【人間観察】丸裸にされても···いいの
メタセコイアという樹木を、ご存じだろうか?
ヒノキ科メタセコイア属の落葉樹である。松の木のような葉っぱで、真っ直ぐ天に向かって伸びる枝の多い木だ。庭掃除の人には、落ち葉が半端でなく、厄介がられるが<やまのぼ>は、どちらかというと好みの木だ。
ある客先での、そのメタセコイアのお話だ。
その客先に久しぶりに訪問すると、玄関先にあった15メーターほどの高さにまで育ったメタセコイアが、丸裸にされているではないか。聞くところによると、建物の増設で邪魔になるので、裏庭に移植するとか。移植先が狭いため、最小限度の枝を残してバッサリと繁っていた枝を切り落としたとか。
それは残念と思わず呟く<やまのぼ>に、担当者はばつ悪そうにニヤリとした。
<やまのぼ>が、結構!この樹には、癒されてますからというと、担当者は意外とそうおっしゃる方が多くてと、思案顔に曇った。でも、優先順位から移植することになったのだろう。
ところがそこで、大きな問題が発生した。
当工場を新設するため取得した土地は、もと建設資材置き場であったらしく、当新工場建設を急ぐあまり、更地にする段階で、側溝などそのままにし、盛り土をして建設したらしいのだ。それが、玄関先にメタセコイアを植えるときに気づいたらしい。
ところが、植樹当時、誰も予想もしなかった事態にいま驚いている。
メタセコイアの生命力に、掘り起こされた現状を覗き込む人々すべてが、唖然とするそうである。取り壊されずに残した旧側溝のコンクリートを、メタセコイアの太い根が抱き込むように伸びているではないか?
樹木の生きることへの執着心を、語る言葉より強力な説得力で、見る人に訴えかけてくる。
そういえば、メタセコイアは1946年、中国四川省で現存していることが確認される以前、日本を含む北半球で化石として発見されるのみで、絶滅した樹木とされていたと聞く。
考えてみれば、人生たかだか100年しかない人間様なんかの生命力など足元にも及ばない樹木たちの生命力に脱帽!するのみである。
改めて、丸裸にされたメタセコイアを見上げ、畏敬の念すら抱く<やまのぼ>がそこにいた。
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