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自己注射を乗り越える[9日目〜10日目]

8日目の注射を終えたところで、再び卵子の状態を確認するためにクリニックを訪れた。複数の卵子が順調に育っているようで、腹部のエコー画像には卵巣の中でひしめき合っている様子が確認できた。その影響からか下腹部が張って重く、長時間歩くことは少し困難に感じた。

それでも不妊治療を一緒になって頑張ってくれている自分の身体に感謝の気持ちでいっぱいになった。それと同時に何だかとても温かい穏やかな気持ちになった。

採卵するにはあと2日程様子を見た方が良いとのこと。そこで、これまで使用していた早期排卵防止剤の注射が体に合わない可能性があったため、別の薬に変えてもらった。

9日目~10日目
卵巣刺激のホルモン剤 1本
早期排卵防止剤 1本

9日目の朝。いつも通りホルモン剤を注射し、新しく変えてもらった早期排卵防止剤の準備をした。今度は自分で薬液を作るタイプだったが、前の針よりも細めなので気持ちが楽だった。そして注射。スムーズに針も薬液も入れることができ一安心も束の間、また前回同様患部が赤くなりかゆみが出てきた。

この日の朝は夫がそばで見守ってくれていたが、ふと夫の方に目をやると携帯を触っていた。それは普段よく見る何気ない光景ではあったが、それまで張りつめていた私の心が折れた。

「なんで携帯触ってるの?まるで他人事みたいだね。私は毎日毎日苦手な注射を乗り越えようと頑張っているのに。薬剤も変えてもらったのに結局かゆくなるし、身体には何かしらの負担になっているってことだよね?」

いまこうして思い返すととても些細な事に感じてしまうが、当時の私は毎日緊張していた。「身体を張るのはいつも女性側だ」そんな風に感じてしまった。

不妊治療を開始するまで、夫は妊娠の仕組みについてざっくりとしか理解していないようなタイプだった。それでも説明を聞くうちにどんな治療が必要で何をしていくのかといった具合に少しずつ知識を得ていた。日頃より私の身体のことを心配してくれていたのに、この日は八つ当たりをしてしまった。ひたすら泣く私をただただ慰めてくれる夫。申し訳ない。

一通り感情を開放しようやく冷静さを取り戻すことができた。

(ここまで頑張ってきた。私の身体も頑張ってくれている。これからもっと色々なことがある。ここで負けていてはだめだ)

気を取り直して10日目を迎えた。やはり薬が合っていないようで赤くなってしまった。その日の午後にクリニックへ行き再度卵子の状態を診ると、十分に育っていることが確認できた。そして採卵日が決定した。

その後、採卵に向けての説明を受け点鼻薬が処方された。指示された時間に噴霧するよう指示を受けた。短いようで長かった自己注射はここで終わり。注射が怖くなくなったと言えば嘘になるが、針を見ることもままならなかった私でも覚悟さえ決めれば乗り越えられることを学んだ。

治療中は何かと孤独になりがちだと耳にするが、決してひとりで行っているわけではない。そこには協力してくれる夫、頼もしい先生方、温かく見守ってくれる両親、同じく頑張っている友人、そして何より身体を張って頑張ってくれている自分自身がいることをこの先も忘れないようにしたい。

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