見出し画像

【小説】未来から来た女(3)

☜【小説】未来から来た女(1)から読んでみる

「美穂!このマンションに住んでるって言ったのかい」
「言わないわよ!何処の誰だか判らないし!結構!エキセントリックなおばあさんだったし・・・私、そのマンションの裏手に住んでいますけど、そのマンションが、建ったのは最近ですよって言ったんだけど・・・」私はまた腕組して、悠太に応えているのに気づき、サッ!と腕を解いた。
「おばあさんたら、聞こえないふりしてるので、少し大きな声で聞いてみたの。『失礼ですけどお幾つですか』って、するとワタクシ!平成元年生まれなんです!って言うのよ!」「オイ!オイ!ばあさんだろう!美穂と同い年だってかよ!」「いよいよ、ボケてんだって、さすがの私も思ったのよ!」「多分!娘か誰かの生まれ年と、ゴッチャになってんだろう・・・」
 頃合いをみて早く退散しょうかとも思ったんだけど、広島の母のような柔和な笑顔に誘惑されて、ついつい仏心が芽生え、付き合ってしまったことに、悠太は呆れる。
「お幸せそうですね~って聞かれたので、まあね!と言ったら、おばあさんは、幸せが一番だわよね~って、微笑み返ししながら、ワタクシなんか波瀾!波瀾!の人生だったって、暗い顔になって・・・」
 つまり、そういうことだったのだ。自分の波瀾万丈の人生を、誰かに話したかったんだ。その誰かに、私が選ばれたことになる。私は、お昼をご馳走になっただけでは、割りが合わないと思い、おばあさんの波瀾いっぱいの人生を愉しむことにしたといったら、悠太は大きな欠伸をした。
 悠太は食卓からソファーへ逃げるように移動し、うつらうつらしかける。「それで、おばあさんが、ドリンクのお代わりに立とうとするので、私が行きますからって、おばあさんのコーヒーカップを受け取るとき、おばあさんの右手の手首に大きな黒子があるを見つけたのよ。ほら、私の右手首と同じところに、同じようなのが・・・」そのとき感じた戦慄が再び襲ってくるのを抑えながら、薄目を開けた悠太の目の前に、私は右手首を突き出した。
「ほら、この黒子と同じのが・・・」悠太は、黒子と私の顔を交互に観るだけで、言葉が出なかった。私は、思いきって言った。「あのおばあさんって、私の未来の姿なのかも・・・」悠太は気味悪そうな顔をしながら、つぶやくように「そんなバカなッ!」と言ったきり、表情が抜け落ち、鉄仮面になって固まってしまった。


【小説】未来から来た女(4)へ読み進める☞

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?