第39回 マーフィーふたたび

 私は行列に並ぶこと、順番待ちをすることが大嫌いだ。根がせっかちなので待つことがとにかく苦痛なのだ。しかし大勢の人が暮らす社会の中で、何も待たずに生きていくには野蛮になるしかない。野蛮にはなりたくないので待つシチュエーションはできる限り避け、それでも避けられない時はひたすら耐えて待っているが、5分以上待っているとイライラしてくる。
 そういう性分も関係しているのだろうが、私が並ぶ列に限って、前の人の動作が異常に遅かったり、何らかのトラブルが起きたりすることが多い気がする。ATMでは、鞄から横長の袋を取り出しその中からさらに通帳の束を出す人に遭遇することが多い、気がする。

 先日、運転免許の更新のため免許センターに行った。予約制だったがそれなりに人がいた。受付を済ませ、更新料の支払いまではスムーズに行ったが、申請書類の確認と視力検査の列には5~6人が並んでいた。しかし申請書類で引っかかる人はそんなにいないし、前の様子を見ていると、視力検査も3問くらいで終わる簡素な検査のようだったので、それほど時間はかからないだろうと思っていた。
 並んでいる人が次々と去っていき、私のすぐ前に並んでいた中年男性の番になった。職員の女性が「視力検査は裸眼ですか?眼鏡で受けられますか?」と尋ねたところ、その男性は「まず裸眼で受けて、駄目だったら眼鏡でやらせてほしい」という趣旨のことを言い出した。いや眼鏡持ってきてるなら最初から眼鏡でやれよ、なぜここで謎のチャレンジ精神を発揮するんだ、と思った。私の後ろに並んでいた人たちも全員同じことを考えたと思う。しかし男性の訴えは認められ、「それではまず裸眼でやりましょう」ということになった。
 そして男性の裸眼による視力検査が始まったのだが、彼は不正解を連発した。モニターに1ヶ所だけ穴が空いた記号が表示され、穴の空いている方向を指で示すというポピュラーな視力検査だが、彼が示す全方向が的外れだった。しかし視力検査で不合格でも払った更新料は返金できないというルールがあり、それで揉めたくないのか職員の女性はそれまでは3問で終わっていた検査を5問くらい受けさせ、全問不正解になってようやく「じゃあ眼鏡でお願いします」と言った。
 眼鏡をかけても、男性の検査の出来はボロボロだった。しかし前述のルール絡みで免許センターとしては更新に来た人は何が何でも合格させたい方針らしく、職員の女性が「もっとよく見て」「(男性が上を指したあとに)上じゃないですよー」「ちょっとサイズ変えますねー(たぶん記号を大きくした)」などと手厚いフォローを繰り返し、やっとのことで男性は「合格」になった。
 私の番が来ても、なんで私の時に限ってこんなに待たされるの、しかも今の超法規的措置は何?と怒りが収まらなかったが、それよりも、眼鏡をかけても全然見えていないあの男性。そんなドライバーを野に放って大丈夫なのか?と思った。彼がペーパードライバーであることを願うばかりだ。

 
 
 



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