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地方自治体DXは、本当にできる? (4)

先月からの対談は、地方自治体DXの今と未来について、武蔵大学社会学部メディア社会学科教授であり、総務省「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」の座長である、庄司昌彦教授にお願いしている。

コデラは3年前まで、許認可関係の業務で地方行政を相手に仕事する機会も多かったのだが、当然紙とハンコの世界であった。ただハンコも、紙業務に対しては最適化されたルールで動いていて、訂正印を押せば書き直ししなくてもいいし、捨印があれば訂正印も要らないというルールは、代理で業務を行なう人間には便利なシステムだった。それがなければ、なにか小さい訂正がある度に本人に送り返してハンコ押して返してもらうみたいな業務が延々と続くことになる。

業務のデジタル化によって、デジタル署名などがハンコに代わるようになったが、同一性にこだわるあまり、訂正印や捨印に変わる簡便な修正システムがないことは問題であると考えるようになった。

(全5回予定)


小寺:デジタル化した行政手続きの話に進みたいんですけど。

僕、許認可関係の仕事をしてるときに、めっちゃ紙とハンコの世界を経験してるんですよね。その中で、必要ないのに押してた部分というのもあることはあるんですけど、でも、捨印とか押してればいくらでも訂正できる、みたいな、すごくラフなところがあって。

庄司:(苦笑)。捨印はヤバい。

小寺:捨印やばいですよね(笑)。ただ、あれはあれで便利っちゃ便利で。

やっぱりデジタルの課題って、改ざんの阻止の一方で、訂正のやりやすさとの両立が課題になるんじゃないかと僕はずっと睨んでるんですけど。今、実際に地方DXに関わっていて、そのあたりの問題意識はありますか?

庄司:おっしゃる通りで。企業の方なんかも言ってましたけど、「ハンコを見直そう」と言った時に、それにぱっと代われる電子的な契約のシステムがあったか、というとあんまりなかったんですよね。クラウドサインとかのオンライン立ち合い人型、とかなんとかっていうのが認められるようになって、お墨付きをもらって普及し始めてますけど。

武蔵大学社会学部メディア社会学科の庄司昌彦教授

修正がしやすいとか、そういうのをデジタルで実装するというところを、まだ洗練させ切れてない、という状況なんじゃないかなと。だったらもうハンコ押しちゃったほうが早いよ!というふうにしがち。もういいよ、ハンコ持ってくから!みたいな感じですね(苦笑)。そういう感じになっちゃってて、そこはやっぱりITの世界の人たちがもっと頑張らなきゃいけないところじゃないか、と思いますけどね。

小寺:そのへん標準化システムの中には、仕様としてはあんまり組み込まれていない感じですか?

庄司:正直ですね、今、標準化をやっているのは、急がなきゃいけない、というのもあって……機運があるうちにやらなきゃいけない。5年という期限が区切られてるんですけど、5年でやりきらなきゃいけない、ということを考えると、現行の制度で標準化する、揃えるのでせいいっぱいで。やり方をデジタルに変える、トランスフォームしたうえで見直す、というところまで行ってないんですよ。だって、「印鑑登録システムの標準化」とかやってますし(苦笑)。

それ以外にも、いろんな帳票、紙で出すものとか、全然残ってますよ、まだ。それはもうしょうがないと思ってて。その制度の見直しまでやってからシステムを、となると10年仕事になっちゃうし、10年、この勢いが続くかどうかもわからないので。だから、先に現行制度のまま標準化しちゃおう、というふうになっている。

ただ、標準化してしまえば。しかも、大手ベンダーが提供するシステムをSaaS型で自治体は使うことになると思うので、標準化してしまえば改革はしやすくなるはず、というふうに思ってますけどね。

小寺:でもそれ、やり方を変えるとなると、今度は各自治体の条例を変えなきゃいけない、という話にもなる。

庄司:ものによってはそうなりますね。

小寺:そうなるとやっぱり、47都道府県全部の条例がいっぺんに変えられるかというとそんなことはないわけで。

庄司:47どころか、1700自治体の条例も。2000個問題*ですよね。

(*個人情報保護に関わる法律や自治体が制定した条例は、合計すると2000個にも及ぶ。これが広域連携や情報利活用の障害となっている)

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