日記:借りてきたDVDの話

 出口が容易には見えない、暗い迷宮のような「うつトンネル」への進入(というよりも更なる深入り)を自覚しつつ、それでも家の外へ────現実社会へ意識を向け続けなければならない状況の中で、僕はTSUTAYAにDVDを借りに行った。
 結局娯楽に逃避したと言えばそれは正しい。しかし逆に言えば、僕から娯楽を取り除いたら何が残るのか……それは恐ろしいことだと思ったし、それよりは精神的に辛い時は自分が好きなことをしろという教えに今は従うべきだと思ったからだ。

 普段なら2時間映画のDVDが2枚もあればいつ観るか悩んで結局一週間後の返却期限まで持て余してしまうところだが、僕はOVA「機動戦士ガンダムUC」全7巻を一晩で観終えた。
「逆襲のシャア」と「F91」の時間的空白を補完する内容で、ファーストから続くガンダムサーガを総括する意味合いの強い本作はファースト劇場版三部作と逆シャアとF91(考えてみると、これらは全て短時間で観られる劇場公開作品だ)しか観たことのない偏食な僕には観てもわからないところが多いだろう(回数を重ねて観ても理解できるかどうか……)と思っていたし、現にネット上の解説(又はネタバレ)があってようやく今回の感想をまとめられるところもあるが、端的に「面白かったか、面白くなかったか」の二択で語れば「面白かった」と言える。

 仮にも文筆家を志す者として、この作品の面白さなるものを感じたならばそれを言語化する義務があるのだが、まず僕は先んじて小説版のメカニックに関する設定資料を通してガンダムUCの世界観に触れたことがあり、特にリゼルやデルタプラス、ローゼン・ズールのデザインが好きだった。
 それとは別に、ロトやジェスタといった現代戦を意識したようなモビルスーツの存在は宇宙世紀ガンダムの世界に余分なリアリズムを持ち込んでいる、という知ったような口を利くネット上の評価に賛同していた。それは今回の観賞でもあまり変わらなかったように思う。
 ただし「特殊部隊」の出自を持つキャラクターの言動は少年期の主人公に対する大人の世界に座するがゆえに重く響き、特にEp3のダグザ・マックールの最期は自己を「歯車」と規定する非情ながらも熱い血の通った軍人でなければああも胸を打つシーンにはならなかっただろう。

機動戦士ガンダムUC カトキハジメ メカニカルアーカイブス (角川コミックス・エース 257-1) https://www.amazon.co.jp/dp/4047153605/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_as07DbT8MWWH0

 特に印象的なシーンは、Ep2のユニコーンガンダム発進シーンだ。
 ガンダムが(まさにファーストガンダムの効果音で!)徐々に出力を上げ動作可能になるセットアップシークェンスは否が応にもテンションが上がっていくし、バナージが出撃してすぐ、発進カタパルトは敵のビーム兵器で破壊される。もう後戻りはできない、という主人公の不退転の決意を代弁しているのだ。ここにグッと来た。

 次点は、Ep4のトリントン港湾基地を襲撃するゼー・ズール(34分40秒頃のシーン)。銃器コンテナからビーム・マシンガンを構える一機とその横に立ちハイドロジェット推進機をパージするもう一機。これを見て初めてこのモビルスーツがカッコいいと思った。またこの巻でもユニコーン発進シーンは音楽的演出的に輝いていた。

 可能性がどうのこうのという作品内のテーマについては「でも結局戦争起きてんじゃんw」とか「最後の最後で"本物"のシャアやアムロを持ち出しやがって……」という避けがたいネット上の評価や自分自身のどちらかと言えば可能性という名の神の前髪をつかみ損ねて今があるように思われる現状を振り返り、観ていてあまり響かなかった。うつは感動の振れ幅を鈍らせるらしいが、ある種のノイズキャンセラーのように「僕は絶対に感動しないぞ」という意識が働いているのかもしれない。
 僕にもユニコーンのような自己を拡大できる道具があればなあという気持ちはストレートに自作ロボットもの小説なる不透明な創作のイメージにも通じるが、今のところ、それは現実という冷徹なコトワリに無残に打ち砕かれるのが道理にも思えてくる。それこそが劇中における連邦に対するジオンなのだと言われれば、あるいはそうかもしれないが。

 またそう言われればというところだが、バナージは良いおっさんに恵まれ、おっさんはバナージに絆されていく。バナージのヒロイン候補がオードリー一筋に決まっているせいか(ミコットは……うん、可愛いよ?)その攻略と別れるスピードは早かった。裏を返せば、若い青年のリディは一番攻略されるのが遅かったとも言える。失うものが生まれて初めて、バナージという可能性を失いたくないという意識が働くといったところか。

 暗躍した大人たちへの制裁がコロニーレーザー封じとラプラスの箱の開示程度では少し物足りない感じもあるが(小さなロボットが大局を変化させるという映像表現としての限界も感じるシーンだった)、あそこだけ冷戦時代の大国の葛藤を再演しているようであり、映画的と言えば映画的な印象を覚えた。

 先だってイデオン発動篇を観たが、Ep7でイデオンソードの効果音が鳴ったのには気づけてもコロニーレーザーがガンド・ロワのオマージュだとは気づかなかった。よーやるわ。

 また何か借りたらここに感想を書こうかと思う。(終)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?