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昼の連続ドラ風シナリオを書いてみた。タイトルは「シエルの改札口」(第一話)

《メモ》
関テレ系の昼ドラのコンペに応募しようと2014年頃に書いたものです。
(もちろんボツ!)

《概要》
題名 『シエルの改札口』
■ 番組種別:連ドラ(40回)

  • 対象年齢:60代前後を主軸とした中高年(特にF3層)

  • 放送想定時間:昼帯、月〜金、13:30〜14:00

  • 一回の尺:30分

  • 主な構成とイメージ:主にF3様向けの昼帯的「アナと雪の女王」。

《人物》
☆田村彩子(62)専業主婦。
★田村敬一郎(65)百貨店のお客様相談係
☆秋本宙(そら)(64)彩子の旧友。敬一郎の大学時代の恋人。
            現在は同じ百貨店、同じ部署の同僚。
☆村越美樹子(36)彩子の娘。損害保険会社の総合職だったのだが……
★村越洋(51)美樹子の夫。美樹子が勤務していた損保会社の調査員。
        元千葉県警風俗保安係
★田村清敬(92)敬一郎の実父。敬一郎の家で彩子と同居する。
☆朝倉しのぶ(27)敬一郎が勤務する百貨店の奉仕係。         

《本編》
   メインタイトル『シエルの改札口』
   クレジット・タイトルが続くーー

○ネット対戦のゲーム画面
   チープなアニメーション。
   鎧姿の女性騎士(シエル)と同じく鎧姿の若い騎士(セバス)が荒野
   を歩いている。
   T「シエル→セバス」
   ※本来はチャットだが音声を乗せる。
シエル「もう、夜が開けるわ」  
   T「セバス→シエル」
セバス「そうだね」
シエル「時間が経つの、早いね」
セバス「今日の冒険も楽しかった」
シエル「ボスは倒したけど……」
セバス「大切な仲間を失った」
シエル「今夜は逢えそう?」
セバス「わからない」
シエル「チャットメールするね」
セバス「待ってる」
シエル「私、また貴方と旅に出たい」
セバス「行こう。またパーティを組んで」

   アニメーションの荒野で見つめ合うシエルとセバス。
   荒野に風が吹いている。

○田村家・ダイニング(早朝)
   田村彩子(62)パソコンの電源を落とす。
   彩子、老眼鏡を外し目頭の周囲を揉む。
   深呼吸で息を吸い、吐く。
   吐息、徐々に溜息に変わる。

彩子「(呟き)……またね、セバス」

○田村家・ダイニングの窓・外
   一戸建ての一階、ダイニングの窓。
   遮光カーテンが開かれた。
   室内の彩子、朝日が眩しそう。

○田村家・ダイニング・内
   キッチンの彩子、朝食の支度をしている。

清敬の声「おはよう。彩子さん」
   彩子、顔をあげると、そこに舅の田村清敬(92)がヌゥと立ってい
   る。

彩子「お義父さん、おはやいですね」

   彩子、壁の時計を見る。
   壁掛け時計、6時55分を指している。

彩子「……でも無いですね」
清敬「いつもの、お茶と梅干しをください」
彩子「ハイ、お待ちくださいね」

   清敬、ダイニングのソファーに座り、テレビをつける。
   日曜日の朝のユル目の番組の音声が聞こえる。

清敬「……あのな、彩子さん、ちょっとな……」
彩子「あ、ハイっ?」

   ドタドタドタと階段を駆け下りる音。

美樹子の声「コーヒーは? お母さん」
   
   娘の村越美樹子(36)がビジネス・スーツ姿でダイニングに入って
   きた。

清敬「あーっ。ミキちゃん、おはよう」
美樹子「おはよう。おじいちゃん」
彩子「何度も言わせてもらいますけどね、先ずは朝の”おはよう”でしょ?」
美樹子「はいはい、とにかくコーヒー。」

   彩子、コーヒーをマグカップに注いで美樹子の鼻先に突き出す。

彩子「今日は。仕事?」

   美樹子、マグカップを受け取る。

美樹子「休みの日にスーツなんて着やしないわよ」
彩子「どうせ気の利いたワンピなんて持ってないしね」

   美樹子、コーヒーをズズッと啜りながら、彩子を睨む。

美樹子「(語気が強まって)だからさ、仕事って言ってるでしょうが」   
清敬「あのね。彩子さん、実はね……」
彩子「はい、なにかしら」

   美樹子、カップのコーヒーをズズズズと飲み干す。

美樹子「行くわ」

   美樹子、マグカップをドンッとキッチンテーブルの上に置く。

美樹子「行ってきまーす。おじいちゃん」

   美樹子、玄関にスタスタと歩いてゆく。

彩子「(美樹子の背を睨みつけたまま)……で、何かありました? お義父
 さん」
清敬「(美樹子の背を見ながら)……いや、今度でイイ……」

○ダイニングルーム(時間経過)
   彩子、キッチンテーブルの上に食事を並べている。
   綺麗に並べられた旅館の朝食的な和食。
   彩子、壁の時計を見る。
   壁掛け時計、7時58分を指している。

敬一郎の声「……ママぁ」

   彩子、振り返りながら、
彩子「ー(ママって呼ばないでくださいよ)」

   ワイシャツ姿の敬一郎、ネクタイを締めながら、上目遣いで立ってい
   る。

敬一郎「今日は遅いから」
彩子「昨夜、聞きましたから」
敬一郎「朝倉君が寿退社で」
彩子「それも聞きましたから」
敬一郎「多分遅くなるから」
彩子「どうぞどうぞ」
敬一郎「……(言いかけて、やめる)」

   敬一郎、テーブルに座り朝食をもそもそ食べ始める。

清敬「お前、日曜日に仕事か?」
敬一郎「……(無視)」
彩子「お義父さん、敬一郎さんはデパート勤務ですからね。日曜日は忙しい
 ンですよ」
清敬「彩子さん。コイツは法人外商部だからね。基本的に日曜、祭日は休み
 なんだよ」
彩子「あ、やだ……でもね敬一郎さん、今はお客様相談係りなんでー」
清敬「いわゆる苦情対応屋だろ」
敬一郎「(独り言の様な大声で)あーあ、中途半端なボケ老人ってのが一番
 腹立つよなぁ。また特攻隊がどうこうー」
彩子「(遮って)お義父さん!お茶のおかわりは」

   玄関ドアが開いて美樹子が戻って来た。
   ドタドタと二階へ駆け上る。

敬一郎「美樹子のヤツ、朝帰りか?」
彩子「違いますよ!」
敬一郎「じゃ、仕事か」
清敬・彩子「休みならスーツなんて着ないよ(着ないですよ)」

   美樹子、書類バインダーを大きめのビジネスショルダーバッグに詰め
   込みながら、階段を降りて来る。

美樹子「(彩子に)駅まで。(敬一郎を顎で指して)送ってくんでしょ」
清敬「ホント、ミキちゃんは働き者だねぇ」
美樹子「ありがとう。おじいちゃん」
清敬「でもミキちゃんはこの前、お嫁さんに行ったんじゃなかったっけ?」
彩子「お義父さん、その話はまた後でー」
美樹子「今は里帰り中なのよ。おじいちゃん」
清敬「お嫁に行ったのは半年前。で、里帰りしてもう三か月は経ったんじゃ
 ないのかい」
美樹子「気のせいよ。おじいちゃん」
敬一郎「(茶を啜りながら)……お前だったら」
清敬「そうかいそうかい。じゃ、いってらっしゃい、ミキちゃん」
美樹子「行ってきまーす。おじいちゃん」
美樹子「(彩子と敬一郎に)急いでよ」

   美樹子、玄関に向かってスタスタ歩いて行く。

清敬「……最近のミキちゃん、段々昔の敬一郎に似てきたんじゃないのか
 い」
   
   敬一郎、湯呑みをドンとテーブルに置く。

敬一郎「だからさ、何度も言うけど、中途半端なボケはやめてくれよ!」
彩子「あなたッ!」

   敬一郎、スーツのジャケットを掴んで玄関に歩いて行く。

彩子「(確かに……似てきたかも)……」

○東京近郊の街並み、幹線道路(朝)
   明るい色の小型セダンが走っている。

○彩子の運転する小型セダン・車内   
   運転席に彩子、助手席に敬一郎。
   後部座席の美樹子、携帯で会話中。

美樹子「……ああ、小島?急に本社から呼び出されたのよ。さっき。だから
 そっちに行くの午後からになるから多分……そう、そうなの。あの稟議が
 通ったのかも知れない……そう、そうなのー(会話は続く)」
彩子「(敬一郎に)ソラは?」
敬一郎「えっ?」
彩子「宙(そら)は?来るの? 送別会」
敬一郎「ああ……秋元君ならは今日は休みだ」
彩子「じゃ、来ないの?」
敬一郎「そうだな」
彩子「ふーん」
敬一郎「ま、女子は女子でやるみたいだしな」
彩子「そうですか」
敬一郎「秋元も64だからな。64で女子もないかぁ……」
彩子「……(何かを言いかけて止める)」

○郊外の私鉄沿線の駅前
   彩子の運転する小型セダンが止まる。
   無言で車を降りて改札に向かう敬一郎と美樹子。
   彩子、ドア窓下ろす。  

彩子「美樹子、あなた、お夕食は?」
美樹子「わかんないから、いらない」
   歩いてゆく敬一郎と美樹子の向こうには改札口。
   日曜の朝の人も少ない自動改札口。

○敬一郎の自宅前の道路・(午前)
   住宅街の道路。
   古い一戸建て住宅が並ぶ。
   彩子の運転する車が戻って来た。

○彩子のセダン・車内
   、
彩子「(車内の彩子、前方の光景に驚いて)……えっ!」
   
   彩子、慌てて車をとめる。

○敬一郎の自宅前に止まるパトカー
   彩子、車を降りて恐る恐る近づく。
   パトカーのリアガラス越し、車内で自動車警ら隊の制服警官と男が怒
   鳴り合っているのが見える。
   近所の主婦知佳が、彩子の運転席ドアガラスを叩く。
   彩子、慌ててドアガラスを下げる。

知佳「よかった! 田村さんの奥さん!」
彩子「何かあったの? 知佳さん」
知佳「あったも何もいかにも人相風体の怪しげな人がね、田村さんの家のリ
 ビングの窓から中の様子を覗いていたのよ!」
彩子「えっ!ええっ!」
知佳「怖いからアタシ、110番に電話しちゃったの」
   
   パトカーのドアが開いて、男が勢い良く飛び出す。
   それを制止する警官。男ともみ合う。
   男、彩子の車に駆け寄ろうとし、警官とも揉み合う。
   男は美樹子の夫、村越洋(51)である。

洋「お義母さん! コイツらに説明してやってくださいよ」
彩子「…………洋……さ……ん」
知佳「あれっ……お知り合い?」
彩子「美樹子の……夫で……」
知佳「あらっ……あらら」
   
   洋、まだ制服警官と揉み合っている。

彩子「(溜息)……洋さん」

○敬一郎の自宅・外観
  築30年くらいの二階建て住宅。
  パトカーが走り去って行った。

○(続き)同・リビング
   のんびりした午前の陽射しが差し込んでいる。
   清敬、ソファーでうたた寝をしている。
   彩子と洋、リビングで向かい合わせに座る。

彩子「まったく……洋さんは元警察官でしょ」
洋「……はあ……」
彩子「恥ずかしく無いの? 昔のお仲間に」
洋「だいたいアイツら人の話しも聞かないで」
彩子「(洋をジッと見つめ)……洋さん」
洋「あーハイっ……面目……無いです……」
彩子「なんで玄関からは入らなかったの?」
洋「インターホン、押したんですが……」
彩子「あら」
洋「おじいちゃんが出らたんで『僕です洋です』って言ったんですけど」
彩子「……で?」
洋「……『そんな人、知らない』……」
彩子「(清敬を横目で見て)……(溜息)」
洋「もう、この家の方からは関係の無い人間なんでしょうか? 僕は」
彩子「……そうじゃないのよ……ああ、お茶もお出しして無かったわね」

   彩子、そそくさと席を立つ。

洋「ああ、お構いなしに。それよりお義母さんー」

   彩子、間を取りたくてキッチンに入る。

彩子「洋さん、コーヒーが良いでしょう」
   彩子、返事も待たずにコーヒーの準備 を始める。

○宙が住むマンションの部屋
   北欧家具でこざっぱりとまとめられた室内。
   程好い調度品や書籍が並んでいる。
   ー電話の呼び出し音が続いている。

○宙の寝室
   掛け布団の下から女性の手が伸びて、受話器を掴む。布団の中に引き
   込まれる受話器。

宙の声「(くぐもって)……はい……」

○都内・城西百貨店本店・外観
敬一郎の声「あっ、秋元? 田村だけど」

○同・総務部のオフィス
   オフィスの一番隅に置かれた机の前、携帯電話で通話中の敬一郎。

敬一郎「今日、来ないんだよね。送別会」

○(戻って)宙の寝室

  布団の中から宙の声が聞こえる。

宙の声「……んですか室長。今日は行かないって言ったでしょ」

   ※以下、適宜カットバックで。

敬一郎「今日はずっと家にいるのか?」
宙の声「そうですけど。……何ンでしょうか」
敬一郎「時間、無いかな。夜とか」
宙の声「はぁ……二次会? とか?」
敬一郎「いや、そうじゃなくてさ」

   掛け布団の下から秋本宙(64)が顔を出す。

宙「なに田村。また泣き言聞いて欲しいの?」
敬一郎「そうじゃなくてさ」
宙「悪いけど、今晩は他の予定が入ってるから無理」
敬一郎「……そう」
宙「明日、会社じゃ無理なの?」
敬一郎「……いや、いいんだ……」
宙「なんだよ田村、はっきりなさいよ」
敬一郎「……いやイイんだ。……あっ、秋元、聞いてる?」
宙「だからさ、何さ」
敬一郎「……やっぱり、今度にするよ」

○(戻って)宙の寝室

   宙、受話器を叩きつける様に置く。

宙「アンタの性格、40年前から1ミリも変わってませんけどぉ!」

   宙、布団の中に潜り込む。

宙の声「あ゛ぁあああ。最悪な目覚め」

○敬一郎の自宅(時間経過)
   リビングのソファーに彩子、洋、清敬の三人が座っている。
   清敬、高笑い。

清敬「いやぁ、流石だキミわ。ウチの小生意気な姫様を(彩子を見て)い
 や、彩子さん、アンタの事じゃないよ。ミキ姫の事。(洋に向き直って)
 にガッんと一発お見舞いしたんだね」
洋「(いぶかしむ)おじいちゃん、僕が誰だか分かってます?」
彩子「(割って入る)もちろんですよ」
清敬「もちろんだよ。ヒロシゲ君だっけ……キミは……確かミキちゃんと同じ
 保険会社の調査員だったよね。まあ、慶應出て総合職で入ったミキちゃん
 とは釣り合わないとは思うけー」
彩子「(割って入る)ヒロシさんでしょ、お義父さん」
清敬「分かってるよジョークジョーク。だいたい彩子さんこのカレはヒロシ
 ゲって顔じゃあないよ」
彩子「あのね、お義父さん……」
清敬「でっ。どうしたのヒロキ君、今日は」
洋「(縋るような視線で彩子を見ながら)……実は……」
清敬「で、いつ正式に離婚するの?」
彩子「(声を荒げて)お義父さま!」
清敬「ジョーク、ジョーク (高笑い)」
洋「美樹子……さん、大変な事になってるんです」
   
   清敬、真顔になる。

清敬「なぜ最初からソレを言わんのだ。ヒロシ君」
彩子・洋「(どこまでマジボケなんだこの爺さん)……」

○JR新宿駅の改札口(午前)
   美樹子、足早に通り過ぎる。

○ビルの一階・電子ボードの受付。
   美樹子、ボードのキーを押す。

美樹子「第7ディビジョンの田村……失礼いたしました村越です。木村ディ
 ビジョンマネージャーからご連絡いただきまして参りました」
ボードからの女性の声「お入りください」

   美樹子、大きく深呼吸。電子改札口の様なゲートを通ってビル内に入
   って行く。
   入り口に掲げられた、
   『人材派遣会社パーソンズパワー』の看板。
  
○美樹子の会社・会議室
   女性二人、男一人の管理職風スタッフが打ち合わせをしいている。
   秘書らしき女性が美樹子を連れ立って入ってくる。

秘書「村越さんがお見えです」

   美樹子、室内に入り一礼。

美樹子「第7ディビジョンの村越です」

   管理職たち、値踏みする様に美樹子と、手元の資料を交互に見る。
   
○敬一郎の自宅・玄関
   洋、彩子に頭を下げている。

洋「……会社のこと、僕から聞いたとは……」
彩子「……ええ……そう、そうね……その方がいいわ……」

   洋、玄関を出てゆく。

彩子「洋さん!」

   洋、振り返る。

彩子「美樹子と良く話してね……」
洋「でも、先ほどもお話した様に美樹子、携帯にも出てくれないしメールも
 返事を返してくれないんです」
彩子「……そう、そうだったわね……」

○同・リビング
   清敬、腕組みをして憮然としている。
   彩子、玄関から戻って来た。

清敬「どういう事なんだね。これは」
彩子「……お聞きになった通りですよ」
清敬「美樹子は今朝も、何処に行ったんだね」
彩子「……わかりません」
清敬「あれだけ勉強して、就職活動して、やっと入った会社だろう、あの保
 険会社は。いったい何があったんだね。あの男の説明じゃ全然分からんじ
 ゃないか」
彩子「……(溜息)」

○フィットネスクラブ・内部(午前、遅く)
   宙、Tシャツ短パン姿でエアロバイクを漕いでいる。

○美樹子の会社・会議室
  美樹子、唖然としている。

美樹子「……部長?……」
男「そう君には部長の待遇で行ってもらう」
女A「大学時代は環境情報学科だったわね。卒業研究は『DNS実装データ
 ベースフレームワークに関する研究』だったわよね」
女B「システムの更新なんて貴女なら楽勝でしょ?」
美樹子「お、お待ち下さい。その派遣先の基幹システムとか他のスタッフの
 スキルとか教えていただかないとー」
女A「貴女はこの業界に籍を置いてまだ間もないから分からないのだろうけ
 ど。その手の情報はすべて事前には教えられなの」
男「とにかくそのクライアントのシステムの更新期限が間近に迫っていて
 ね」
女B「聞いてるわよ。前職の保険会社では常にトップクラスの成績だったそ
 うじゃないのアナタ。営業で」
女A「いい機会じゃない。学生時代に鍛えたスキル、このまま眠らせるの惜
 しいでしょ」
美樹子「私のスキルなんて10年以上前のものですよ」
男「大丈夫。君なら出来るよ」
女A「村越さんなら大丈夫」
女B「チャンスよ。村越さん。次のステップへのね」
男「将来が見えて来たじゃないかね」
美樹子「(ザケンなよ……アンタら)……」

○敬一郎の自宅(午後)
   彩子、リビングに入って来る。

彩子「お義父さん、遅くなっちゃけど、お昼いただきましょうか。キツネ蕎
 麦でいいかしらー」

   清敬、ソファーでうたた寝をしている。
   どこか刺々しい午後の陽射しが差し込んでいる。

彩子「……夕飯はキツネ蕎麦にしますよ。お義父さん……(溜息)」

○チェーン店のコーヒーショップ・店内(夕)
   美樹子、ボンヤリと店外を見ている。
   背後を歩く女のバッグが肩を叩いて我にかえる。
   美樹子、携帯電話を取り出す。

美樹子「(〜通話)……あっ……そうです。美樹子です……すみません急に。あ
 の……今夜、会ってもらえませんか?……」

○(同時刻)敬一郎の自宅
   彩子、携帯電話で通話中。
   画面に『美樹子、呼び出し中』の表示。

彩子「(馬鹿っ)……」

   彩子、携帯を切る。

彩子「お義父さん、お蕎麦、食べましょうか」
   清敬、ソファーでうたた寝をしている。
彩子「……」

   彩子、壁の時計を見る。
   午後6時20分を指している。

○城西百貨店・社員通用口(夜)
   閉店時間を過ぎて勤務を終えた社員たちが出てくる。
   敬一郎、数人の男女社員と共に通用口から出て来る。

敬一郎「よーし、今日はタクシーチケット、全員に出しちゃうぞぉー」
   若い綺麗系女子社員達が歓声を上げる。
   後から出てきたベテラン系の女子社員三人組、眉をひそめて、
社員A「今日、朝から何か変じゃない。室長」
社員B「この前から変だけど今日は特にね」
社員C「退職勧告……かね」
社員A「どうせ来年で終わりでしょ」
社員B「だよねぇ」
社員C「更年期じゃないの?」
社員A「鬱じゃないの?」
社員B「逆でしょ」
社員C「あ、ソウ、だよね。なーんちゃって」
社員A・B「つまらんわ!」
   敬一郎、そんな会話を交わすグループの先頭に立ち、上機嫌で歩いて
   いく。

○敬一郎の自宅(夜)
   彩子、ボンヤリとテレビを見ている。
   清敬、ソファーでうたた寝をしている。
   彩子、携帯を操作する。

彩子「(呼び出し音〜通話)あ、美樹子っ」

○(同時刻)ホテルのラウンジバー
   カウンター席に一人座る美樹子の背中。

美樹子「(〜通話)……なに」
彩子の声「……今日も……遅いの?」
美樹子「言ったでしょ、朝」
彩子の声「あ……あのね……」
美樹子「悪いけど、明日にして」
彩子の声「……そう、じゃ後でね」
美樹子「……あのね」
彩子の声「なに」
美樹子「今夜、遅くなるから先に寝て」

○(戻って)敬一郎の自宅
彩子「……そう……じゃ、気をつけて」
美樹子の声「……(軽い笑い声)何に気をつければいいのよ(〜終話)」
彩子「ちょっと、ちょっと美樹子!」

   通話終了の信号音が聞こえるだけ。

○(戻って)ホテルのラウンジバー
   美樹子の背後に人の気配。
   気付いた美樹子、振り返る。
   美樹子の表情、パッと明るくなる。

美樹子「ごめんね。急に呼び出して」
   微笑む美樹子。

○カフェバー・店内
   敬一郎の二次会。
   敬一郎、あまり酔ってもいないし、何処か元気が無い。

しのぶの声「室長、どうかしました」

   朝倉しのぶ(27)、敬一郎の隣に座る。

しのぶ「ここ、座って良かったですか」
敬一郎「朝倉君のために空けておいたんだよ」
しのぶ「(笑い)なんかキャラ違いますよー」
敬一郎「……朝倉君」
しのぶ「なんでしょう」
敬一郎「君、いくつだ」
しのぶ「(は?)……」
敬一郎「君、今度一緒になる人とは……したの? もう。アレ」

 しのぶ、何も言わずに席を立つ。
 敬一郎に何か言おうとして、振り返る。

しのぶ「いいですか、室長……」

   いつの間にか涙目の敬一郎、しのぶをジッじっと見つめる。
   しのぶ、敬一郎の気配に戸惑って、

しのぶ「……室長……」

   敬一郎、いきなりワッと泣き出す。

○ホテルのラウンジバー
   美樹子の横には宙が座っている。

宙「ほんと、人生なんてアッと云う間だ」
美樹子「そう、なんですか」
宙「そうだよ。ついこの前、オムツしてたアンタとこうしてこんなトコで酒
 飲んでるンだもの」
美樹子「何度も飲んだじゃないですか」
宙「……だねえ、アンタと飲むのは大切な時間だよ」
美樹子「……ソラさんの老後は私がみますから」
宙「死に水、とってくれんの?」
美樹子「やめてくださいよ。今、そんな話」
宙「アヤ……母さん、どうするの?」
美樹子「母には父がいますから」
宙「そう。じゃぁね、私もアヤも敬一郎もいなくなった後、ミキはどうする
 の?」
美樹子「……」
宙「ごめん。今日はその話じゃなかったね。それとね、二つ約束して。そう
 じゃないとミキとは友情もシェアできない」
美樹子「(友情……なの?)……なんですか」
宙「まず、アヤと敬一郎を……もっと大切にして」
美樹子「……」
宙「二つ目」
美樹子「……言ってください」
宙「もっと自分を大切にして」
美樹子「……」

   美樹子、グラスを煽る。

○渋谷駅(私鉄)・改札口前(夜半前)
   敬一郎、トボトボと歩いている。
   背後から女が身体をぶつける。

敬一郎「(よろめきながら)痛ぇじゃねえか……えっ」

   しのぶ、笑いながら立っている。

しのぶ「室長、次、行きましょう」
敬一郎「えっ……どこに」
しのぶ「(敬一郎の腕を掴んで)いいからコッチ、こっちー」

   しのぶに引きずられる様に歩いてゆく敬一郎。

○敬一郎の自宅・リビング
   彩子、うとうとしながらテレビを見ている。

清敬の声「彩子さん」
彩子「(我に帰って)……あ、何ですかお義父さん」
清敬「そろそろ寝るから」
彩子「ああ……おやすみなさい」

   彩子、壁の時計を見る。
   午後10時30分過ぎを指している。
   彩子、携帯電話を手に取る。

○(同時刻)渋谷センター街のゲーセン・店内
   敬一郎としのぶ、大はしゃぎで殴打系のゲームを一緒にしている。

しのぶ「室長! そこそこ、ソコに打ち込んで!」
敬一郎「朝倉君、きみ、キャラ違うだろ」
しのぶ「アタシ、こうゆうとこ来ると性格変わるんですよぉ〜」
敬一郎「俺も昔は角材握ると性格変わったけど」
しのぶ「はぁ? 意味わかんない!」

   携帯の着信音。

敬一郎「(〜通話)ああママ。なに」

○敬一郎の自宅
彩子「(電話から聞こえる喧騒が煩わしい)今日は?最終ですか」

○(戻って)ゲーセン
   敬一郎、しのぶをチラ見して、

敬一郎「多分」

○(戻って)敬一郎の自宅
彩子「(タブン?)……今、どこなの」
敬一郎の声「・・渋谷・・のカラオケ屋(敬一郎の背後から、しのぶの“室
 長、もうひと勝負しましょう〜”の嬌声が聞こえる)」
彩子「……最終なんですね」
敬一郎の声「起…だから……多分……最終に乗り遅れたらタクシー使うからー」
   
   彩子、ブッチして電話を切る。

   逡巡。

   彩子、キッチンテーブルに向かい、卓上に並べていたお茶漬けの膳を
   シンクに持ってゆく。
   乱暴に器の中身を投げ捨てる。

○敬一郎の自宅・リビング(時間経過)
   彩子、外出着でソファーに座っている。
   壁の時計を見る。
   午後11時40分を指している。

彩子「……(立ち上がる)」

○郊外の私鉄沿線の駅前(深夜)
   深夜の駅。  
   彩子の運転する小型セダンが停まっている。

○彩子の運転する小型セダン・車内
   ダッシュボードのデジタル時計が午前0時を表示した。

彩子「……馬車はカボチャに変わりましたとさ……めでたし……めでた
 し……」

   彩子、エンジンを止めて車を降りる。

○深夜の改札
   ー駅のアナウンス、下り最終電車が隣の駅を出発したことを告げる。

彩子「……めでたし……めでたし……」
   改札口の上の切れかかった蛍光灯がチカチカと点滅している。
   蛍光灯に身を寄せる羽虫。

彩子「……めでたし……」
   蛍光灯に当たって落ちる羽虫。
   駅のアナウンス、上り渋谷行き最終電車が到着する事を告げている。
   彩子、ポケットを探る。
   小銭が数百円。
   彩子、小銭を券売機に入れ、キップを手にする。
   彩子、改札口の前に立つ。

   逡巡。

   彩子、改札口を抜けて上りホームへ向かうエスカレーターに乗る。。
   出発する上り電車。
   下り電車が到着。
   降車した乗客の中には敬一郎もいる。
   改札口を出て、周囲を見回す敬一郎。

○渋谷行き最終電車・車内
   深夜の各駅停車。
   乗客、疎らな車内。
   彩子、窓の外の夜景を見つめている。
彩子「やっちゃった……」

○走る電車(俯瞰)
   列車、都心部を目指して走る。  
  
携帯電話の自動応答音声「ただ今、旅に出ております。メッセージを残すか
 百年くらい後にもう一度お電話くださいませ……」
   列車の向こうには、深夜だというのに溢れんばかりのあかりが灯され
   た街。    
   彩子を待っている、街。
  
 (第1話、終わり) 

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