口頭意見陳述(国税不服審査)

概略


 国税不服審査請求の審理手続きは、原則として書面審理ですが、審査請求人は、申立てをすることにより、担当審判官に対し、口頭で事件に関する意見を述べることができます。申立てがあった場合には、担当審判官は、原則としてその機会を与えなければならないとされています。(口頭意見陳述、国税通則法95条の2第1項)。
 口頭意見陳述では、原則として、原処分庁も出席することとされていることから(国税通則法95条の2第3項、84条2項。平成26年改正による)、審理関係人が一堂に会する場で意見を述べることができるということになります。


 
発問権


 平成26年改正では、口頭意見陳述の期日の際に、意見陳述の申立人が、担当審判官の許可を得て、原処分庁に対し、質問をすることができるようになりました(同95条の2第2項)。これは、質問、回答を通じて、攻撃防御の対象を明確にすることで手続保障の機会の充実を図ることを目的としたものであるとされています。

運用

 一般的には、口頭意見陳述を申立てた者に対して、事前に、意見陳述の要旨と質問事項を提出するように依頼がされます。

 これは、国税通則法95条の2が準用する84条5項に担当審判官は「申立人のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる。」とあり、また、質問事項について担当審判官が許可・不許可の判断をする、口頭意見陳述の期日に原処分庁に回答をさせるため(当日質問されても、組織として回答するために、持ち帰られてしまいその場での回答が得られない)といわれています。

 また、口頭意見陳述の申立てをしてから、期日が開かれるまでおおよそ2か月前後かかることが多いようです。日程の確保、質問事項の提出期限、原処分庁が質問に対する回答を準備する期間が必要となるからです。

  なお、口頭意見陳述の期日に行った意見陳述は主張として取り扱われますが、あくまで攻撃防御の対象を明確にするためのものなので、質問及び回答は主張にも証拠にもならず、その内容を何らかの形で主張に反映させたいのであれば、別途主張書面を提出することになります。

どのように活用するか


 国税審判官の任期中に、担当審判官あるいは参加審判官として、口頭意見陳述に関わる機会が何回かありました。この手続きを請求人側として有効に活用するためにはどうすればよいか、その経験を踏まえて思ったことを述べたいと思います(個人の意見です(笑))。
 書面審理とはいえ、通常、担当審判官は請求人と面談し、審査請求の趣旨、理由などの確認をしており、その際に請求人は、口頭で説明や補足をすることができます。
 担当審判官に対し、意見を口頭で陳述することができる、といっても、審査請求書や反論書、その他の主張書面で自らの意見を書面で提出しているうえ、このように、請求人面談の機会に口頭で主張の説明、補充ができますから、原処分庁が出席しているとはいえ、主張書面と同じ内容の意見を陳述するのであれば、特段の意味はないと思われます。あえていえば、主張するところを強調し印象付けたり、念押し、ダメ押し的な形での意味合いで使うことになるでしょうか。
 とすると、意見は陳述するとしても、口頭意見陳述を申し立てる大きな意味は、原処分庁に対する発問権の行使ということになると思います。

どのような質問をするのか


 発問権が認められた趣旨が「質問、回答を通じて、攻撃防御の対象を明確にすることで手続保障の機会の充実を図ることを目的」とされていますから、原処分に記載されている理由及び答弁書で主張されている原処分が適法であるとする理由について、不明確な点を問いただし、攻撃防御の対象や適法とする理由が不十分であることを浮かび上がらせることを目指すこととなると思います。

 しかし、通常は、不明確な点の釈明を書面で求めることも多いため、あえて口頭で質問をぶつけることの意味があるものとするために、質問事項を検討しなければならないと思います。ふつうに質問したところで、これまでの書面に記載してあるとおりという回答が返ってくるのが予想できます。

 不明確な点、不十分であると思われる点が、法令(通達)解釈の問題なのか、事実認定の問題なのか、少なくともこの点を意識しつつ質問事項を考えることになると思います。

どの段階で申立てをするか(期日の開催を求めるか)

 では、審理のどの段階(時期)に口頭意見陳述の申立てをし、期日の開催を求めるのか効果的になるのでしょうか。

 原処分庁が答弁書を提出し、請求人が反論書の準備をするといった早い段階で求めるのが一つ、ある程度お互いの主張が出揃って終結が近づいている段階で申し立てるのも考えられます。

 前者の早い段階での申立ては、攻撃防御の対象を明確にする、争点の整理をするという観点からいえば適していると思います。どの部分を特に請求人が問題としているのか浮かび上がり、その後の主張の濃淡をつけることができるようになると思います。

 後者の終結が近づいている段階の申立ては、攻撃防御の対象を明確にする、争点を整理するという観点よりも、主張書面の応酬がなされたけれど、原処分庁が適法とする理由が不明確、不十分である、ということをより際立たせるための方策の一つとして行うという考えもできると思います。ただ、あまり遅いと審判所の心証が既に固まっている可能性もあるので効果的となるかはわかりません。

終わりに

 単に不満をぶつけたり、ガス抜きのように利用しても、原処分庁の回答によっては、さらに不満やガスが溜まる結果となってしまいます。書面審理が原則であるところ、あえて口頭で意見を陳述し、原処分庁に質問をする、という機会を効果的なものにするためには、何のためにするのか、何を得ようとするのか、そのためにいつ申し立てるのかを吟味することが肝要と考えます。何事もそうですが。

 

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