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テメーらクソヤローどもを、武道館まで連れて行ってやるからな! これからはNOAHの時代を築く拳王…オレについて来い

これは2017年11月19日、NOAH後楽園ホール大会で「グローバル・リーグ戦」(現・N-1 VICTORY)を制した後にマイクで語った言葉だ。2021年2月12日に10年2カ月ぶりの日本武道館大会が実現している現在では特に驚きはしないだろう。しかし、当時のNOAHにとって日本武道館大会開催はあまりにも現実離れしていた。2016年11月1日に株式会社プロレスリング・ノアは、エストビー株式会社(7日に社名をノア・グローバルエンタテインメント株式会社に変更)に事業譲渡を発表。同年12月で鈴木軍との抗争を終え、内部活性化を目指すことになる。

 とはいえ、鈴木軍撤退後のNOAHは、はっきり言えば団体として戦力不足だった。内部活性化というのは聞こえがいいが、ヘビー級は鈴木みのる、飯塚高史、ランス・アーチャー、デイビーボーイ・スミスJrらの抜けた穴がポッカリと空いた状態。丸藤正道、杉浦貴という大黒柱がいたものの、2015年11月に古巣帰還を果たした潮崎豪はまだファンからの拒絶反応があったし、中嶋勝彦もGHCヘビー級王者として真価を問われていた時期だ。

 そんな中で拳王は2017年からヘビー級へ転向した。2014年よりNOAHを主戦場としてGHCジュニアヘビー級タッグ王者になるなどジュニア戦線の主軸となっていたが、本来のポテンシャルからすれば、決して満足できる活躍ではない。もっと上…つまりNOAHの頂点であるGHCヘビー級王座を目指すため、戦力不足となったヘビー級戦線の起爆剤となるため、階級を変更したのである。

 鈴木軍撤退後の再建を迫られたNOAHヘビー級戦線に拳王は新風を吹き込んだ。いきなり2017年1月21日の大阪大会でGHCタッグ王座を奪取(パートナーはマサ北宮)。7月にはZERO1のシングルリーグ戦「火祭り」でインパクトを残し、刺激的な言動も相まって次々とその頭角を現していた。

 その勢いのままに発したのが「グローバル・リーグ戦」初出場初優勝直後の「武道館まで連れて行ってやるからな」宣言だ。ファンはその実現に胸を躍らせながらも、実際にはすぐには無理だとわかっていた。拳王もそれは十分承知。その上で、NOAHファンの誰もが不可能かもしれないけど、いつか叶えたい夢物語をあえて言葉として“クソヤローども”へと届けたのだ。

 拳王はなぜ「グローバル・リーグ戦」を制した後、絵空事のように聞こえる日本武道館大会をぶち上げたのか。インタビューでこんなことを語っていた。

「NOAHと言えば、両国国技館じゃない。さいたまスーパーアリーナでもない。東京ドームでもない。NOAHのファンが一番行きたいのは日本武道館だろ」

「別に1カ月、2カ月、半年、1年で行けるなんて甘い考えは持ってない。2年、3年かけて小さなことからコツコツと積み重ねた上で行けるものだとオレは思ってる。そこは勘違いしないでほしい。選手たちもクソヤローどもも武道館に行きたいだろ。みんなで一緒に歩んでいこうって意味での発言だった」

「目の前の目標を言うんじゃなくて、もっと大きな夢のある客の心に響くことを言ってやった方がいいだろ。後楽園は武道館へのハードル。後楽園だけじゃない。大阪、名古屋、ほかのいろんな都市でもNOAHっていうエネルギーを蓄えたい。ファンに夢を提示していくのはプロレスラーの仕事だろ。今までNOAHの選手がそういうことを言ってこないのが残念だったよ。武道館を知ってるからこそ、そう思うんだろ。NOAHの過去を知らないオレが新しい顔になって、新しい風を吹かせていくよ」

 当時のNOAHヘビー級戦線のトップは丸藤、杉浦、潮崎、中嶋。彼らは日本武道館からの撤退を経験している。当時の状況を鑑みれば、再進出がいかに困難な道かわかっていた。そんな閉塞感を壊し、これからのNOAHが目指すべき場所を明確化するため、拳王は当時はあまりにも大きすぎる風呂敷を広げたのである。

 2017年12月22日、NOAH東京・後楽園ホール大会。拳王はエディ・エドワーズからGHCヘビー級王座を奪取。初挑戦初戴冠という偉業を成し遂げ「このNOAH、三沢さんが創りました。三沢さんに関わりのないヤツが初めてこのベルトを取ることができたぞ」と宣言した。

 拳王は第30代王者。2001年4月の創設から16年8カ月以上、GHCヘビー級ベルトは三沢さんと接点のある選手が巻いてきた。そんな歴史に新たな1ページを刻み込んだ。

 その一戦後に海外武者修行から凱旋してきた清宮海斗が拳王に挑戦を表明。NOAHの歴史が動いた一戦は、現ヘビー級戦線の一大対立軸が出来上がった瞬間でもあった。

 拳王はGHCヘビー級王者として、清宮、宮本裕向の挑戦を退けたが、2018年3月11日に杉浦貴に敗れて陥落。日本武道館再進出という志半ばでベルトを明け渡すことになった。しかしながら、団体の求心力が低下していた中で大風呂敷を広げ、ファンの支持率を高めたことによって、NOAHのヘビー級戦線に欠かせない重要な選手になっていく。

 それからのNOAHは清宮の飛躍、レジェンド世代の爆発もあり、団体としてステップアップ。拳王は反骨集団「金剛」のリーダーとして常に最前線で闘い続け、その一翼を担ってきた。

 大きな転機となったのはサイバーエージェントグループ入りと2020年春の新型コロナウイルス禍。NOAHは各団体が大会の中止を余儀なくされる中で、カメラマンの防護服着用など感染対策の徹底をしながら、インターネットTV「ABEMA」とプロレス動画配信サービス「WRESTLE UNIVERSE」における無観客TVマッチに活路を見いだす。

自粛が当たり前になってしまった世の中でNOAHは力強く積極的にプロレスを提供し続け、ついに2020年12月6日、東京・国立代々木競技場第2体育館大会のオープニングで、10年2月ぶりとなる日本武道館大会開催を発表するに至った。

奇しくもその当時の拳王はかつてのUWFを彷彿とさせるような格闘色の強いファイトで、GHCナショナル王者としていち時代を築いていた。日本武道館再進出が発表された代々木大会も、総合格闘技のレジェンドであり、NOAHでプロレスラーとしての新境地を発揮していた桜庭和志の挑戦を退けた。ちなみに、その一戦の試合内容はあの武藤敬司も絶賛していたという。
自身が言い続けてきた日本武道館大会の正式決定について、拳王はこんなことを語っている。

「オレがずっと言ってきたこと、とうとう実現するだろ。テメーらクソヤローどもに言ってやるぞ。叶わない夢なんかないんだよ! 夢は実現させるためにあるんだよ。メチャクチャ大きな夢、ちょっと委縮して声に出さないっていうのはやめておけよ。3年前、NOAHが日本武道館に帰れると思ったヤツいるか? いねぇだろ。オレが言い続けてきたんだ。そしたら少しは心の片隅に置けるようになっただろ? そこから徐々に徐々に夢、近づいていくんだよ。
いいか、テメーらクソヤローどもに言うよ。今の世の中、不自由あるかもしれねぇ。だがな、夢はあきらめるな。夢を追いかけ続けろ。そしたら必ず実現する。それが夢ってもんだ」

 確かに拳王が「テメーらクソヤローどもを、武道館まで連れて行ってやるからな!」と叫んだ時には夢物語だった。だが、そのマイクが言霊となり、約3年という年月を経て、正式決定に至る。こんなドラマティックな物語を誰が描くことができるのか。

 迎えた2021年2月12日、NOAH10年2カ月ぶりとなる日本武道館大会。拳王はプロレスラーとして初めて踏み入れる夢舞台にGHCナショナル王者として臨み、UWFの申し子と言える船木誠勝の挑戦を格闘技色の強い試合の末に退けた。

同大会はメインイベントで武藤敬司が新日本プロレスのIWGPヘビー級王座、全日本プロレスの三冠ヘビー級王座に続いて、NOAHのGHCヘビー級王座を奪取し、日本プロレス界三大王座制覇という偉業を史上3人目に達成したことがクローズアップされている。だが、そのセミファイナルで拳王が船木というレジェンドを破って「NOAHをもう一度、業界1位までのし上げる」と言い放ったことも、プロレス界のエポックメーキングだった。

2度目の日本武道館大会が今年の元日に開催決定した時も、拳王は驚きの行動に出る。奇しくも1月1日は拳王の誕生日。ずっと言い続けてきた夢舞台=日本武道館大会が自身37回目のバースデーにおこなわれる。こんなに記念すべきことはそうそうない。

昨年2021年11月13日、神奈川・横浜武道館大会で望月成晃を破って、GHCナショナル王者になった拳王は「オレの夢、日本武道館大会、そして、もう1つ、オレの夢があるぞ。日本武道館のメインに立つことだ。メインに立つためには、GHCヘビーのベルトも必要だ」となんとGHCヘビー級王者・中嶋に2冠戦を提案。11月28日の代々木大会で雌雄を決したが、60分時間切れ引き分け。両者防衛という結果となり、拳王は誕生日におこなわれる日本武道館大会のメイン出場を逃した。

しかし、夢舞台に向けた並々ならぬ意気込みを感じさせたことは事実。今年1月1日、拳王はGHCナショナル王者として清宮の挑戦を退け、見事、誕生日にベルトを守り抜いた後でこんなことを語っている。

「メインで最後に入場するのは叶わなかった。だが、あと日本武道館、2大会開催されることが決まったな。チャンスはまだまだあるだろ。オレはあきらめてないぞ。そのためにも今日防衛したんだ。これからこのベルト、ずっと守り続けて、GHCヘビー、そのベルトもいただく。そして、7月、来年の1月、オレが日本武道館大会、メインで最後に入場してやるからな」

 同大会では今年7月16日(土)、来年1月1日(日)の日本武道館大会が発表されていた。拳王の視線はすでに次なる夢舞台に向いていたのである。

その後の1月22日のエディオンアリーナ大阪・第2競技場大会で船木誠勝に敗れてGHCナショナル王座から陥落。6月12日の「サイバーファイト・フェスティバル2022」さいたまスーパーアリーナ大会でおこなわれたGHCヘビー級選手権では、新日本プロレス・小島聡が王者の潮崎を破って、史上4人目のグランドスラム達成。至宝流出の危機に拳王はいの一番に行動を起こした。

「小島聡、お疲れのところ悪いな。ひと言だけ聞いてくれ。NOAHは、新日本プロレスの天下り先じゃねぇんだよ! このことはな、ここ数年ずっと思っていたぞ。武藤敬司もそうだ、藤田和之もそうだ、そのほかにもいっぱいいるだろ! 小島、NOAHはな、新日本プロレスの天下り先じゃねぇからな! 過去の栄光のおこぼれ頂戴してるようじゃ、NOAHに、そしてサイバーファイトに未来は見えねぇよな! オレが未来を切り開いていってやるぞ。NOAHで一番権威のあるそのベルト、オレに挑戦させろ」

この挑戦表明を新王者の小島も快諾し、拳王のGHCヘビー級王座挑戦が決定。決戦の舞台は

7月16日、日本武道館大会のメインイベント

だ。
3度目の夢舞台も最後に入場することはできない。しかし、小島に勝てばGHCヘビー級王者として最後に花道を引き揚げることならばできる。日本武道館大会のメインイベントで至宝奪還。拳王にとって、これほどまで奮い立つシチュエーションはないだろう。


さらに、チャンピオンとして防衛し続けていけば、自身38回目の誕生日である来年1月1日の日本武道館大会で最後に入場することができる。7月16日、拳王の夢物語が現実になる瞬間を同じ空間で共有することは「クソヤロー」の責務。今こそ、NOAHの時代を築く拳王についていくしかない。

週刊プロレスNOAH担当 井上光

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