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 深緑のアーチから刺しこむ木漏れ日の一本道。私はその右脇の暗い砂利道をザッザッと擦って歩く。靴底から砂利を転がす感覚が伝わってくる。柔らかく透明な冷気は顔の動きを鈍くさせた。
 古くなって誰も使わなくなった林道には、傾いて倒れそうな錆びた標識や歯抜けのガードレール、空に楽譜を作る送電線。これらはディストピアの哀愁と美しき腐敗を感じさせてくれる。

 私はその世界に迷い込んだ人間。着ている服には点々と茶色のシミがあって、腕には二筋の大きな切り傷が平行になっている。まだじんじんと熱を持っていた。なんだかイラついてきた。
 喉がひりひりと渇いて、頭がずきずきと痛む。死んでしまいそうな気がして、何とかしなければと焦ってしまうが、ここがどこか分からない以上どうすることもできなかった。

 とぼとぼと日陰を歩いていると、真っ白い光の玉が向こうの空間に張り付いているのが見えた。目が眩むほどの光を放つそれは、微動だにせず、ただじっとしている。
 好奇心のまま近づいてみると、それは浮いているのではなく、やはり張り付いていた。まるで紙のように立体感がなく、ただ周りを強烈な光で照らしている。
 目を少しずつ細めて、さらに近づいていく。どこまで近づいても平面にしか見えない玉は、たしかに三次元的に辺りを照らしている。なぜか胸が熱くなる感覚があった。

 私はそれに心奪われてしまっていた。目を見開き、その光を全て受けとめて視界を純白に染め上げる。
 気づくとその玉は消えていて、辺り一面真っ白だった。光以外何もなかった。
 私は一歩踏み出した。足音はなく感触もなかったが、何かの上にいる感覚はあった。私は歩かずに、そのまま座り込んだ。

 それからどのくらいたっただろうか。座り続けても足が痺れることはなく、苦にも感じなかった。ただこうしていることが当たり前で、生まれた時からそうだったような気がしていた。

 彼女は時間の感覚さえなくなるほど座り続けていた。真っ白な空間の中で、ただひとり、彼女のまま座り続けていた。

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