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『1917 命をかけた伝令』 ”ワンカット”カメラ・ワークで見せるスリリングな戦場体験

サム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』(19年)は、驚愕のカメラ・ワークを楽しむ映画だ。ともかく全編ワンカットで見せる。
2020年第92回アカデミー賞で、撮影賞、視覚効果賞及び録音賞を受賞したのも当然とうなづける(ゴールデン・グローブ賞、BAFTA(英国アカデミー賞)では最優秀作品賞を受賞)。

もちろん今はCGの時代だ。本当の”ワンカット”ではないが、綿密な計算で構築した絵作りは本当に凄い。撮影監督のロジャー・ディーキンスは、撮影前の準備に6ヶ月かけたという。それに撮影は(整合性を保つために)曇りの時間だけだったというから相当大変だったのは想像できる。

ストーリーはシンプルだ。1917年4月6日、西部戦線の戦場にいる若い兵士2人が、翌朝までに前線部隊へ作戦の中止を伝える任務を受け、戦場を駆けていく。電話線も切られており、前線には自分の兄もいる。1600名の部隊を救うため、果たして彼らは間に合うのか?

この映画が面白いところは、この若者二人と共に、第一次大戦時の戦場体験ができるところである。カメラは、主人公の後ろから横から前から、様々なアングルで、一緒に戦地を歩きまわり、そして走る。その流麗なカメラワークは自然だが、全く違和感がない。それが凄い。

いつ銃弾が飛んでくるかわからない戦地を進んでいく姿を見ていると、共に戦場を歩いている気になってるこっちも、びくびく、ハラハラしてしまう。

第一次大戦時の戦争には、かくも若い人たちが前線に出ていたのかと思う。それは悲惨な事実だが、勇気を持って、しかも人間らしさを失わずに前へ前へと進もうとする姿勢に胸を打たれた。

主役の二人は、無名の俳優だ。だから余計にリアリティを持たすことができている。シリアスな印象のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)と愛敬のあるブレイク(ディーン・チャールズ・チャップマン)。
スコフィールド役は『トイ・ストーリー』のウッディに似てるなぁ、と見ながらずっと思ってた(笑)

その他、上官役でコリン・ファースや、ベネディクト・カンバーバッチが出演している。なんとも豪華なキャスティングだ。

YouTubeにメイキング映像がアップされていたので載せておきます。
これは映画を見てから眺めると「へぇそうやって撮ったのか」がわかり面白いと思います。

その他のワンカット、長回し映画を、思い出すままに書いてみると、最近では『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)、『ゼロ・グラビティ』(13年)、『カメラを止めるな』(18年)なんかがあるが、僕の印象に強いのは、アルフォンソ・キュアロン監督、エマニュエル・ルベツキ撮影、クライヴ・オーウェン主演の『トゥモロー・ワールド』”Children of Men"(06年)。これの戦場シーンのワンカットは瞬きが出来ないくらいの出来だった。

それからオールド映画ファンの僕が、忘れてはならなのが、アルフレッド・ヒッチコック監督の『ロープ』(48年)。パーティ内でおきた殺人事件を巡る、まるで舞台劇のような映画だが、80分の本編と実際の時間が同じという実験も行なっている。フィルムの時代は、一巻の長さがおよそ10分ほどなので、つなぎは背中のアップを撮ったりして工夫しているのも面白い。

先人たちは、色んな実験を繰り返して面白い映画・映像作りに精を出してきた。CGだけではなく、こういう映像技巧的に面白いものに出会えるのが、映画を見る楽しみのひとつでもある。

てなことで。



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