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小寺の論壇:自家製AIにこだわらなくなった、Adobeの動画戦略

4月13日から17日の5日間、米国ラスベガスで今年もNABショーが開催された。例年このタイミングで新製品や新機能を発表するメーカーは多いが、今年はAdobeのPremiere Proの戦略が興味深い戦略を取ってきた。

これまでAdobeは、生成AIに関する著作権侵害やフェイクの問題をカバーするため、様々な施策をとってきた。FireFlyの学習には権利を取得した素材しか使わないとか、画像に来歴を埋め込むCAIといった取り組みを進めている。

一方でPremiere Proのアップデート計画では、FireFly以外の動画生成AIも組み込むことが発表された。

具体的にはOpenAIのSora、RunwayML、Pikaが組み込まれる予定だという。動画生成に関しては、権利的にクリアな学習用動画を買い取るといった施策を打ち出したところだ。つまりこれの意味するところは、動画用FireFlyの完成を待っていたら間に合わない、という判断をしたという事である。

どのみち、編集ツールに生成AIがインテグレートされなくても、使う人は使うのだ。それなら、対応してますを前面に打ち出して、顧客を囲い込んだ方が賢明だ。

もう1つ興味深いのは、これらのツールが映像合成専門ツールのAfterEffectsではなく、編集ツールのPremiere Proに組み込まれるということだ。つまり素材やカットごとの高度なマニュアル合成はAfterEffectsでやり、生成AIは手作業を省略するため、あるいは喫緊の問題を解決するために、もっとフィニッシングに近い領域で使うという事である。

■カットの続きを作る「生成拡張」の見どころ

Adobeが公開した説明動画では、いくつかの提供される機能が紹介されている。これについて、もう少し個別に説明していこう。

「生成拡張」は、微妙に足りない「尺」を伸ばしてくれる機能である。尺が足りない理由は色々ある。編集時にはこれでよいと思っても、音楽を入れたらもう少し長さが必要になったとか、トランジションエフェクトをかけたいけどお尻の長さが足りないとか、そうしたことは編集時にはままある。

コデラが実際に経験したのは、テレビCMの制作で、捨てカットの長さが足りない、というケースである。捨てカットとは、OAで使う部分の3秒前から、映像は存在しなければならないという放送上のお約束である。

一時期は最初のコマを静止画にして付けとく、という手法もとられたこともあるが、それだとOA時に静止画のコマが出てしまうことがあるため、敬遠されるようになった。なので、動いているコマを作る必要がある。

そこでコデラがよく使っていたのは、リバースである。最初のカットを逆転再生して、前にくっつけるわけだ。フィックスでカメラを構えていた場合は、まずわからない。

一方Adobeが公開した動画で行なわれているのは、そのカットを学習してその続きを作る、という手法のようだ。ズームインしていれば、その続きを作ってくれる。人物もカメラも微妙に動き続けているのがポイントである。続きを作るというのは人間でも予想できる動きだが、逆に前を伸ばすというのは、生成AIならではだろう。

またこの機能が生成AIで可能なのであれば、等速で撮影した素材からスーパースローを作るというのは、すぐできそうだ。等倍撮影の動画をスローにすると、間のコマがないのでカクカクするが、AIがコマトコマの間を自動生成すれば、滑らかなスローが実現するはずである。

そもそも2倍ぐらいの補完なら、すでにテレビやプロジェクタの中に組み込まれている。「フレーム補間」と呼ばれる機能がそれだ。それのもっとスゴいヤツは、案外すぐできるのではないだろうか。

そうなると、だんだんカメラのハイフレームレート撮影は必要なくなってくるだろう。もちろん、「本当にそうなっている」という根拠が必要なスポーツや化学実験、犯罪捜査などの領域ではAIが変わるわけにはいかないが、本当にはいフレームレート撮影が必要な場面は限られてくるかもしれない。

■既存技術を上手く使った「オブジェクトの追加と削除」

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