回想 (2)

―― 息が・・苦しい。

カーテンの隙間から、うっすらと月の光が部屋を照らしている。

ベッドで横になっていた私は、息苦しさで目を覚ます。どうにか楽な体勢にしようと体を起こしたが、なかなか発作は治まらない。私は喘息だった。

息をすると、胸がヒーヒーと音を立てる。胸のあたりを手で押さえながら、ベッドを抜け出すと、よろよろと階段へ向かった。激しい咳が何度か廊下に響き渡る。私は、手すりを必死に掴み、お尻を階段につけながら少しずつ下りていく。階段をなんとか下りきると、壁に手をつきながら廊下を左に曲がり、ダイニングキッチンへ向かう。

苦しい・・息ができない・・。なんとかダイニングテーブルの端っこまで来ると、椅子を引き出して座り、すばらくうずくまった。

早く、薬を吸入しないと・・。

私が使っている吸入器は、生理食塩液と、茶色の瓶に入った液体の薬を数種類それぞれ決められた量だけ注射器で吸い取り、加湿器のような機械に入れ、薬を気化させ吸入するものだった。なんとか薬の瓶を取り出したが、激しい咳と苦しさのあまり、注射器で量をはかる作業ができない。咳をするたびに大きく身体が揺れ、瓶を掴んでいる自分の指を注射針で刺しそうになる。

だめだ・・。助けて・・


私は再び、階段の下まで這うように行くと、泣きながら必死に叫んだ。

「お母さ・・ん!お薬が・できない・・!!くるしいよぉ!!」咳込みながら何度も繰り返す。

くるしい、くるしい!!息ができない!!

辛い、哀しい。助けて、助けて。

私は生きているのに・・ここで苦しんでいるのに。どうして?

私の声は、聞こえているはずなのに。

・・どうして・・?


「・・おかあさん・・いってあげて、ねぇ、おねえちゃんがかわいそう・・ねぇ、おかあさん・・。」

二階から微かに妹の声がする。


私は惨めだ。


哀れだ。



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