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君の隣で。

 誰かから声を掛けられる。
「おはよう、ユウト。何寝ぼけているの? ねぇユウトってば」
僕は、聞いたことのある声で目が覚める。
大きく欠伸をして、寝ぼけながらもその声に応えようとする。桜の花が一面咲いていて、春一番が吹いて、その花びらがひらひらと風に舞っている。僕はどうやら木陰で休んでいて、気が付いたら寝てしまっていたようだ。
「ああ、おはよう」と起きたばかりで、口が上手く動かずモゴモゴという感じになってしまう。
「おはようって、もう時計は14時を回っているよ」と相手から苦笑される。
「ああ、何だサクライじゃないか。ワザワザ起こしにきやがって!こっちは、いい気分だったじゃないかよ!」と冗談を言いながら頭がだんだんとはっきりしてくるのを感じる。「そういえば、何でこんな場所にいるのだろうか?」と少し疑問にも思ったが、そんな僕を見兼ねてサクライが話掛けてくる。
「どうしたの?そんな難しい顔して、大丈夫?」と不安そうな表情をしていた。
「ああ、いやなんでもない。それよりさ、学校は?もしかして俺らサボったのかよ?」と尋ねる。
「それ、今更。あんなところで、あんな場所で寝てて!」と言いながら2人で笑い合った。

その帰り道で俺は、親友に尋ねる。
「サクライって、そんなキャラだっけ。学校サボるようなさー」と言う。「えー何だっで!」とワザとサクライは聞こえないふりをしている素振りを見せる。
「じゃー俺こっちだから。またなー」と僕から声を掛ける。約5キロメートルの距離を永遠と歩き、足がへとへとになりながら家に着く。家はほんわかと明かりが灯っていて、玄関のドアを開け普通にただいまと言って入る。
学生なのに、ビール飲みたいななんて気持ちがしてきた。寝てただけだというのに・・・
その後は、夕食を家族と普通にとる。その後は、木陰であんなに寝た筈なのに、ベットに入るとぐっすりと寝てしまった。

その明け方、朝2時くらいのことである。
携帯のバイブレーションが強く自分の寝室に鳴り響く。長く放置していたのが原因で、ベットから床に落ちている。
「一体誰が、こんな時間に!って時間2時かい!ああこれは、わかったぞ。迷惑電話だろう。まじふざけんな」と一応画面を確認しようとしたら、なんと驚いたことにサクライからの着信だった。
私はサクライに怒鳴ってやろうと思ってすぐに電話に出る。「お前さ、何考えてるの?こんな時間にさ。お前これ会社だったら・・・」という所で声が詰まる。あれ、学生なのにどうしてそんな言葉が出てくるのかと、おかしいなと思ってしまった。
「薄々感じていると思うけどユウト、詳しい話をしたい。時間がないんだ!」とサクライがさっきの公園の木陰で待っていると告げてきた。
その声は本気に聞こえた。

朝4時薄暗い中で、小雨が降っていた。私はビニール傘を差しながら、5キロメートルを突き進む。走りながら、「あいつは何でそんなことを言ったのか?」と思ったがそこには変な説得力があった。はぁはぁと息を切らしながら、公園にたどり着いた。そこには誰もいなかった。
そう思った直後、サクライが後ろにいた。
「ようユウトよく来たね!実はね・・・」と話をしようとするので、私は「待って待って!」と怒りながら告げる。
そして「お前さ、ふざけてんじゃねぇぞ!」と殴りかかろうとしたらサクライには当たらず、ブンという音がなった。
私はハッとして「何なんだよ、お前は!」と逃げ出そうとするが、足が空くんで動けない。
そんなタイミングで告げる告白。「君の名前は?」それに対し僕から出た答えは「は?」ではなく、「櫻井 佑都」と瞬時に答えていた。

気づくと周りの景色が公園から、海岸線に変わっている。波は穏やかで、ざあざあと気持ちのいい音がする。そういえば、妻とよく散歩した場所だなと思い出していた。
朝6時ごろであろうか、携帯電話の文字は6時とはハッキリ見えずモザイクがかかったかのように目が霞んでしまう。
「そう、正解だよ。君の名前は櫻井 佑都。そして、僕の名前もサクライ ユウト同じだね!」とサクライが淡々と話をする。
「それは、あれだろ。同姓同名って奴だろ!」と僕は現状がよく分かっていないが、話を合わせて自分の中の気持ち悪さを取り除こうとする。
「ううん、一緒。名前も姿もね。でも実際には違うかなー」と告げる。
「まず、君は学生じゃない。もうすぐで88歳になる老人サクライくんだ。ここはさ、仮想空間ってやつ、テレビとかで単語くらいは聞いて知ってるよねー。僕は君の分身って訳。」と話を畳み掛けてくる。
「何を言っているのかわからないんだけど・・・ 夢だよな!夢なんだよな!!!」とどうにかなりそうな気持ちだった。
「違うよ。これは現実さ。仮想だけどね!20XX年に政府は日本国民の減少とともに現実から仮想空間に生活圏を広げて今までの労働者の脳をコピーして人格を形成して人工的な人間を増やそうと考えたんだ。で、君が最後の日本人って訳。君をコピーして1年間。もうすぐ、僕も1人前って訳さ。まぁ春だし、君からの卒業って訳さ。君の思い出、経験全てをこの仮想の世界に、そして更なる可能性に繋げていくよ」と嬉しそうに喋る。
徐に、時計を取り出しコピーは頷く。「あと、1分だ。」「僕、誕生日おめでとう!そして、さようなら」

はじまりがおわりであるように、おわりのはじまりがあるのかもしれない、いやあったのだと実感した。やり直したい人生だったのかと言われれば、そうかもしれない。一般的に就職して、普通の家庭を持ち、普通に暮らしていた筈なのにどこでこんな事にとも思った。

そんなことを考えていたら、気付くと分身に「お前も強く生きろ。俺は満足だったぞ!」と叫んでいた。叫んで叫んで、叫びまくっていた。姿形が消え入るその瞬間まで。
「知ってるよ。君なんだから!今までご苦労様。これからの仕事は僕が引き継ぐから安心しててね」と分身が優しく語り掛けてくる姿が、最後にみた光景だった。(完)


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