【日記】七峰らいがの第九次米子映画事変レポート【長文】
前置き
事変(じへん)とは、広範の非常事態や騒乱のこと。「事件」よりも規模が大きい。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
2011年から毎年やっているのに、いまだに地元では「知る人ぞ知る」的な位置づけの「何をやっているのかわからない⇔僕だけは何をやっているか知っている(or知りたがっている)」イベント。僕個人から見た「米子映画事変」とはそういうものだ。
昔の映画館をリフォームして作られた「ガイナックスシアター」を中心に、日本中から3分以内の自主映画が集う。写真や映像でしか見たことのないようなゲストたちが「僕らの町」を平然と歩いている。交差点の横断歩道を渡って、イベントに無関係な通行人の横を通っていく。何気ないいつもの日常の真横に現出する、濃密な非日常的空間。
ある人はこれを「危うい」と評した。なかなか9年も続けられることではない、と。だがきっとこの危うさに魅了された者たちが、このイベントを求め、支えているのだ。
今年のテーマは「映画、まだ観てるだけ?」。来場者もゲストもスタッフも、すべての人が渾然一体となって単なる映画祭の枠を超えた「米子映画事変」を起こすんだ、というイメージが改めて形として示されたように思う。
僕は今回「變身 -Henshin shortmix-」という1分55秒の映像を作って事変のメーンイベント「第9回3分映画宴」に送った。そういう意味で僕は映画を観てるだけではなくなったのだが、残念ながらノミネートはしなかった(映像はお蔵入りとなった)。
それでも出品者の交流会に参加することは可能だったが、それが深夜の飲み会であることが開催地から歩いて帰れる距離じゃない実家暮らしの自分には厳しい(それに家族に「遅くなるから車で迎えに来てくれ」なんてワガママ言えるわけがない)と思って辞退した。
つまり、今回のイベントをいちクリエイター側としては楽しめないというところがあり、それが悔しかった。
もっとも、二週間程度の作業で作ったモノの上で調子に乗っても情けないだけで……後でこの催しが狭き門となりつつあることがわかり、またノミネートされた作品と自分の作品を比較して「なぜノミネートできなかったのか」という点がいくつも頭に思い浮かび、まあ結論を言えば「あれは自主映画というか、自己主張が激しいだけだった」のであった。
タイムテーブル上では19時から「前夜祭」があった金曜日、僕は日課の自宅警備に勤しみつつ、イベント当日は家族が心配するから夜遅くまで外出するような無茶はできないと思いながらも心の中では1日目の深夜に催される「夜ノ米子映画事変」に行きたくてしょうがなかった。
数年前に米子でゲームをテーマにイベントをやりたいね、というのをローカルラジオで聞いたことがあって(それとの関連性はほぼほぼ無いと思うが)「ついに!」という感じだった。別に壇上でマイクを持つ気はないけど「米子でゲームのイベントをやるなら自分も混ぜてよ!」という気持ちがあった。なぜならば、僕はゲームが好きでゲームを遊ぶのが生きがいだから。
もっと言えば、その場に行きイベントを全力で楽しむことで、積みゲーが増えてきてどうしてもわからなくなってきた自分のゲームにかける情熱を再燃させたかったのだ。
だが、交流会とほぼ同じ理由で諦めるしかなかったのだ。行こうと思えば行ける場所にあって、たった一日少しの間そこにいるだけでいいのに……。
その日は「家族を心配させるようなことはしちゃダメだよ」という天使の正論と「朝から米子に行っちまえば、後はこっちのもんだろ(「まだ帰らない」と駄々をこねることは可能だろう)」という悪魔の囁き声を聴きながら眠った。
1日目
会場となるガイナックスシアターのある米子駅前イオンと、米子市文化ホール
これからここで「事変」が起ころうとは思いもしないであろう路上の鳩たち
出店で買ったたこ焼き(ハーブ入り岩塩)とクレープ(いちごと生クリーム)。たこ焼きを塩で食べるのは新感覚!
クレープは美味しかったけど生クリームで少し胸焼け
ドラマ「アオイホノオ」プレミアム上映&トークショー
公式ツイートで言及されているのは現GAINAX京都の武田康廣さんのことだと思われるが、マンガやドラマでのカウボーイのような恰好でもましてや「怪傑のーてんき」の恰好でもなくスーツにネクタイで周りのゲストから「政治家?」「銀行の頭取?」とめちゃめちゃに言われていた……。
今回、この米子市文化ホールメインホールという大きな会場でドラマ「アオイホノオ」全11話の中から第7話、第10話、最終話の3話を上映して、しかも、第7話と最終話は放送時より長尺のディレクターズカット版であるという……特に本編にカメオ出演したり裏方としてご活躍された方のトークが生で聞けるというのは個人的に非常に注目していて、先んじて理解を深めようとDVDを借りて観たり当時の実況ツイートまとめを見たりしていた。
結果としては「最終話のDAICON III オープニングアニメがちょっと長く見れるのかな……」というのがわかったくらいで、その他はモユルの作ったオリジナルというには「あのシーンを思い出して感動してくれ~い!」のやたら多いアニメ「未来への使者」がスベるくだりに今年の自分を重ねてみたり(アオイホノオに登場するファーストピクチャーズショーは3分映画宴との類似性が高い、と勝手に思っている)、矢野ケンタロウが登場するシーンに流れる「颯爽たるシャア」がホールだとめちゃめちゃかっこよく響くなあ……と感じ入ったりした。
そしてトークショーは脱線を含めて汲めども尽きぬ話が盛り上がり時間がまったく足りなかった。アオイホノオにおけるDAICON FILMメンバーのエピソードはどれだけ本当なのか? そもそも「津田さん」と「とんこさん」は実在するのか? という話から始まって7話に出演した武田康廣さん、山賀博之さん、10話に出演した赤井孝美さんそれぞれの撮影秘話や原作漫画・ドラマで再現された実話エピソード「しゃっくりが止まらず息を止めそのまま気絶した山賀さん(ドラマでは再現現場に立ち会いまるで臨死体験のようだったとか)」「水風呂を特撮プールに見立てて十八、九の学生がウルトラ再現芸(ドラマではそれを大人がやるおかしさ、しかも俳優の安田顕さんを筆頭にタオルの下は全裸となり実際の映像でも一部モザイクがかかるシーンがある)」などに触れ当時を振り返った。
「月刊ムー創刊40周年奇念」米子オカルティック事変or第15回 全国自主怪獣映画選手権
トークショーが終わったあと、僕はガイナックスシアターAnnで15時から始まっていた「「月刊ムー創刊40周年奇念」米子オカルティック事変」の後半部分に参加した。
文化ホール通路の椅子に座ってクレープを食べていたここが運命の分かれ目で、メインホールの隣のイベントホールで催されていた13時~16時の「第15回 全国自主怪獣映画選手権」に途中参加する選択肢もあった。またもう一つの選択肢として、オープニングセレモニーのあった前庭では11時~16時まで音楽ライブをやっている。
要するに「2時間ぶっ通しでムー的世界に浸かるか、3時間ぶっ通しで怪獣映画に浸かるか、5時間ぶっ通しでローカル色の濃い音楽ライブに浸かるか」という違いがあるのだが……僕は会場として場所をよく知っているガイナックスシアターAnnの方に行ったのだ。
僕は今回立ち会わなかったが、「全国自主怪獣映画選手権」の熱量は本当に濃い。ここから未来の怪獣特撮映画監督が生まれると言っても過言ではない。
またその中でも田中安全プロレス総帥こと田中まもる監督の作品は非常に独創性があるというか、見ているうちにトリップする。ある意味で米子映画事変の「危うさ」の一翼を担う存在だと僕は思う。
ガイナックスシアターAnnの横のBettyで展示されていたシャドウボックスの美少女に惹かれつつ、すでに「米子オカルティック事変」ではUFOにまつわる話が始まっていた。
有名なロズウェル事件の真相を追う、というところから果ては最新の宇宙論まで……一般市民代表としてムーの編集長に果敢に挑む怪談蒐集家の西浦和也さん、そのツッコミに対して「何言ってんの?」から信じるも信じないもあなた次第的な情報を矢継ぎ早に話す月刊ムー編集長の三上丈晴さん、その中間に女優の佐伯日菜子さん……という素晴らしいトリオに、場内は異様な熱気を帯びていた。ここにも裏社会的な意味で米子映画事変の「危うさ」があった。
第9回3分映画宴
そのままの勢いで、というのも変だが17時半、「第9回3分映画宴」は米子市文化ホールメインホールで厳粛にスタートした。
今回ノミネートされた33作品は、応募総数で言うと3本に1本という割合だったという。また、今年は鳥取からのノミネート作品は無かった。自主映画のコンテストとして、北は北海道から南は福岡まで、数多くの映像クリエイターから注目を集めるようになったことが伺える。会場にも、例年の会場であったガイナックスシアターには収まりきらない数の観衆が集まった。
MCであるアニメ会の3人の軽妙なトークとともに、コメディで笑いが起こったと思えばホラーがあり、泣けて、シリアスの次にくだらないギャグが来る……点と点だったはずの作品群がこの数時間のうちに影響しあい、おたがいを高め合い、競い合う。
ここからは僕の感想だが、率直に言って今年は強烈な下ネタをぶつける作品が目立った。局部が見えるか見えないかの際どい全裸体や、大人のおもちゃ的なアイテムの登場など。サクランボで排泄を表現していたのも忘れ難い。
これが、これこそが真の「米子映画事変の危うさ」なのかもしれないが、逆に言えばそこから人間性の本質というか、手段を選ばずに映像におさめて観るものに訴えかける監督の貪欲な姿勢を感じた。
そして何よりも映像のクォリティがみんな高い。それは単にCG合成がすごいとかカメラワークがプロ級というだけではなく、3分という「短いようで作ろうとすると地獄のように長い」──僕も1分55秒まで作るのが限界だった──尺の中で立ち上げた物語をきっちりオトす、エンターテイメントとしてちゃんと面白くなっているのがスゴかった。
前半部分が終わった時点で、夜の7時を回っていた。家族にはこれ以上帰りが遅くなることを伝えていない。きっと心配するに違いなかった。
だが「ちょっと待てよ」と。「こんなに楽しいイベントの途中で、おめおめと帰ってしまうのか」と。
僕は悩んだ。「帰らないと駄々をこね続ければ帰らなくていい」という悪魔のつぶやく声が脳内に響いていた。ヤツはまだ「夜ノ米子映画事変」まで深夜の米子市内に留まることを諦めていなかったのだ。僕がこのまま帰らないと、その妄想は現実となる。家に帰るための汽車の時間はすぐそこに迫っていた。
結局、僕は部分的に悪魔に賛同して家に帰りが遅くなる旨を告げた。すると優しい────本当に優しい家族は車で迎えに行くと言った。
ただし3分映画宴の終了予定時刻である21時には必ず向かう、それ以上は待てない、と。
当然、常識的に、「夜ノ米子映画事変が終わったら迎えに来い」などと言えるはずもなく、また家族に夜遅くまで起きていられる精神的余裕などなく。審査が難航して時間が押した21時に僕はグランプリ受賞者に沸く会場を後にした。
親の車の助手席で、悔しさと人情の板挟みで泣きそうになった。
これまでにも家内政治的に夕方から深夜にかけて催されるイベントに参加したくても断念せざるを得ないことは何度かあったし、その頃はまだ学生だったのだから当然のことだと言えた。まだ子どもなのだから大人の時間に分け入ってはいけないのだ、と。
でも僕はもう二十四を過ぎてるんだ。
「僕はまだ、大人ではないのか? いったいいつになれば、大人として、この楽しげなイベントに参加できるんだ?」
お前にはまだ大人としての責任能力が無いだろう、だから未だに親のすねをかじってニートしているんじゃないのか────と脳内評論家は指弾する。だいたい最後の最後で迎えの車をあてにしていた性根の悪さが気に入らない。大人になり損ねたピーターパン風情が、気安く大人を語るな、と。
確かに僕はこの手の面白事を見ると分別がつかなくなってまるで鉄砲玉のようになるところがある。今回もその場の勢いでおやつを食べたりゲストの同人誌を買ったり米子映画事変公式の帽子を買ったりと、客観視すればカネの無駄遣いが多い。親から貰ったカネの重みを理解していないと言われれば、その通りだ。
僕は誰かに手をつないでもらわなければ自分一人で生きていけない人間かもしれない。そんな人間に「大人の時間」を楽しむ資格は無いのかもしれない。
それでも……それでも行きたかった。
でも行けなかった。「行けるはずがない」と言ったのは、誰あろう僕自身だった。
せめて、「ヨナゴゲイムショウ」がこれ一回限りと言わず、二回、三回、……、n回と続くよう祈ることしかできない(来年以降スタッフとして参加して声を上げれば、きっと祈る以上のことはできるが……)。
2日目
岡本喜八 フィルム上映「江分利満氏の優雅な生活」&トーク
涙の夜も眠れば明けて、行きの汽車になんとか間に合った。今日もゼリー飲料を吸ってご飯とする。
毎年恒例の岡本喜八監督作品のフィルム上映に僕が行くのはほとんど初めてだった。大抵は他の催しに目を奪われるからだが、今年の2日目は催し事が少なくひとつの場所に集中できるというスマートな印象だった。隣の音楽ライブや怪談イベントは、僕には合わなかったがそれを目当てに行く人だっているのだ。今年の僕にとってはそれが「江分利満氏の優雅な生活」だったのだ。
「岡本喜八 フィルム上映「江分利満氏の優雅な生活」&トーク」のために、鳥取市からはるばる来たという35ミリ映写機がガイナックスシアターに今でも残る映写室に収まった。
僕が幼い頃この場所で見た「GMKゴジラ」や「ポケモン」「ドラえもん」はフィルム上映だったよなぁ、と思いながら開始を待つ。場内はほぼ満席だった。
最初に赤井孝美さん、エレキ紙芝居の松村宏さん、地元漫画家ラ・コミックの寺西竜也さんの三人で本作の見どころについてそれぞれが描いたイラストを交えた紹介があった。特に印象的なイラストを後に示す。
この「江分利満氏の優雅な生活」は今でこそDVDで見ることができるが、フィルムでの劇場公開は一週間ほどで打ち切られてしまったそうだ。その理由のひとつと思われるのが寺西さん曰く「後半のぐだぐだ」だという。
ここからは僕の感想だが、中年のサラリーマンが飲み屋で雑誌に載せる小説の執筆を安請け合いしてしまい、自分の身の回りの話をもとに私小説を書いたところ人気を博してついには直木賞を取る……というサクセスストーリーは今でもインターネットを舞台に起こりそうな話で面白かった。特に主人公の息子が、父親が直木賞を取ったと知って喜びのあまりフスマ(障子ではなくフスマ!)を破いてしまうシーンに驚き、そのフスマの上でフスマを破く振動でカタカタと前後に揺れる主人公の母の遺影が喜んでいるかのようでまた笑えた。赤井孝美さんの言う「DVDで何度も見るべき情報量」にもなるほどと思えた。
そして例の「後半のぐだぐだ」シーンに入っていくのだが、率直に言って事前に「ここは面白い」と言ってもらわなければ笑っていいのかわからないレベルのぐだぐだであった。
酒乱の主人公はいわゆる戦中派で、戦時中の思い出を若い部下二人にとうとうと語りかける。そのくだまきの長いことと言ったら! 部下も観客もまさにこの顔である。
寺西竜也さん作。二瓶正也さんと言えば「ウルトラマン」のイデ隊員。劇中にはフジ隊員こと桜井浩子さんも登場する。時は「海底軍艦」の1963年、奇しくも東京オリンピック前年ではないか。
戦時下の映像に合わせて流れる東宝効果音と合わせて当時が偲ばれる
上映後は映画プロデューサーであり岡本喜八監督の奥様である岡本みね子さんが加わって当時の裏話を聞いた。「岡本喜八にサラリーマン映画を撮らせたら、こうなった」という本作は不評を超え、東宝の偉い人に呼びつけられ「東宝を潰す気か!」と怒鳴りつけられたというから恐ろしい。みね子さんもその時には「最後の(くだまきの)シーンはカットしたほうが……」と言ったが、今では「カットしないで良かった」「きっとあれを撮りたかったのだ」と思うようになったという。
終了後、みね子さんに握手をいただく機会があった。ぐっと力強い握手で、わが心に万感の思いが通った。今年で82歳のみね子さん、どうか長生きで今後の米子映画事変にもご参加ください。
鳥取だらずプロレス
米子映画事変大トリの「アニメ会 トークライブ」まで少し時間があったので、米子市文化ホール前庭に移動して鳥取だらずプロレスの興行を観覧した。いわゆるマットプロレスで、オマージュレスラーを集めたトーナメントだという。
「記録映像は公開しない」という、まあそういう感じの試合内容だったのだがネタがわかると面白いので写真をここに記す。まさか令和の世に「ツルタ、オー!」コールができるとは思わなんだ……。
白タイツに見えるブリーフはこの日買ったものだそう
アニメ会 トークライブ
同じ前庭で開催される、毎年恒例の「アトラクションサークル Hi☆JAC ヒーローショー」の成功を祈りつつ、ガイナックスシアターAnnに移動した。
今年は「平成を彩った女たち」をテーマに平成アニメの代表的な美少女キャラクターについてアニメ会(国井咲也さん、ひがもえるさん、三平×2さん)の三人が熱く語った。特に三平×2さんの「ホシノ・ルリのポスター(警視庁発行の交通安全ポスター)を盗みに行ったら同じことを考えるやつがいて、物陰に隠れて警察に密告しまんまと盗もうとした寸前に自分も捕まって、同じ交番にオタクが3人数珠つなぎになった(「言えばあげるんだから!」とポスターを貰って帰った)」という衝撃のエピソードや、ひがもえるさんの紹介するアニメ「ポプテピピック」ピピ美の特に声優が高木渉さんだった回が一番良かったのだというのを実際の映像を交えて紹介したらいまいち伝わらなくて会場が静まり返ったことが、僕的に今年の裏テーマと見込んだ「米子映画事変の危うさ」をまさに体現していて最高だった。国井咲也さんも負けず劣らず、今回米子に着いてから米子城跡を前もって明るいうちに夜歩きに危ない箇所を調べて(「泥棒か?」とツッコまれていた)明かりの多い都会ではなかなか全力を発揮できないライトを用いるなど万全の態勢でひと気のない夜道を散策した(でも人の大声がした)というから面白い。
終了後、三平×2さんとひがもえるさんの同人誌を購入できる機会が設けられ、おそらく山陰初上陸となるひがもえるさんのポプテピピックファンブック「マリア様がくそみてる」2・3巻を購入した。マリみての世界をポプテピピック的に解釈した、癖になる味わいの同人誌である。
フィナーレ
米子映画事変の締めといえばやっぱり「ふるまい酒」である。この日の僕は、これこそを楽しみに待っていた。まったくもって飲まないとやっていられなかったのである。
「飲んだ酒と同じ量の水を飲め」という一次ソース不明の情報を知っていて、せっかくだからと米子映画事変に協賛していてゲストは必ずと言っていいほど飲んでいるミネラルウォーター「ミライズ」が欲しかったのだが、どこで売っているのかわからなかった。人見知りが発動してスタッフにも気が引けて聞けなかった。もしかしたら1日目の文化ホール前庭の飲食・物販コーナーであれば売っていたかもしれないのだが。結局自販機の「奥大山の天然水」を買って懐にしのばせた。
今年の鏡開きは「ダイナミック」だった
皆で酒を、飲めない人はソフトドリンクを手に乾杯し、来場者とゲストとスタッフの垣根を越えて語り合う。ファンにとっては憧れのあの人と写真を撮ったりサインを頂いたり、貴重なひとときを過ごすことができる。
何しろ「酔った勢いで」という言い訳が通るのがうれしい。タダ酒を飲んで束の間頭を締め付けるしがらみから解放された僕は、この日買ったばかりの黒地に白で「米子映画事変」と書かれた帽子(長い間被っていると頭がかゆくなる)を頭に意を決してゲストとツーショットを撮りに行った。
酔った勢いで、昔テレビ番組でメイド服を着て「星間飛行」を完コピしたというひがもえるさんに「自分メイドさんが好きで、メイド服着て映像撮ったんスよ」と謎のカミングアウトもした(自己中心的な同族意識が芽生えたのだった)。
例年一杯、それも紙コップに3分の1もない量で済ませているのに今年は畏れ多くも岡本みね子さんの手酌で二杯目をいただいた。たしかコップに3分の2くらいは入っていたと思う。
自分が酒にすこぶる弱いのはわかっていて、「この量飲んだら僕酔い潰れちゃうんじゃないかな……」と思いながらも最終的に天然水と一緒に飲み干した。帰りに駅のトイレに入って鏡を見たら、顔が真っ赤っかだった。
ゼリー飲料を除けば何も食べていなかったので、空きっ腹に酒はまずかろうと飲んだ後で食べたコンビニおつまみ。歯ごたえがあって美味だった。
会場では「サッポロポテト バーベQあじ」をつまみにする粋な来場者がいた
レポートの終わりに向かってもう一つ振り返り……この2日間に会場を歩いていれば必ず出会う、スタッフとして米子映画事変にかかわっている、僕が高専在学時代に所属していた放送部の顧問の先生やその関係で知るようになったローカルラジオ番組のパーソナリティの方とほぼ一年ぶりの再会をした。僕の学生時代の女装エピソードを軸に「(相変わらず)毛は剃ってる?」と恒常化した挨拶を受けて、何を言ったらいいかわからず苦笑いで返すのも「いつもの」って感じ。
ただ僕としては、「今何やってるの?」という質問に「自宅警備員です」という社会人的に見れば空白期間を説明するのが心苦しい。それでも遊びにうつつを抜かして生きているのは事実で、現実と真正面に向き合うことは何もおかしくはないのだが、つらい。今は職業訓練を積み重ねている時期なのではあるが、どうしても「誰にも頼られない自分」の姿が頭にちらつく。
僕が今回3分映画(正確には1分55秒映画)を作ったことを明かすと、先生は「Youtubeに上げないの?」と聞いた。
いや、自分の顔出してるしな……と僕が渋ると、「いいじゃん、失うものないでしょ?」と嘯く。まったく、他人事だと思って……。
でも、高専放送部の皆は堂々と顔出しした映像を作品として公開してるんだもんな……。今noteに書いてるエッセイだって自分の人生を切り売りしてることに変わりはないし、実は「變身」撮影後に自分に酔った勢いでツイッターの鍵垢に自分の女装した顔写真を一時的に公開したからコアなフォロワーにはもう顔は割れてるんだし、ここらで顔出し解禁しても、いいのかも……。来年にはもしかしたら、Youtuberになってるかもしれない……なんて、ついその気になる。
ラ・コミックの寺西竜也さんに「映像制作は場数だよ」と教わる。僕は結局、たった一回の映像制作……それも「僕の女装ありきの映像」が3分映画宴という舞台にたった一回受け入れられるか否かで苦悶していたに過ぎない。そうではなくもっと映像を作って腕を磨くのだ、と。それはあたかも漫画家になる夢を追い続けて漫画を描き続け、夢を現実のものにした焔モユル(島本和彦先生)のように……。
「變身 -Henshin shortmix-」
えー、お待たせしました。9月末から始まった僕の過去と現在そして未来を自己愛でつなぐ映像作品をYoutubeにアップロードし、それをこのテキストに貼り付けて結びの言葉にかえる。
言ってみれば僕のデビュー作は、自分の顔と肉声と性癖を一挙にインターネットに晒し上げる度し難くも意義のある映像作品となった。
お蔵入りならお蔵入りで良かったとも思ったが、もう腹は決まった。
どうぞ90作以上の応募作品をチェックする3分映画宴スタッフの気持になって、その中にこの映像が送り付けられた、そればかりかこの出品者は自分を売って米子映画事変の全日程入場券を受け取ったということを強くイメージして、ご覧いただきたい。
そしてどうかあなたにも3分映画を作る智恵と勇気が芽生えますように。
逆に、これで堂々と今年のツーショット写真を貼れるというものだ。
身に余るぜいたくなひと時に、乾杯。
マツエ・ジョーさんと。見えないが背中からハグしてもらう
ネギマンさんと。僕が自撮りに不慣れでカメラ目線ではない
ネギマンさんのポーズはまさかブン〇ンハロー〇ーチューブ……?
赤井孝美さんと。
毎年米子に楽しいイベントを起こしていただいてありがとうございます
三上丈晴編集長と。ムー的眼光(ムー・ビーム)に気圧されたか、またカメラではなくスマホの画面に目が行っている。
奥に写り込んでいるのはアニメ会の国井咲也さん
一本木蛮さんと。実はアオイホノオトークショー後のサイン会でツーショットを撮り損ねたため、この度酒の勢いで撮りに行けてうれしかった
アニメ会のひがもえるさんと、口があいて目がすわっている僕。
紙コップ一杯の日本酒で人はこんな顔になる
(終)
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