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あなたのせなか

いつも隣で笑っていたあなたの横顔が、すこし前へ進み、見えにくくなった気がします。

背中越しに浮かぶ表情は、いつもの綺麗に並んだ歯がトレードマークの笑顔かな。
でも少し上向きの顔は、この先の未来に希望を膨らませているようにみせて、目に溜まった大切な思い出をこぼさないように隠しているようにも見えます。


* * *


私があなたを推すことになる前。
あなたの少し大袈裟なくらいの表情やダンスを遠くからみて、元気をもらっていました。でも、前からしかあなたを見ていなかった私は、表の顔だけしか見れてなかったように思います。

あなたがその表情を見せなくなった日。
姿は見えていないのに、"あなた"という存在が心に灯り始めたような時間がありました。心の中で刻み始めた時計は、あなたがひょっこり顔を出した時、より強く、胸の奥で音を立てていました。

そして次にあなたが現れたとき。
あなたは私の隣で優しい微笑みを見せた後、力強く前へ走り出しました。小さな後ろ姿には大きすぎるくらいのものを背負って。でも「任せてください。だいすきです」という言葉は、心配を信頼へと変えていきました。
これが前から見ていたあなたの"せなか"を見た、初めての瞬間でした。


それからはずっとあなたのせなかを追いかけて。
走り出したあなたは早すぎて、少し遠くなりそうな時もあったけど、時より笑いながら後ろをみたり、時には力強く手を引いてくれたりする優しさを、いつも忘れずにいてくれました。

あなたのせなかを追いかけるように、
「私が走り出せた瞬間」でもありました。

あなたがくれる言葉は私に勇気を授けてくれて、これまでの私より強くなれた気がします。あなたがくれた翼でいくつもの壁を乗り越えられました。

強くなれた私が隣に追いつけそうになった頃。
あなたの足が少し止まりました。
前へ飛び出した私があなたの方を振り返ったとき、初めてあなたの表情を前から、近くで、見たことに気づきました。そこでみたあなたの顔は、遠くで見ていた昔には見えなかった、繊細に表現された思いが無数に込められた、笑顔でした。

今度は私があなたの手を引いて。
ゆっくりと歩み始めました。

「思いが置いてけぼりにならないように。」
みんなに背中を押され走り出しそうになる気持ちを抑え、生まれる感情のひとつひとつを溢れさせないように、大切に育てるあなたの横顔は優しすぎるくらいでした。
楽しい嬉しい感情にこぼす笑顔も。
悲しい寂しい感情に向ける微笑みも。


そしてまたあなたが走り出した時。
今度は隣で走れる私がいました。

私があなたを見たとき、見える景色はあなたの横顔だったけど、感情を一緒に育てた期間は、十分すぎるくらい、私にあなたの心のすべてを伝えてくれました。

あなたが紡ぐ言葉に込められた気持ちをひとつずつ解きながら、また私の気持ちを紡ぎ、あなたへ届ける。この心を繋ぐやりとりは何より大切な時間でした。

あなたが辛いときは少しゆっくり、嬉しいときは思いっきり早く。声を掛け合わずにもそう走れていたのは、言葉を紡ぎ合う中で、あなたの心が私の中に居てくれるようになったからかもしれません。




そして、いま。
あなたはまた一つ前へ踏み出しました。

再び見たあなたの"せなか"は、あのとき見た背中より随分と大きく誇らしげに笑っています。

「ほら、いくよ。」

そう語りかけるあなたの"せなか"に押されるように、私も少し歩幅を大きくし、隣へ並ぶこととします。


心が導く方角へ向かって。

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