレッシェンドの演奏法

はじめに
以下に記す奏法はあくまで私の基本的な考え方であり、すべてにおいてその奏法が正しいわけではありません。
なぜならば作曲者の記号に対する解釈の仕方、また、その国や地域、時代、音楽家の解釈等により奏法が変わるからです。

【クレッシェンド 】

Crescendo クレッシェンド
クレッシェンドは「だんだん強く」という意味の音楽用語です。

「だんだん強く」すれば良いだけなのに追求するとやはり奥が深いクレッシェンド。

これを知っているのと知らないのでは大違い。
今回は演奏上、効果的に聴かせるクレッシェンドのコツについてのお話しです。

【基本的にクレッシェンドは一定の音量でしてはいけない】

クレッシェンドをするとき、クレッシェンドの図形の記号が直線でできていることもあってか、一定の音量で大きくしたくなりそうなところですが、それだとあまり演奏上、効果的に盛り上げることができません。

例えば、電車に乗った時のことを想像してみてください。
まず、電車が一定のスピードで走行している場合、目をつぶってしまえば、今、動いているのか止まっているのかわからなくなります。地球も凄い速さで動いているわけですが、「地球って速い!」と実感することはありません。つまり等速直線運動をしているときは、まるで止まっているかのように感じるのです。
これは音も同じで、同じ音量で演奏していると、音が鳴っているという実感がなくなってしまうのです。

そしてもう一つ、今度は電車が止まっている状態から走り始めることを想像してみましょう。電車はおおよそ一定のスピードで加速してくれるので、基本的に変化を実感するのは動き出す瞬間と、加速から等速直線運動に変わる2回の瞬間だけ。
加速している最中に目を閉じてみると、今動いているのか動いていないのかわからなくなるでしょう。
電車は一定の加速をすることにより、加速していることを極力感じさせないおかげで乗り心地が良いのです。
これはやはり音も同じで、クレッシェンドしている間は大きくなっている実感がなくなってしまうのです。

つまり電車での快適な乗り心地は、演奏となると話がまったく逆になるのです。

一定の音量で演奏してしまうと、せっかくの音量も大きいのか小さいのか、人に認識されなくなってしまいます。
そして、一定の音量でクレッシェンドしてしまうと、クレッシェンドの始まりの瞬間と終わりの瞬間はわかっても、クレッシェンドしている最中は大きくなっていることに気がつかないのです。

これではせっかく音量を大きくしても聴いている人には効果的に盛り上がりを伝えることができません。

ではどのように演奏したら効果的に膨らませることができるのでしょう?

演奏上でクレッシェンドを効果的に聴かせるためには、クレッシェンドをしている最中も音量が大きくなっていると感じさせるように演奏しなければなりません。

グラフにすると直線的な図形ではなく、反比例のグラフのような曲線になるように、始めはあまり膨らせすぎず、後半に向けて膨らませる割合を増やしていくと、聴いている人には常に盛り上がっているように感じさせることができるのです。

逆に、聴いている人が気がつかないようにクレッシェンドをする場合には直線的に音量を大きくしていければ良いと言うことになるわけです。

ちなみにデクレッシェンド、ディミヌエンドの演奏方法も同じ原理で、直線的に一定の音量で減衰していくのではなく、はじめはあまり減衰させず、後半に向けて減衰する割合を増やしていくと、突然音量が落ちたようにならず、自然に減衰したように聴かせることができるのです。

クレッシェンドの仕方に、直線的な表現と、曲線的な表現の二つの考え方をベースにバリエーションを持つことにより、より幅広い表現が可能になります。

ぜひ曲に合った表現を追求してみてください。

次に、クレッシェンドを、図形で表記している場合と、アルファベットで表記している場合の違いについて触れておきたいと思います。

【クレッシェンドの図形とアルファベットの違い】

図形で表記してある場合と、アルファベットで表記してある場合のこの二つ、基本的に「だんだん強く」するのはどちらも同じです。
ですが、どちらにもそれぞれの特性があるのです。
その違いを説明していきましょう。

まず大きな違いは、図形の場合は、効力が作用する範囲が見た瞬間認識できます。しかし、アルファベットて記してある場合は、演奏するまえにどこまでクレッシェンドをしなければいけないのか、その範囲を理解しておかなければなりません。

ここからの説明は、そもそも作曲家がどこまで意識をして使い分けているかにより意味合いが違い、答えに正解はありませんので、あくまで、一つの考え方、奥村式のアイデアとしてのお話です。

アルファベットで「cresc.」と書いてある場合は、
例えば、A地点に「cresc.」と表記してあり、B地点までクレッシェンドする場合、途中フレーズの都合等で音量がアップダウンすることはあっても、基本的にB地点までに大きくなっていれば良いと解釈します。
ですから、「cresc.」は、比較的長いフレーズに使用されるのです。

目的地まで音量が大きくなっていれば、その途中のプロセスはフレーズに応じて時には減衰しても良いのが、アルファベットで記してあるクレッシェンドの特徴です。

それに対して、図形で書いてある場合は、明確に作用する音の範囲を指示していますので、その指定された範囲は音量が落ちることなく、強制的に効力が作用します。

つまりアルファベット表記のクレッシェンドは音を全体的に大きくしていきたいというコンセプト(方向性)を示しているものであり、それに対して図形表記のクレッシェンドは確実にその範囲の音を大きくするという指示なのです。

ですから、アルファベット表記のクレッシェンドが作用している範囲の中で、図形表記のクレッシェンドやディミヌエンドが記されることはありますが、その逆、図形表記のクレッシェンドが作用している範囲の中で、アルファベット表記のクレッシェンドが出てくることは無いのです。

文字ばかりの説明だとなかなかわかりにくかったかもしれません。
クレッシェンドの演奏法に関するお話でした。

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