MEINE×MINE:わが鉱山
男がつるはしを振るって白い岩壁を崩す。
細かく砕けたものをトロッコに積み、前進してまたつるはしを振るう。
絶え間なく続く鉱山労働が産出するそれは、塩だ。
ここは巨神が死して塩の塊になったとも伝わる、白い鉱山である。
危険もある。落盤や水難の事故とは質が違うが、それはつるはしのひと砕きによって起きる。
がらがらと塩が崩れ落ちた空間に、不定形の影が現出するのを男は見た。
そして、縦に回る3つの回転ドラムが音を立てて止まるイメージが頭の中へ届く。
『這いずる』『赤銅の』『獣人』
博学な者であれば仮にこの生物を魔物退治の伝承にならって、コボルトと呼称するであろう。
男にはどうでもいい知識であった。労働の邪魔者につるはしの一撃をくれてやる。
狭い坑道の中でコボルトの小剣と男のつるはしが交錯する。
お互いに当たるを幸いに武器を振るい、絶えず傷つき、致死量の血を流しきったほうが地に伏す。
傍から見れば武の素人どうしの泥仕合だが、どちらも必死の形相だ。
ごすん。
コボルトの脳天へ男がつるはしを突き立てると、魔物は塩の山になった。いのちを失ったのだ。
その塩もかき集めた男は一息ついて、座るに適した岩塩に腰を落ち着ける。
腰から提げた小包から、塩むすびをひとつ取り出しておもむろに食べた。
全身の傷口があたたかい熱を帯び、徐々にふさがっていく。塩と米の力だ。
冷えた握り飯を慎重に噛みくだしながら、男はぼうっと坑道の先をながめていた。
目の前には、灯光の届かない横穴が口を開けている。
巨神の山で大穴が開けたら、生きては帰れないぞ。
そんな噂話を酒場で耳にしたことがある。
「山に呼ばれるとは、こういうことか……」
男が独りごちると不意に残りの塩むすびが2個とも宙を舞い、横穴の奥へとひとりでに転がっていった。
「待った!」
男は反射的につるはしを取って立ち上がり、それを追いかける。
つまずかぬよう下り坂を進むにつれ、光り輝く塩の岩壁が男の頬を照らした。
【続く】