決め手
その昔、映画は2本同時上映であることが多かった。
その日は、「探偵物語」と「時をかける少女」がそれだった。
薬師丸ひろ子が気になっていたので、上映前に「探偵物語」のパンフレットを手に入れ、映画観賞を楽しんだ。
「時をかける少女」の上映後、主演の原田知世に心を射ぬかれてしまった少年のぼくは、パンフレットの交換をお願いしていた。
私立高校の推薦入試で桜散ったぼくは、公立高校に進学した。その高校は、文武両道を校風とする高校だったため、必ず部活動に参加する必要があった。どこに入部しようかと思っていたら、弓道部があることがわかり、これはもう入部するしかないと思っていた。
体験入部をするのに、同じクラスで友達になった連中と一緒に行こうとしたが、最初に友達が子供の頃から習っていた空手道部に行くことになった。
空手道部は漢臭いイメージを持っていたが、女子の先輩やマネージャーまでいた。ひとしきり練習した後、アイスクリームが振る舞われた。
これが決め手になってしまった。
断るに断れなくなり、弓道部に入ろうと思っていたぼくの気持ちは、瓦のように粉々に打ち砕かれた。
しかし、意外にも適正があったのか、無事に初段に合格して黒帯を取得した。
我が空手道部は、突き技主体とする高校が多いなか、「蹴りがなければ空手ではない」という教えのもと鍛練を積み、試合でも足払い、後ろ回し蹴り等の多彩な技を繰り出した。
高校最後の県大会。組み手団体戦では、優勝候補の高校と対戦する事になった。試合は中堅まで均衡したが、そこでアクシデントが発生した。チームメイトが放った後ろ蹴りが、出会い頭に相手の腹部に決まったのだ。寸止めのルールがあるため反則となり、星ひとつ献上することとなった。
副将戦は引き分け、いよいよ大将戦を迎えた。
三本先取のうち、お互いが一本づつ取り合った。試合は続く。足払いで相手のバランスを崩しての追い突きを決めた。しかし、寸止めできずに相手に当てて反則を取られてしまった。
当時のルールでは、反則は一回目が反則注意、二回目は一本献上、三回目で反則敗け(だったか?)。
二本目、三本目も全て寸止め出来ずに反則敗けとなり、我が空手道部は敗退した。チームメイトには申し訳ない事をした。
寸止め出来なかった理由には心当たりがある。
リラックスした方がいいかと思って、朝風呂に浸かったのがいけなかった。シャワーでやめておけばいいものを、湯槽に浸かったのが運のツキ。これだ。
空手の試合には「型」もある。受けと返し技を組み合わせた演武で、採点方式で勝負する。
個人的には型の方が好きで、他流派の型まで覚えて練習していた。
型の試合は、予選と決勝があり、予選では流派によって異なる指定型、決勝は自分の好きな型が選択できる。
結果は、決勝には進んだものの、同点一位が四人もいるという珍事。惜しくもコンマ数点差で五位に終わった。上位四名は、北信越大会に進めたこともあり、悔しくてならなかった。
空手道部に入部した決め手は甘いモノだったが、三年間続けて良かったと思う。
厳しい練習に耐え、道場の夏は暑く冬は寒いという環境にも耐えた。そんな環境が今の自分を形成していると思えば。
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