回想 (1)


―― 皆が一斉に、明るい方へと駆け出していく。

薄暗い広い部屋。前方には長い机がいくつかあり、小さな椅子がそれを囲うよう不規則に並んでいる。壁には、色画用紙と折り紙で作ったお花畑があり、その端には先生が弾いてくれる、黒いピアノがある。

ぽつんと残された私は、後方にある沢山の荷物が並んでいる棚から、自分の名前が書いてあるピンクの箱を取り出す。それを床に置いて、蓋を開けると、中には先端にお花柄のカバーがついたハサミや、動物の絵が描いてある一回り小さい白い箱、単色の折り紙などが入っている。

私はその中からクレヨンを手に取った。色によって長さがバラバラで、一本一本に巻き付いている紙は破けたり、クレヨンの色がついて汚くなったりしている。ピンクの箱を床に置いたまま、また同じ棚から大きなスケッチブックを取り出すと、白いページを見つけて開き、床に広げた。

外からは、楽しそうに遊ぶ子供たちの声が聞こえてくる。

私は無心に絵を描いた。


「お外で皆と遊ばないの?――ちゃんは絵を描くのが大好きだね。」そう言って先生が私の隣に膝をつく。

「なんの絵を描いているのかなぁ?」先生が首をかしげながらスケッチブックを覗きこむ。


私は、「おかあさん。」と答えた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?