見出し画像

1. 宇宙のゴミ掃除、はじまる


はじめまして。アストロスケールの創業者でありCEOの岡田 光信(おかだ みつのぶ)です。

まもなく、世界で初めて、宇宙のゴミを除去する技術実証が始まります。スペースデブリ除去実証衛星「ELSA-d(エルサディー)」の打上げが2021年3月20日(土)に迫ってきました。

スペースデブリとは宇宙に漂うゴミのことです。「ELSA-d」は、人工衛星やロケットを宇宙で使い終わった時に、そのままゴミにならないように回収するための技術実証です。

昔は宇宙には一つもゴミがありませんでした。人類が宇宙開発を始めてから60年以上。今では宇宙空間には、役目を終えた古い人工衛星やロケットの一部、そしてそれらが爆発したり、衝突したりしてできた破片などが、多数スペースデブリとして地球の周りをもの凄い速さで飛び回っています。

これからも人類が宇宙を使い続けられるよう、私たちアストロスケールは、「Space Sweepers(スペーススウィーパーズ=宇宙の掃除屋)」と名乗り、スペースデブリを除去する技術の開発や、安全な軌道を確保するための国際的ルールの整備などに取り組んでいます。

高速道路を例に考えてみましょう。時代とともに車の数は増えましたが、ロードサービスがあるおかげで、故障や事故の際には、修理やレッカー車などがサポートをしてくれます。そうやってスムーズに交通の流れを守っています。ロケットや人工衛星にとって、宇宙における軌道とは、地球上での高速道路のようなものです。地上でゴミが出れば、清掃員の人がゴミ収集車で回収して道路や街を綺麗にしてくれるように、スペーススウィーパーズである私たちは、宇宙空間も安全で綺麗な場所にしたいと考えています。

私たちの取り組みは、「ユネスコNetexploイノベーションフォーラム2020」でのグランプリ受賞をはじめ、「Japan Venture Awards(JVA)2020」科学技術政策大臣賞受賞、宇宙業界誌のSpaceNewsが選ぶ「リーダーシップ・オブ・ザ・イヤー」受賞など、世界で注目され、評価いただけるようになりました。

今回打ち上げる人工衛星は、技術実証の段階で、実際のデブリの除去はまだまだこれからなのですが、こうした数々の賞をいただくことに、スペースデブリ問題への関心の高さや、私達に対する期待値を改めて実感しています。




50%の自信と50%の不安

画像1

ELSA-dの打上げが決まってから、「この実証のずばり成功確率は?」とよく聞かれます。
正直な答えは、50%の自信と50%の不安です。

50%も不安があるのか、と思われてしまうかもしれません。ですが、スペースデブリ問題という難しい課題を解決するために、アストロスケールを設立したその日から、毎日、50%の自信と50%の不安の中で過ごしてきました。

一生懸命毎日を生きてきたから、根源的な自信があります。でも、毎日新しいことにチャレンジをするから、不安もあります。半分自信があるから今日も頑張ることができる。半分不安があるから今日も努力できる。

ELSA-dのたどる結末を、私はもう知っている感じがします。試験もシミュレーションも運用の訓練も、たくさん重ねてきました。様々な故障を想定した訓練も。

実際は宇宙空間で想像もつかなかったことが起こるでしょう。それでも、衛星もチームも、ヘロヘロになりながらも、実証は成功するでしょう。

最悪の事態を考えたくはありませんが、仮に打上げの失敗が起こったとしましょう。それでもアストロスケールは大きく前に進みます。なぜなら、私達は、すでにその最悪の事態である打上げの失敗を経験しているからです。

2017年11月28日、私たちが開発した初の衛星、微小デブリ観測衛星 IDEA OSG 1 (イデアオーエスジーワン)を載せたソユーズロケットが、打ち上げ後消息を経ちました。

衛星からの電波が受信できず、もしかしたら宇宙空間で不具合が起きて、ロケットとともに巨大デブリとなってしまったのではないか……。そんな不安が頭をよぎりながら、世界中のアンテナの助けを借りて、必死に衛星の在りかを探しました。

打上げから数日が経った頃、ロケットが軌道を外れて北大西洋に落下している可能性が関係者から伝えられたのですが、当時の私の顔は本当に歪んでいました。

ロケットは一定の確率で失敗します。統計的に5%の確率で失敗することは理解していました。20回に1回は起こり得る、確率論の問題だと納得しようとしましたが、さすがにすぐには気持ちを切り替えられませんでした。

私はチームのことが心配でした。メディアや投資家、協業先への説明も必要です。ロシアから急いで帰国しました。

ところが、心配されていたのは私でした。チームはすでに対応策を考え動いてくれていました。

私達は何も変えませんでした。ミッションも、積極的な技術開発も、世界中から優秀な人材を集めることも。その結果、その後の資金調達額は過去最高になり、さらに世界中から大きな支援を頂くことができました。失敗が私達を大きくしたのです。


未経験者をリーダーにする

画像2

スペースデブリ問題をなぜ誰も解決できなかったのか。その原因のひとつは、この問題は解決する人を選ぶからだと思っています。

ELSA-dの開発と実証の全責任はプロジェクトマネージャー(PM)が担います。ELSA-dは世界が注目しています。巨額の資金をつぎ込んでいます。失敗したら会社の生死にも関わります。

私はそのPMに、当時29歳の若手エンジニアを任命しました。

アストロスケールには、JAXAやNASAなどの宇宙機関や大手宇宙企業で活躍していた技術者も多くいますが、29歳の彼の経験は全くと言ってよいほど足りません。彼は衛星を作ったことすらありませんでした。

それでも彼をPMにしようと決めたのは、彼が誰にでも隔てなく感謝できる人だからです。相手が誰であれ、会うなり「ありがとうございます!」「Thank you!」と言える人間です。

スペースデブリ問題は技術面のみならず、事業面、各国の法制度や国際的な議論など、様々な要素が複雑に絡み合った問題です。世界で最も厄介な課題のひとつと言っても間違いないでしょう。今後、このブログの中で少しずつお話ししていきます。

スペースデブリ除去というビジネスは、おごりやたかぶりがあると、その隙を突かれると思っています。このデブリ問題に神様がいるかは分かりませんが、近道をしようとしたり、手を抜こうとしたら、それを見逃してくれないだろうと常に思うのです。

社内のチームだけでなく、サプライヤー、各国政府、各国宇宙機関、国際機関、大学、NGO、投資家、メディア、果ては多くの一般の方々まで、全世界の協力がなければ決してデブリ問題は解決できません。

だから私は迷うことなく、どんな時でも、自然と「ありがとうございます!」が言える彼をリーダーに任命しました。開発途中に問題はたくさんありましたが、しっかりと打上げを迎えるまでにこぎつけました。



3つの扉スクリーンショット 2021-03-16 20.08.45

デブリ問題を解決するには、3つの固く閉ざされた扉を開く必要がありました。ELSA-dはこの3つの扉を同時に開いてしまいます。だから、世界に注目されているのだと思います。

まず技術の扉です。

デブリ除去には、宇宙にあるデブリを見つける技術、安全に近づく技術、回転するデブリを捕獲し大気圏に突入させて燃やす技術が必要ですが、ELSA-dでこの技術の扉を開きます。

デブリは、地球の周りを秒速約8キロメートル、弾丸の約10倍以上の速さでぐるぐると周回しています。さらにデブリ自体が「ぐるぐる」と回転しています。そもそも近づくことがとても難しいのですが、ELSA-dも「ぐにょぐにょ」とした非常に複雑な動きで軌道を描く技術で近づくことができます。

2つ目は、ビジネスの扉です。

今後打上げを予定している民間や政府の衛星が、宇宙のゴミになったとしても、私達がきちんと除去できるように、衛星を打ち上げる前にドッキングプレートという軽い金属の板を取り付けてもらうことを勧めています。

ドッキングプレートが付いていると助かるのです。私たちのデブリ除去衛星ELSAシリーズは、相手の衛星を見つけるのも、捕まえるのも容易にします。除去のサービスにかかる値段も下がります。すでにドッキングプレートが取り付けられた衛星は30機打ち上がっており、ELSA-dの成功とともに、よりこの動きは活発になるでしょう。

3つ目は、法規制づくりの扉です。

デブリ問題を解決するために、世界にはルールが必要だ、というのは誰もが思っていました。ですが、じゃあどうやってルールを作るのか?については誰も答えを持っていませんでした。

私どもは国際機関をはじめ、各国の政府や宇宙機関、業界団体、学会、その他でこの8年間膨大な対話を続けてきました。様々な方の尽力があり、世界は少しずつ、でも今までにない速度で変わりはじめました。

あとは、我々のような業界が技術とベストプラクティス(最善な実施事例)を生み出すことで、世界とともに技術の標準化や軌道利用のルールづくりについて駒を進めて参りたいと思います。



ずっと使える宇宙のために

画像5


3月20日のELSA-d打上げまであとわずか。詰めの作業もたくさんありますが、打上げ後はさらに忙しいです。

宇宙の安全な持続利用に向けて、希望の扉が開いていく瞬間を、世界中の仲間たちと共に喜べることを信じています。

この8年間、いつも山越えてまた山、といった心境でした。それほどにこの問題は難しい。他方で、歩き続けていれば景色は変わっていくことも実感することができました。

未来永劫使える宇宙空間を作り出すために、まだまだ私たちの活動は加速していきます。


最後に

アストロスケールは、宇宙の持続利用可能な活動について一緒に考える仲間「Space Sweepers(スペーススイーパーズ)」を募集しています。
「何かできることはないだろうか」と関心を持ってくださることが、私たちの活動を後押しします。
私たちの手で、宇宙をより美しい場所にしましょう!

http://www.spacesweepers.com/jp/

top_kvのコピー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?