昨日の朝から一度も外の世界を見ていない。カーテンは閉め切ったままで淡い光が漏れている。床には空になった2Lのミネラルウォーターのペットボトルが粗末に転がって、いつ買ったかわからない服が入ったままのショッパーが壁に寄りかかって、こちらを見ているようだ。
 今日は友達と会う予定がある。そいつは高校時代の付き合いで、気さくだが変わっている。歩いていてぶつかった子供に喧嘩を売ったり、一人で山に行くと言い出したと思ったら海に行ったり、めちゃくちゃなやつだ。それでも友達が少ない俺にとって貴重な存在だった。

 重い上半身をゆっくりと起こしていく。そのまま2分くらいボーっとしてみた。そうすると意識がはっきりしてきて周りが良く見えるようになる。そうして毎朝部屋の汚さに絶望する。
 ベットから降りて床の障害物を踏みつけないように洗面台へ向かう。いつもなら洗顔はしないが、外出する日は仕方なくやっていく。
 鏡の中の自分と見つめ合って洗顔の手順を考える。まず、予洗いしてから洗顔フォームをネットで泡立てる。泡立てたそれで額から転がすように広げていく。満足いったら水で流す。水気を拭いたあと、オールインワンタイプのクリームを塗って終わり。よし、やろう。

 一昨日は仕事が特に忙しくて、どっと疲れてしまった。上司に怒られて精神的な疲労もたまっていた。もう働きたくないと、もうどうでもいいと思って一日中ベットに潜り込んでいた。賃金は上がらないくせに物価だけは上がっていって生活は苦しくなるばかりだ。じきに死ぬしかなくなるんじゃないか、と思うようになってきた。そんな生活の楽しみと言えば、今日のように友達と会ったりするくらいだった。
 最近寒くなってきたから、昔から着ていた長袖の上着を収納から引っ張り出して羽織る。顔洗ったし髭も剃ったし寒くない格好もしたし大丈夫だと確認した。大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。
「よし!」
 玄関のドアを勢いよく開くと、パッと秋の朝がなだれ込んできた。
 

 

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