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「レオン」 LÉON (94年) ナタリー・ポートマン演じる少女マチルダが見せる大人の女性性とは

テレビ東京の午後のロードショーでやった「レオン」LÉON(2020年9月11日放送)
ハードディスクにタイムシフト録画されたものを、久しぶりに眺めていたら、懐かしさと共に、ナタリー・ポートマン演じるマチルダが、「少女」というより「オンナ」なんだ、ということに気づいてしまった。

1994年、フランスの監督リュック・ベッソンが、アメリカで初めて撮ったノアール映画。名作として認知されており、ぼくも初公開時に、この映画に「しびれた」一人だ。

プロの殺し屋(掃除人と自分では呼ぶ)レオン(ジャン・レノ)は、ニューヨークのアパートで暮らしている。ある日、隣の部屋に住んでいる麻薬の売人一家が、捜査官スタンフィールド(ゲイリー・オールドマン)たちに惨殺される。一人だけ生き残った少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)はレオンに助けを求める。彼女と暮らし始めたレオンは、マチルダを守るために、自分の命を張る。

アパートの廊下に座って、タバコを吸うマチルダ。右頬には殴られた後が見える。レオンは、「大丈夫か?」と声をかける。
もし彼女が、マチルダの義姉の年齢(19歳くらい?)だったら、レオンは声をかけなかっただろう。彼女が12歳の子供だから声をかけたのだ。

牛乳を2パック買ってきてあげると言って、買い物に行ってたから、マチルダは殺されずにすんだ。彼女を部屋に招き入れたところで、レオンは冷たい殺し屋ではなく、優しい奴だとわかる。

その前にも、レオンは一人映画館でジーン・ケリーの踊る場面を眺めながら、嬉しそうに微笑むシーンがある。
ガラガラの名画座で、上映されているのはMGMミュージカル「いつも上天気」It’s Always Fair Weather (55年)。ローラースケートを履いたケリーが歌うのは「アイ・ライク・マイセルフ」”I Like Myself” 

「♪ぼくは自分が好きだ。だって君が好きと言ってくれたから…♩」

Reference YouTube 「いつも上天気」より

映画の後、アパートに戻ると、マチルダに「大人になってもつらい?生きていくって」と尋ねられる。レオンは「いつだって同じさ」と答える。

少女と暮らすようになり、だんだんレオンの気持ちがマチルダにかたむいていく。最初は拾った子猫を飼うような関係で、同情と父性が混じったような愛だった。だが徐々に男の愛に変わっていく。

それはマチルダの言動が、子供ではなく、オンナのそれだからだ。94年に公開されたヴァージョンは、オブラートに包んだ表現であったが、その後にリリースされた〈完全版〉を見ると、女の部分がもっと露骨に描かれている。

レオンという名前を「かわいい」といい、仕事が殺し屋だとわかると「素敵」という。
寝る前に「こんなにやさしい大人がいたなんて」といって、レオンの人差し指と中指2本を握る。

出て行ってくれというレオンに「一度(あたしを)助けたんなら、責任をとるべきよ」とすごむ。
植物に水をやっていたら「私にも水をやれば育つかもよ」と戯れる。

「私はあなたに恋をしたみたい」
「ねぇ、キスして」

買ってもらったドレスを着て、一緒に寝てほしいとせがむマチルダ。

Reference YouTube

初めはとまどうレオンだが、拒絶をしながらも、彼女に対する態度が変わっていき、愛を感じ始める。だから、自分の稼いだ金をマチルダに渡そうとし、街で若い男と話したら「知らない男と話すな」と(嫉妬し)怒るのだ。

マチルダの心は、大人のオンナだ。もちろん、脚本を書いたリュック・ベッソンの想像上のキャラクターだが、一緒に殺しの仕事がしたいと訴える時も「俺たちに明日はない」だって「テルマ&ルイーズ」だってコンビだったでしょ、とマセたことを言う。普段は、「トランスフォーマー」のアニメを見ているくせに。

最高のゲームをやろうと、黒いブラジャーをつけてマドンナになり、白いドレスで「Happy Birthday Mr. President」とケネディ大統領の愛人だったマリリン・モンローになる。チャップリン、ジーン・ケリーも真似て「だーれだ?」なんて、子供がこんなこと知ってるわけねえだろ、と思ってしまう。

中年男のレオンは、このボブカットの少女に翻弄されていく。
ホテルのレセプションで「私たちは親子じゃないの。愛人なの」と告げるのも、“私の男よ“、とマーキングするようなもの。
初めて観た時は、中年男と少女のプラトニックな純愛映画だと思っていた。だけど、少女マチルダの根っこにあったもの。それは女の本性だろう。

女は、自分を守ってくれる男に寄り添う。そんな男が現れたら離そうとしない。天涯孤独になったマチルダは、レオンしか頼る男はいない。ならば、どんな手を使っても、この男を自分のモノにしないと、生きていけない。
捨て身に出られたら、男は弱い。片目を開けて寝るような、クールなはずのレオンは、やがてマチルダのために命を張る。
マチルダは、魔性の女なのか?いや、これは古来からどんな女性ももっている「自己防衛」という本能だと思う。少女だがむき出しの<オンナ>が顔を出したのだ。

人間関係が下手で、孤独だったレオンは、こんな自分を愛してくれるマチルダのために生きようとする。無理とわかっていても、二人で静かに暮らしたいと願う。だがそれはかなわず、マチルダのために身体を張って復讐を果たす。男が求められる愛は、常に「自己犠牲」なのである。男は、それを<男らしい>と思う。
そのことをわかっているから、観客の男たちはこの映画にヤラれてしまうのだ。

映画の出来は、個人的には初公開時の編集の方が、完全版に比べて、二人の関係がオブラートに包んであるから好きだ。
今回午後ローで放送されたヴァージョンは、吹き替えがビデオ版の大塚明夫ではなく、テレビ朝日放送版の管生隆之だった。マニアはこんなところも喜ぶんである。

てなことで。


最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!