ASHRAE 62.1備忘録(日米の換気計算の違い)

計算方法(日本はMAX、米はSUM)

日本では建築基準法の人員換気20m3/(h・人)およびシックハウス対応0.5回/hのうち大きい方で必要換気量を決める。前職社内基準は25m3/h·人。大抵人員で決まる。ビル管対応は保健所によって指導が異なり、CO2計算(1000ppm以下)を求めるところもあれば除塵計算(0.15mg/m3以下)だけでいいところもある。除塵はフィルタ性能を確認・設定するためのもので、それで外気量を増やすことは普通しない。他に火気使用とか興行場法とかいろいろあるが、いずれにしても各計算の最大値を必要換気量にする。

対してASHRAE Standard 62.1では基本となる換気量法(VRP)の式が下記。
 各室居住域換気量Vbz = 一人あたり必要外気量Rp x 人員Pz
           + 単位床面積あたり必要外気量Ra x 床面積Az
Rp, Raは室用途ごとに規定されている。人員とシックハウス対応を合算することにはじめ違和感があったが、62.1のUser Manualに解説が載っていた。
曰く、
・室内汚染物質発生源は主に2種類:人およびその活動(コピー機等)と、
 建物(建材・家具)
・前者は人数にほぼ比例する。後者は床面積に比例すると仮定。
2種類の汚染物質は化学的性質が異なるかもしれないが、人の知覚への
 影響は加法的である
と多くの研究が示している。

日本の場合、異なる汚染物質は相互作用せず独立して人体に影響するという思想があるというよりは、計算を簡易にしようという意図が強く、どんぶり勘定になっているだけのような気がする。


換気量計算例(米>日)

一人あたりの必要換気量をオフィスを例に比較すると、日本の法定20m3/h·人あるいは通常設計値25m3/h·人に対し、ASHRAE62.1の換気量法では
 Rp2.5[L/s·人] + Ra0.3[L/s·m2] / オフィスのデフォルト人員密度0.05[人/m2]
 = 8.5[L/s] = 31[m3/h·人]

ちなみにオフィスの人員密度は日本では通常0.1[人/m2]を使うと思うので、オフィス環境の違いも窺える。

上記は居住域(床から75mm以上1800mm以下、かつ壁や空調機器から600mm以上離れた範囲)における必要換気量。これに吹出・吸込の位置や給気温度により異なる換気効率Ezを考慮し、居住域に外気を全て届けられない効率の悪い換気方式では余分に外気を室内に供給する。天井給気・天井吸込の場合、冷房時はEz=1だが暖房時はEz=0.8。
従って一人あたり
 Voz = Vbz/Ez31[m3/h·人] / Ez0.8 = 38.7[m3/h·人] 必要。

これがLEED認証案件の場合、必要換気量+30%のクレジットをほぼ必ず取りにいくので
 38.7[m3/h·人] x 1.3 = 50.3[m3/h·人]

WELL v2では必要換気量+60%のクレジットまである。

日本の法定換気量の根拠を調べようとした際に『室内空気質のための必要換気量』という空衛の報告書を見つけた。海外基準比較として上記の計算式が取り上げられ、一人あたりの外気量は"我が国で用いられている30m3/hと概ね同様の数値となる"と結論づけているが、全然違うから。日本の30m3/hとはビル管法1000ppm以下となる換気量の参考値(外気350ppm想定)だが、30m3/hで設計された建物が何割あるのか。そしてそもそも、その30m3/hと比較するなら換気量法ではなく空気質法(IAQP)である。

空気質法では室内CO2濃度上限を明確に定めていない(1000ppmと誤解されることが多いらしく、誤解を解こうとするこんなペーパーもある)が、User Manualには空気質法ではなくCO2制御の項で、オフィスでの推奨値は外気+525ppm、との解説がある。空気質法とCO2制御は別物(換気量法は簡易に最低限の換気量を計算するもの、空気質法は空気質向上のため高度に計算し換気量法より多い換気量を定めるもの、CO2制御は人員密度の変化が大きい室で省エネを図るためのもの)だが、他に拠り所がないので仮にこの推奨値をもとに日本と同じ式(Ez考慮せず)で計算すると
 0.02[m3/h·人] / 525[ppm] x 10^6 = 38[m3/h·人]





特にこれ以降は自分用の覚書。

空調機で複数室に外気を取入れる場合

換気方式は3種類に分けられている。
・100% Outdoor Air Systems: OAがRAと混ざらずにOAのみのまま各部屋に供給される場合。OAがRAと混ざらずにOAのみのまま各部屋に供給される場合。1台の外調機で複数室に給気する場合はこれにあたる。全外気空調のことではなく、室内に循環空調機(PAC、FCU等)があっても良い。
・Single-Zone Systems: 換気経路が1室で完結しており、他の部屋と空気のやり取りがない場合。外気取入れ方法は問わない。1室で完結していれば外調機でも空調機でもこれにあたる。
・Multiple-Zone Recirculating Systems: OAが複数室からのRAと混ざって複数室に供給される場合。空調機で外気取入れを行い複数室に給気する場合がこれに当たる。

1つ目、2つ目は換気量法で簡単に計算できる。3つ目が厄介で、少し複雑な計算が必要。まず、日本では普通こんな設計をしない。各部屋のSA、RAは負荷に応じて可変なので、OAをRAと混ぜてしまうと、各部屋の外気供給量を保証することができなくなるから。しかし現職での最初のLEED案件がまさに3つ目の方式だった。
この場合、各室の換気方法による換気効率Ezに加えて、この換気系統全体の効率Evを加味する必要がある。Evは、SAに対する必要OAの割合Zpz = Voz/Vpzを各室で計算し、そのうちの最大値に応じて表から選ぶことになっている。これは、最も外気が不足する部屋に着目していることになる。すべての部屋の (必要OA)/(SA) 割合が同じなら何も問題ないが、ある部屋で必要OAに対しSAが大きいと、その部屋に必要OA以上にOAが供給されてしまい、逆にその他の部屋では供給されるOAが必要OAに満たない現象が起こる。なぜなら空調機でRAととOAが完全混合されてしまい、SAに含まれるOAの割合はどの部屋に対しても同じになり、単純にSAの大きい部屋に多くのOAが持っていかれてしまうから。このアンバランスを解決するためには空調機で屋外から余分にOAを取入れる必要があり、それを含めた換気系統全体の必要OAを算出するために用いるのがEvである。OAが不足するのは必要OAに対しSAが小さい部屋、つまりZpzが大きい部屋なので、Zpzの最大値をEv決定の指標にしている。

基本的にはEvはZpzの最大値に応じて表から選ぶことになっているが、Zpzの最大値が0.55を超えると表には値ではなく"Use Appendix A"と書いてあり、詳細計算でEvを求めなければならない。変風量空調の場合、各室給気量Vpzは想定される最小値を用いなければならない。多くの場合、負荷が小さくRA = 0となり外気のみ導入している状態が最小値で、Vpz = Voz、Zpz = 1となり、詳細計算ルート(Appendix A)になる。定格SAが大きく、負荷が小さくてもVAVの開度の問題でOAのみまで風量を絞りきれない場合は、VAV最小開度でのSAが最小値となるが、それでもほとんどの場合Zpzの最大値は0.55を超えるのではないか。自ずと詳細計算ルートである。

系全体効率であるEvには、室ごとに計算する各室効率Evzのうち最小値を採用する。Evzの計算式は本質的には1つだが、RAの循環方法によって2種類に場合分けされている。
・Single Supply Systems: 各室のRAが全て空調機に戻り、そこでOAと完全混合されて再び各室に給気される場合。大きな一つの循環(Primary Recirculation)しかない。
・Secondary Recirculation Systems: 空調機が構成するOAを含んだ大きな一次循環(Primary Recirculation)に加え、OAが直接混ざらない個別の二次循環(Secondary Recirculation)が各室にある場合。採用したことも図面を見たこともないが、Fan Powered VAVが各室に設置されている場合はこれ。

Evz計算に必要なパラメータでいくつか注意すべきものとしては、
Er       Secondary Recirculation Fraction: Single Supply Systemsの場合はEp=1となり、後述するErの項が0になるのでErの値はEvz算出に無関係となる。Secondary Recirculation Systemsのうち、二次循環のRAが各室と各室循環機器(Fan Powered VAV等)をちゃんとダクトでつないでいる場合はEr=0。天井レターンで中途半端に他の部屋のRAも少し混ざるような場合は0<Er<1。複数室からのRA→まとめて1台の空調機に戻る→OAも混ぜる→OA混ざったSAを各室へ再分配 という場合はEr=1。
Erが大きいほどEvzが大きくなる(効率が上がる)。これは、部屋によって(必要OA)/(SA)の割合が異なる場合は、二次循環空気をなるべく他の部屋と混ざるようにすると、最もOAが不足する部屋への二次循環空気に、OAが過剰な部屋からの消費されなかったOAが混ざり、最もOAが不足する部屋のOA不足が緩和されるためだと思われる。

画像1

Vps     System Primary Airflow: 一次循環での空調機の給気風量。各室の給気風量Vpzは想定される最小値を用いるのに対し、Vpsは想定される最大値を用いなければならない。Vpsは各室の最大給気量の合計とも限らない。方位や利用スケジュールの違いなどから、各室の負荷が全室同時にピークになることはまれなので、空調機の最大風量を各室の最大風量の合計より小さく設定することはよくある。
Vps(想定される空調機最大SA)が小さいほどEvzが大きくなる(効率が上がる)これは、Vps(=空調機SA)が小さいと(総OAは変わらないので)空調機SAに含まれるOAの割合が上がり、各室のEvz計算ではその高いOA割合のSAが、Vpz(その部屋のSA)分供給され、そこに含まれるOA量が増えることになるため。
後述のSingle Supply Systemsの場合のEvz算出式がわかりやすい。EvzはZpz(本来その部屋に必要である最大のOA/SA割合)とXs(=Vou/Vps)(実際にその部屋に供給される最小のOA/SA割合)を比較することで求めている。Vpsが小さいとXsが大きくなりEvzが改善される。

Vdz     Zone Discharge Airflow: 各室における、一次循環・二次循環含めた部屋に供給される全風量。Secondary Recirculation Systemsで二次循環風量が可変の場合にVdzをどう設定すべきかはどこにも書いていないが、おそらく想定される最小値を用いなければならない。Vdzが大きいほどEvzが大きくなる。Evzの最小値を求めるための一連の計算なので。

Evzの計算式を具体的に見ていくと、
 Evz = (Fa + Xs · Fb – Zpz · Ep · Fc )/Fa 
 where Fa = Ep + (1 – Ep) · Er
     Fb = Ep = Vpz / Vdz
     Fc = 1 – (1 – Ez) · (1 – Er) · (1 – Ep)
     Xs = Vou/Vps
     Vou = DΣall zones(Rp · Pz) + Σall zones(Ra · Az)
     D = Ps / Σall zones Pz

Single Supply Systemsの場合は別の式
 Evz = 1 + Xs – Zpz
が書いてあるが同じこと。Fa, Fb, FcにEr=1, Ep=1を代入したもの。

XsはSAに対するOAの割合の各室平均値で、(Evzで補正する前の空調機想定OA)/(空調機SA)。
Dは(系統全体が想定している人員)/(各室の人員の単純合計)。系統全体が想定している人員と各室人員単純合計が異なるのは学校等の設計でよくあることで、全教室(普通教室+特別教室)の各収容人員合計は全校生徒数より多くなるが、全校生徒数は一定でただ生徒が教室を移動しているだけなので、熱源容量算定時には各教室の収容人員合計ではなくは全校生徒数を採用し、熱源容量を抑える。ただこの考え方をMultiple-Zone Recirculating Systemsに採用して大元の空調機の想定人員を各室人員合計より少なしても、上記の式により、減らした分の補正がかかり、結果的に空調機の想定人員を減らした意味がなくなる。

Evzの詳細計算例は62.1やそのUser ManualよりもこのTraneの解説スライドがわかりやすかった。あとはLEEDの計算書またはASHRAEの計算書でいろいろ入力してみると各パラメータが与える影響が分かる。

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