エッセイ NO.24

 ここは海辺の町だ。夕暮れ時には砂浜に出かける。海の彼方では水平線が太陽を飲み込もうと格闘している。波は気まぐれだから潮の流れが速まって太陽が沈んでしまうのではないかと心配になったりもする。海よりも太陽の方が大きいなんてこの町では信じる方が無理だ。

 呼吸を止める。数秒だけ。同時に世界も少しの間停止する。この数瞬を切り取って頭の中で見える全てを平面にする。夕日が消失点となり海と僕を照らしている。あるいは海と僕しか照らしていない。消失点と水平線と僕。どれも本物でどれも偽物。今日も頭の中のイメージは輪郭を失っている。

 線が点を飲み込む時に一日は終わりを告げる。太陽が海に隠れ始めて終わるまでが僕が生きていると実感できる時間。僕だけが生きている時間。少しさびれた町に住んでるがらんどうな僕が。

 家に帰って手を洗い、同時に顔も洗う。目の前を見ると鏡に映るのは、僕と電球の光と蛇口から流れて桶の中にたまる水。夕暮れ時はまだ終わっていない。僕は魚になった。その瞬間に僕だけが魚になったのだ。

 ここは海辺の町だ

 

 

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