自立神経
先日の夜のこと。
最終バスの出発時刻にはまだ早すぎる、そんな時間に歩いて帰ろうと思った。
最寄り駅から自宅までは、徒歩45分程度。
散歩するには丁度よい。時々、1時間半~2時間かけて散歩……、いや、寝歩きしてしまうのだが。
景色を楽しむには時間が遅く、辺りは真っ暗闇。点在する店舗の灯りに、時々安堵する。
珍しく今日は順調だ。
そう思った矢先の事だった。
自宅まで後400メートル程の場所にある交差点で、突然"あれ"に襲われた。俺は"あれ"に抵抗しながら前進する。気がつくと、また立ち止まっている。回りを見渡して状況を把握。また進む。その繰り返し。
そんな"あれ"との攻防を繰り返しながら、やっとのことで。角を後二回曲がれば自宅前の通りまできた。俺は油断した。背後から何モノかが"迫る気配で意識を取り戻す。"あれ"ではなく車だった。俺はハッとした。路地とはいえ、道路の真中に立っていたからだ。端に
橋に避けて再び歩き出し、角を二回曲がった。
ここは自宅前の路地。家の門までは残り数十メートル。あと少しで家に帰れる。そう思った瞬間に気が付きハッとした。この見慣れない景色は何処だ?後ろに振り返ると家の門を通りすぎていた。俺は安心した隙を"あれ"に狙われたのだ。
何とか玄関の前に着くことが出来た。これで家にはいれると思い、ポケットから鍵を取り出しシリンダーに差し込もうとした。おかしい、入らない。よく見ると、俺は車のキーを差し込もうとしていたのだ。差し込めるわけがない。もう一度挑戦しようと試みたのは、一瞬ふらついた後だった。玄関を前に"あれ"に襲われたのだ。このままでは駄目だ。どれだ、どれが家の扉を開ける鍵だ?必死に探しているうちに大きくふらつき、思わず後退して我にかえった。後退したその先は断崖…ではなく段差があり、更に大きくのけ反ってしまったのだ。が、何とか踏みとどまり転倒を免れた。その反動のお陰か、"あれ"の気配は消え、やっと家の扉を開けることが出来たのだった。
時計を見ると、あの交差点から一時間が経過していた。俺は約400mの道のりを一時間かけて寝歩いてきたのだった。普通に歩けば数分の距離を。
つまり、寝歩いていた時間はほぼ一時間。その間、多少ふらついたものの転倒せず、歩くか立っていたことになる。
俺は恐ろしいと思った。自分の平衡感覚が……、いや自立神経といった方がいいのか。
誰か、俺を横に寝かせてくれ。頼む。
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