[連載物] ダブルピン〜その5
電車は渋谷駅につき、その女性は電車を降りるためにスマホをポケットにいれ態勢を整えた。
電車のドアは開き、自分とは逆の方の階段へと歩いていった。駅から職場に行く途中、やや肩を落とし考えた。美容師として、いや人として教えてあげられなかったことがどうだったのだろうか。そこまで深く考える必要はないと思う方もいるだろう。そうだ、大した事ではない、それによって誰かの大変な事故につながるわけでも無いのだから気にすることはない、そう自分に言い聞かせた。
何に負けたわけでもない、何かに勝つことが良かったわけでもなく、ただ何が正しかったのかを渋谷駅からサロンまでの道のりで考えていた。
この日の朝はメーカーの営業の方による新しい商品の紹介だった。
何の商品だったかは定かではない、新しいカラー剤の紹介だった気がする。10時ぴったりにディーラーと一緒に現れたメーカーの営業の方は女性だった。
「まさか!」
とは思ったが、電車で見たあの女性…ではない。打ち合わせが始まってもどうやら気になってしまうらしい。その女性の前髪が浮きやすい前髪でないか見てしまい、
心の中で「お世話になります。」
とつぶやく自分がいた。
おわり
この「ダブルピン」はノンフィクションです。
ありそうでない、なさそうではありますが実際にありました。
なかなか、知らない人が話しかけづらいご時世ではございますが、皆さまはどうしますか?
前髪限らず、何かしらが不自然に感じるものが洋服に着いているのを見かけた時、
教えてあげますか?
優しさをお持ちのあなたは、声をかけるでしょうね。
そして、「あ、ありがとうございます」と言われる事を想像したでしょう。
では、もしその方がファッションの一部として付けていた場合…
ほんの少し、ゾワっとするものがありますよね。
でも、未だにあの時どうしてあげれば良かったのか、わかりません。
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