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【小説】未来から来た女(6)

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「なんだよ!その顔は・・・」悠太は、私を睨み返して言った。「なによ!せっかくオモシロい話をしてあげてんのに、ゴルフばっか観てるからよ」私は、したくもないし、行きたくもないトイレに立った。抑え込んでいる感情が、爆発しそうだったからだ。なるべく、穏便に話そうと思っている。
 トイレから戻った私は、平常心を取り戻していた。
「で、一泊したゴルフバッグと、シューズバッグの絹糸は、それぞれどうなっていたと思う」「・・・」悠太は、唄を忘れたカナリヤ状態で、唇を強く結んで固まっている。「笑っちうよね~!おばあさんが出掛けに、結んだ通りのまま、ゴルフバッグもシューズバッグも、車のトランクの奥にあったのよ。でね・・・ご主人に問い正したら、初めは、そうなんだ!自分の道具を持って来ていることを忘れて、クラブでレンタルしたんだなんて、見え透いた嘘をついたので、何処のゴルフ場でしたっけ?何処のホテルでお泊まりでしたの?って、矢継ぎ早に聞いたら白状したらしいの」私は、悠太から視線を離さなかった。「オンナと一緒だったのよ・・・」
「ミホ!許してくれ・・・」って、私が芝居がかった言い回しで、言いだしたら、悠太の右肩が小さく上へ引き攣るのを見逃さなかった。私は慌てて「嫌~ねェ!おばあさんの名前も、ミホっていうらしいのよ・・・」悠太が胸を撫で下ろしているのが、手に取るように判った。
「私、思い切っておばあさんに聞いてみたの。ところで、ご主人のお名前は?って。すると『ユウタ!』と応えたので、やっぱりあのおばあさんは、将来の私なのかなァ~」
 私は、できるだけ意地悪そうな顔で、悠太を覗き込みながら言ってのけた。そして、悠太の複雑な顔をよそに、窓越しの晴れた青空を見上げながら話しを続ける。「そういえば、あなたも社内コンペだって、泊りがけで出かけたころから、ゴルフに興味がなくなったみたいね・・・なんか?あったの?」
 私は、仕掛けた絹糸を、翌日に気づきコッソリ解いている悠太に、何処のゴルフ場でしったっけ?何処のホテルでお泊りでしたの?と聞かなかった。あのとき、問い正せなかったのは、悠太が白状した挙句、勢いで遠くへ行ってしまいそうで、怖かったからだ。そして、今もだ。要するに、あのころから私は悠太にゾッコンなのだ。
「どこへ行くの?」私は、急に立ち上がった悠太に詰問するように言った。デカイ図体には似合わない、消え入りそうなか細い声で、「シャワーだよ」と言い残し、悪戯っ子のように逃げて行く、悠太の背中が、私には、とても可愛く見えた。少しお灸が過ぎたかなって反省していたら、キッチンカウンターのスマホが着メロを奏でた。お友達のアイからだ。


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