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心がスッと楽になった根本的な違い

初めての移植の結果は陰性だった。

妊娠判定は自宅で検査薬を使用し、翌日クリニックにて診察を受けるよう指示を受けていた。検査薬の結果を確認する際、一番に願ったことは「どうかこれからも笑顔で過ごすことができますように」だった。

そのおかげか、結果を確認した後はわりとすぐに気持ちを切り替えて過ごすことができている。もちろん陰性だったことへのショックはあったし悲しい気持ちにもなったが、否定的な感情やネガティブな思考に陥ることはなかった。

自宅での検査翌日、クリニックにて陰性であったことを報告した。念のため血液検査を行い、それをもって最終判定とするとのこと。もし陽性反応が出た場合はその日のうちに電話にて連絡をすると伝えられた。

(せっかく気持ちの切り替えができているのになぁ・・・)そんな感情も沸いたが、こればかりは手順として受け入れるしかない。

その日の夕方、久しぶりに近所の銭湯を訪れた。炭酸泉や日替わり湯、スチームサウナなどで大いに羽を伸ばし、ここまで頑張った自分に最大限のご褒美をした。露天風呂からはちょうど夕日に染まった空が見えた。なんとも穏やかな空で見ているだけで幸せを感じた。そして銭湯の帰りには大好きな強炭酸水をがぶ飲みした。気持ちはとても晴れやかだった。

そしてこの日からは黄体ホルモンの補充も停止。3日後には予定通り生理が始まった。きちんと機能してくれている自分の身体、子宮、卵巣がとても愛おしく感じた。

翌日は久しぶりに外食をした。大好きなコーヒーもお刺身も解禁した。そして気分転換にお寺を訪れた。

そのお寺は和尚さんの説法が有名で、平日の朝早くだったが既に40人程が待っていた。たまたま前に並んでいた女性と言葉を交わし「休日だと入るまでに2、3時間くらい並ぶみたいですよ。今日はすぐに入れそうなのでラッキーですね」と教えてもらった。

和尚さんの話は漫談のような実に軽快な語り口で、一気に興味をひかれた。会場の笑いも取り、つかみはバッチリといった様子。

話の中盤、和尚さんはこう切り出した。

「私はたくさんの方から悩みを聞く機会が多くあります。それぞれに色んな悩みを抱えていらっしゃいますが、元をたどれば同じなんですね。大抵は人との関わりついての悩みに行きつきます」

これは以前読んだアドラーの本にも書いてあったので、特に驚くことはなかった。『人間の抱える悩みは全て対人関係にある』といった内容だ。

そして和尚さんは続けた。

「あの人はどう、この人はどう、という様に自分と周りの人とを比べるから苦しくなるのです。そもそも、私たちはそれぞれに与えられた寿命が違います。今日ここにいる方の中にも長生きする人とそうでない人、実に様々です」

突然投げかけられた『寿命』という言葉にハッとさせられた。

不妊治療をしている今はどうしても子連れの親子に目が行く。その度にうらやましく思い、比べて自分はまだ足りないと漠然とした虚しさに襲われることもあった。無意識のうちに私は人(子供を持つ親)と自分を比較していたことに気づいた。

「比べる必要はない」

これまでいろいろな本を通してこの言葉を目にしてきたが「寿命が違う」という紛れもない事実は不思議とスッと心に落とし込まれ、だから比べることはできない=比べる必要はないのだと妙に納得させられた。

私たち夫婦は子供を持つために治療を頑張っている。それだけが事実でそれでいいじゃないか。

そう思ったら急に心が楽になり、そしてまた一歩成長したように感じた。

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