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白い君と、黒い私

「大好きだと思う。でも、まだどこか確信じゃなくて。早く確信に変えたい。」

誤魔化しの嫌いな私が、彼のそういう率直な部分に惹かれてしまったのは言うまでもありません。

メンヘラが苦手なところ、MBTIが同じだということ、味噌汁椀にご飯を入れるところ......
共通点を探せばいくらでも出てきそうな程、私たちは似ていました。

だからこそ、簡単に好きになれない、なってはいけない、そんな相手なのではないかと考えてしまいます。

言わば、鏡なのです。

自分自身のことを認めて愛するのが難しいように、彼も私も、納得がいかない、譲れない何かが存在していて、甘やかな関係性ではいられないような気がしてなりません。


初めて直接目にした彼は、この上なく純潔で、素直で、綺麗な人でした。
容姿だけでなく、心も甚だ美しいのです。
彼は謙遜していたものの、少なくとも私の目にはそう映りました。

魅力的すぎる程に魅力のある人ならば、さらにその相手に好意を持たれているのならば、迷わず一緒になるべきだ、と考える人もいるでしょう。

けれども私の脳は、彼が魅力的すぎるからこそ、酷く困惑しているのです。
困惑という言葉が適切かどうかは分かりません。
ただ、何か胸騒ぎがして、落ち着かないのです。

彼と私が鏡だとは言っても、そっくりそのまま映しとる鏡ではありません。

似ているようで対極にいるような、本物の鏡と同じようにお互いが交わることのできない場所にいるような──

異なる水が混ざっても温度が同じであれば気がつかないように、無意識の領域で起こっている小さな小さな違和感に、もしかすると私は気づいてしまったのかもしれません。


彼は、私の不正確な定規では測れない、とても真っ直ぐな生き方をしています。
自分にも、他人にも、嘘をつけない人なのでしょう。

会った初日に、彼のセクシャリティについてカミングアウトを受けました。
その内容は、少し意外なものでした。

彼が私を信じ、曝け出してくれた事実があるというのに、果たして彼は私のことを本心から愛せるのか、疑ってしまう自分自身に対しても嫌気が差します。

彼は、女性と情交をしたことがないと言います。
彼の瞳は明鏡止水で、それが事実だということも感じ取れます。

ただ、私はこうも思うのです。

私が彼を受け容れた瞬間から、彼が大事にしている"何か"を変えてしまうのではないか、と。

綺麗で澄んだ水に墨を垂らすような背徳感に襲われて、呼吸のし難い感覚さえあるのです。

きっと彼は、私がこのようなことを考えるのを嫌うでしょう。
彼が、私の全てを受け止めようとしてくれていることに、私自身も、既に気づいています。

けれども、私は未だ、燻り続けています。


私の願いは、ただ一つだけ──

もしも私たちが交わるのなら、私の黒から抽出した色で、少しずつ、少しずつ、彼を濡らしたい......

彼には綺麗な色だけを知ってほしい、今はただ、ただそれだけなのです。

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