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5. 下町と呼ばれて

神戸生まれ神戸育ちの私には「下町」という概念は馴染みがないものでした。私にとっての町の区分は、繁華街、住宅街、団地、郊外、工業地帯、田舎だったと思います。「下町」という言葉を聞いたのは、東京に出てから。イメージも曖昧でした。

ところが、アストロスケールの日本法人を作ってから「下町」を明確に認識しなければいけなくなります。私達の本社は墨田区の錦糸町駅のそばにあります。住所を伝えるたびに、「へ〜。下町なんだね〜」「まさに小説『下町ロケット』だね」という反応をいただきます。

下町とは「だいたい東京の東側の一帯」であり、「小規模事業と住宅地が混在し、昔からの文化・人情に裏打ちされ、人々が根を張って生活している地域」のようです。

私は、この「下町ですね」と言われることがとても嬉しいのです。私達アストロスケールは、世界5カ国に拠点を持つグローバルな企業ですが、全社員、国籍問わずとても熱く、技術をコツコツと開発して、しっかりと根を張りながら汗をかいているからです。

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私は就職相談や大学生への講演を受けると、必ず「現場か本場に行ってください」と言います。間違ってもすぐに大手町や丸の内には就職してはだめだと。現場か本場で学ぶことはホンモノです。そうではない場所で、モノの流れを傍らから眺めるだけの社会人生活をスタートさせるのはものすごく勿体ないと思っています。

現在、アストロスケールの日本法人は、錦糸町に3つのオフィス・衛星工場を構えています。世界で唯一無二の技術、世界最先端技術を開発する「現場」そのものです。ありがたいことに、多くの見学依頼をいただくのですが、受け入れキャパシティの問題やコロナ禍ということもあり、ほぼお断りせざるを得ない状況です。

私達もそろそろ大型の施設が必要になりました。大型の宇宙ゴミ(スペースデブリ)を除去する衛星を複数同時に製造するために。ですので、大きな工場に移転することを決めました。1都3県に加え、東北地方まで広く場所を探したのですが、長い検討を経て、結果的に、ブーメランのように錦糸町に戻ってきました(笑)。現在、ヒューリック社を中心に開発いただいており、2023年にはオープンの予定です。ここが、世界最先端技術を加速させていく「現場」になるのはワクワクします。そしてさらに、私はここを本場にしたいと思っています。「グローバルな宇宙産業の本場」「宇宙の持続可能性(Space Sustainability)を議論する本場」です。

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「下町」を世界の現場であり、本場にしたい。一朝一夕には進みませんが、意思を持てばそのうちたどり着くでしょう。

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誰もが口にする「イノベーション」の重要性。でもイノベーションは技術革新からしか生まれません。私は技術も語らないでイノベーションの重要性を唱える人を信じません。ですので、新しい施設では、見学の受け入れも少しでも多く受け入れられるようにと思っています。現場と本場を少しでも多くの次世代に、技術革新のワクワクを肌で感じてほしいと思っています。それは私の人生のミッションの一つです。


次回「東大生は調査だけ」をお送りします。

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