証拠書類等の閲覧等請求(国税通則法第97条の3)

1 趣旨


 審査請求事件において、証拠書類等は、民事訴訟手続とは異なり、当事者は審判所に対し、1通のみ提出することとされており、写しが審判所から送達あるいは当事者から直送されない。提出された証拠書類等の内容を確認するためには、通則法第97条の3に基づく閲覧等の請求をしなければなりません。
 この証拠書類等の閲覧等の請求の手続は、審査請求人又は参加人に対し、処分がいかなる根拠に基づくものであるかを知り、これに対する反論をする機会を認める必要があり、公正な審理の促進に資するためである(逐条解説行政不服審査法 平成27年4月 総務省行政管理局)、審理手続の透明性・当事者間の審理の公平を確保するため(平成26年改正税法のすべて)などと説明されています。

2 請求権者


 証拠書類等の閲覧等請求の請求権者については、「審理関係人」(通則法第97条の3第1項)すなわち審査請求人、参加人及び原処分庁です(通則法第92条の2)。
 従前、原処分庁は証拠書類等の閲覧等請求の請求権者とされていませんでしたが、平成26年改正法により、審理手続の公平の観点から請求権者に加えられました。

3 対象文書


 従前、原処分庁が提出した証拠書類等のみが閲覧等の対象となっていましたが、平成26年改正法により、請求人が提出した証拠書類及び審判所が収集した証拠書類等も閲覧等請求の対象に認められました。
通則法第97条の3は、「第96条第1項若しくは第2項(証拠書類等の提出)又は第97条第1項第2号(審理のための質問、検査等)の規定により提出された書類をその他の物件」と規定し、請求人又は参加人が提出した証拠書類等(通則法第96条第1項)、原処分庁が提出した証拠書類等(同第96条第2項)及び審判所が収集した書類その他の物件(同第97条第1項第2号)が閲覧等請求の対象となるが、審判所が関係人にした質問に関する書面(質問調書、同第97条第1項第1号)や検査に関する書面(同第3号)が、通則法第97条の3の規定に含まれておらず、閲覧等請求の対象となっていません。
これは、改正行政不服審査法に合わせた規定(同法第38条、審理員の作成した資料は含まれていない)とされ、「審査請求は、証拠資料に当事者の攻撃・防御の機会を保障する訴訟とは異なり、担当審判官が職権で証拠資料を収集することを認めるなど、簡易迅速に審査請求人の権利救済を図る制度であり、あらゆる資料について攻撃・防御の機会を一律に保障することは、簡易迅速性を損なうおそれもあることから、審理関係人の陳述その他の審理手続の経過等に関して担当審判官が作成した資料は、閲覧等の対象とはされていない。」(国税通則法精解 平成28年改訂1124頁)と説明されています。
 なお、衆議院及び参議院の両総務委員会における改正行政不服審査法案の可決の際に、審理手続における審理関係人又は参加人の陳述の内容が記載された文書の閲覧・謄写について検討を行う旨の附帯決議がなされています。

4  請求先


 通則法第97条の3は、担当審判官に対し、閲覧等の請求をすることと規定しています。

5  開示義務


 通則法第97条の3は、証拠書類等の閲覧等請求に関し、「第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるとき」でなければ閲覧等の請求を拒むことはできないと規定しており、これらの不開示事由がない限り開示することとされています。
 そして、不服審査基本通達(国税不服審判所関係)97の3-2は、「「第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき」とは、例えば、同項の規定による閲覧又は交付を求める者以外の者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるときをいい、また、同項の「その他正当な理由があるとき」とは、例えば、国の機関、地方公共団体等が行う事務又は事業に関する情報であって、閲覧又は交付の対象とすることにより、当該事務又は事業の性質上、それらの適正な遂行に支障をきたすおそれがあるときをいう。」と定めています。
 この点について、学説は、「第三者の利益を害するおそれがある」とは、第三者に経済的または個人的な不利益を与えるおそれがあることを意味する、「正当な理由がある」とは、行政上の秘密や私人の秘密がそれらの文書等に含まれている場合や、第三者が反面調査に応じたことを開示されることに反対している場合を意味すると解すべきであろうとするもの(金子宏、租税法第22版・弘文堂)。また、①第三者に係る議決書、調査書類、②第三者から提出された課税資料及びその存在を推知させるおそれのある記載のあるもの、例えば、投書、密告書、聴取書、反面調査資料、銀行調査記録、③標準料表、効率表、権衡調査記録、④調査方法、調査内容に関する指示事項が第三者の利益及び税務執行上の機密の保護から問題となるとするものがあります(南博方「租税争訟の理論と実際」88頁、弘文堂)。
なお、通則法第97条の3と同様の規定である行政不服審査法第38条については、個人情報保護法第14条各号に規定する不開示情報に該当するものであると解されている(逐条解説行政不服審査法平成27年4月172頁 総務省行政管理局)。

 「正当な理由」に関する裁判例は、旧行政不服審査法第33条2項後段に関するものとして「閲覧拒否を正当化する「正当な理由」とは、審査請求人等の閲覧請求権と閲覧を許可することによって生ずると予測される審査請求人等以外のものの利益の侵害とを調整する概念として理解すべきであるが、(中略)審査請求人等以外のものの利益の中には、第三者の個人的秘密、および行政上の秘密の両者が含まれると解するのが相当であり、そのほか正当な防御権の行使としてではなく、税務行政を混乱に陥れようとするような意図でなされる等、閲覧請求権の濫用にわたる場合も、閲覧拒否についての正当な理由があると解すべきである。しかしながら、閲覧拒否の正当な理由としての第三者の個人的な秘密あるいは行政上の秘密が存在するといえるためには、単に審査庁がその裁量によって右の要件が具備していると認定するだけでは不十分であって、かかる事項が、審査請求人等あるいはそのほかの一般人に知られないことについて客観的に見て相当な利益が存在する場合でなければならない。」とするものや(大阪地判昭和44年6月26日行政事件裁判例集20巻5・6号769頁)、「国公法100条1項は、公務員は職務上知り得た秘密(個人的秘密及び行政上の秘密)を他に漏らしてはならないといういわゆる守秘義務を規定しているけれども、個人的秘密について、法律の定める限られた者に対し、法律の手続きに従ってこれを開示すること迄も絶対的に禁止しているものとは解せられない。したがって、公務員が職務上知り得た個人の秘密だからといって、それだけで常に審査法33条2項の閲覧拒否の正当理由があるというわけにはいかない。閲覧拒否の正当理由があるというためには、単に審査庁が主観的抽象的に第三者らの利益を害するおそれがあると認めるだけでは足りず、客観的具体的にみてそのようなおそれが認められなければならないと解すべきである。」(大阪高判昭和50年9月30日行政事件裁判例集26集9号1158頁)とするものなどがあります。

6 請求期限


 国税通則法第97条の3第1項は、審理手続きが終結するまでの間と定めています。

7 不服申し立て


 国税通則法に基づく証拠書類の閲覧等請求に係る決定は、「処分性」がなく審査請求をすることができないと考えられています(横浜地判平成21年11月4日・税務訴訟資料259号順号11305(控訴審:東京高判平成22年4月22日・税務訴訟資料261号順号11846)、大阪高判昭和56年9月30日・税務訴訟資料120号708頁など)。
 裁決取り消し事由としての違法性が帯びる場合があるのかについては、「閲覧請求権は審査請求人に有利な裁決を得るための手続き的利益を保障したものであるから、裁決がその取消事由に該当するほどの違法性を帯びるのは、審査請求人が閲覧請求拒否に係る書類その他の物件に対し適切な主張や反論を提出することによって、当該裁決の結論に影響を及ぼす可能性のある場合に限られるものと解するのが相当である」とする裁判例があります(上記大阪高判昭和56年9月30日・税務訴訟資料120号708頁)。

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