真実の盗撮事件簿 十五 もう一つの和歌山事件

 その後、黒木氏は私の過去の経緯を辿るかのように、一件一件盗撮被害現場を取材して回り、一問一答を繰り返す日々が続いた。その裏で汚い連中が自己の利益の為、再び盗撮事件をもみ消しにかかるとは……そんなことを夢にすら思うこともなく、事件は私達の知らないところで動いていた。

  翌日、黒木氏と和歌山市内の某盗撮施設を下見に行き、今後の取材計画を立てた。最初に黒木氏は、原稿を成立させる為には、

「企業は盗撮の事実を知っていたのか」

「防止策として企業は何をしているのか」

「和歌山県警はなぜ善良な探偵社を悪徳探偵として仕立て上げたのか」

という柱を立て、一軒一軒の浴場施設・婦人団体・当社関係者と取材を進めていくこにとした。

 この和歌山盗撮事件を成立させるために、黒木氏は何度和歌山~東京間を往復しただろうか……4ページの記事を書くために2ヵ月をかけて追い続けていたのを、私は一緒に行動する中で見てきた。

詳しくは後で書くとして、黒木氏が出したもう一つの大きな目標がある。

  「盗撮は和歌山だけで行われているのではない。全国で繰り広げられている犯罪であり、どこに行ってでも企業の保身は変わらない。ただ間違えてはならない大切なことは、企業を叩くのではなく、企業が堂々と防止対策が出来る環境と悪列な犯罪と叩くための法律の整備が必要なのだ。その結果が被害を未然に防ぐ結果となるのだと私は思う。だから平松さんが今している事は、本当に大変なことだと思うが、足を止めないで目標を持って戦っていこう。」

 この一言から今日私達が行っている「盗撮防止法」への活動となった。

  その言葉を残し、黒木氏は一旦東京に戻り、数日後再び和歌山へ来た。その日から本格的に取材に回った。最初に黒木氏が取材に向かったのは、膨大な盗撮ビデオの舞台となった和歌山唯一の観光施設M・C内にあるKK温泉だった。

2004年10月4日
 黒木氏は私が制作した資料を元に正式な取材という形でアポイントを取り、その対応したのが営業本部長のN氏と営業部企画宣伝部長のH係長と課員のY氏だった。

 黒木氏が提出した資料を見せたところ「KK温泉の中で女性客が盗撮被害に受けているのではないか」と言う質問に対してN氏は「2年前に盗撮騒ぎがあって警察に相談したことがあります。その後犯人の男性と女性は捕まったと聞いていますが。」と答えたという。さらにN氏は、「我々としては怒り心頭です。うちの名前が出る事は、もちろん考えない訳ではありませんが、経営上の正義感として許せないことで、もちろん今回も警察にお話しに行くだろう。また(盗撮)があったのかという感じです。」と応えた。黒木氏は、この取材時に営業本部長のN氏の判断として会社に報告する事を約束し一旦連絡待ちということで切り上げたのだった。

 当時私達は車で待機しており、約1時間の取材だったのを覚えている。取材を終えた黒木氏が車に乗り込んだ時「如何でした?KK温泉の対応は・・・」と尋ねると「まあまあじゃない」と語っただけだ。

  その翌日、黒木氏の元に掛かった一本の電話で事態が変わった。
 その電話の相手は、和歌山県警出身者で同署の親会社でМ興産総務部渉外室担当理事のI氏からだった。I氏は「昨年の7月頃だったと思います。大阪府警南署の警察官が、黒木さんがお持ちのようなものを持って来ました府警がビデオを押収し、現在捜査中だということでこちらに相談に来てくれた訳です。」その事について黒木氏は「捜査の状況はどうなっているのですか?」と質問するとI氏の口調は変わり「あなた警視庁出身ですよね!じゃあ警視庁に告発するのですか?それでもうちはいいのですよ」と応えたと言う。そこで黒木氏は「捜査機関に告発する為に取材を始めた訳ではない」「盗撮された被害者の女性の立場にたって、ある意味被害者の立場にあるKK温泉に盗撮被害の警鐘を鳴らしつつ、また企業責任として盗撮にどのような対処をとっているのかを聞きたかったのだ」と伝えたところ、I氏は「対策なんて説明する必要がないでしょ。お客の立場に立ってやっていますよ。心配してもらわなくてもけっこうです。」「以前平松さんという探偵が盗撮対策用品を買ってくれとKK温泉に言ってきたのです。私達はそこまでする必要はないと断りました。」あなたも防犯装置でも買って対処しろと言うのでしょ?」と言った。

  この事を黒木氏から聞いた私は、「ふざけるな。」と言った。
そんな話は当然一切ない。黒木氏自身、I氏の対応に怒り大阪府警本部広報室を通じ、大阪府警南署に対し「昨年7月頃の盗撮事件」に対し確認をとったところ、I氏の発言が大嘘であることがすぐに判明したのだった。大阪府警本部の当時の回答は「南署に確認したが、そのような事件は扱っていないということです」という回答だった。

 黒木氏はこの事件について週刊プレイボーイ二〇〇四年十一月十六日第四十六号「怒涛の追及シリーズ第4弾盗撮露天風呂が野放しにされている」にてこう書かれている。

 「I氏は確かに大阪府警南署が捜査中だと語った。あの言葉はウソだったのか。ならばなぜ子供でも簡単に見抜けるウソをついたのか?M興産は、全国的に名の知れた大企業であり、関西圏の警察の大口の天下り先でもある。自分は和歌山県警からの天下りの人間だとハッキリ認めている。とすると、こんな推論が成立しないか・・・KK温泉の盗撮が明るみになって客足が落ちると親会社のM興産にも影響が出る。それは警察にとっては貴重な天下り先が傾くこととなる深刻な問題である。また日頃の恩があるМ興産からなんらかの依頼を受けたら警察も無下に断ることもできない。その理由で2年半前、前出の平松氏らの盗撮に関する告発を、М興産から警察、そしてОBまで一丸となって隠蔽しようとした・・・。」と推論している。

  実際、和歌山県警の汚い手口は過去様々な事案で「この街の警察の対応は疑わしい」と感じてきたのだから、黒木氏の推論は私自身素直に感じる。その後、黒木氏は和歌山県警に対し取材をする為、数ヶ所の浴場施設に対し取材をしたのだった。

  この取材の中で、本当に呆れ果てた対応をしたのが、スーパー銭湯Uである。私達が調査した和歌山県盗撮実態調査の中で、KK温泉・スーパー銭湯U・K湯で盗撮された映像は圧倒的に多い。KK温泉の対応は認めている分まだマシと言えるのは、2件目に取材に向かったスーパー銭湯Uの対応がそれ以上に酷いからだ。先にも少し書いたが、スーパー銭湯Uは、材木会社の新規事業として平成9年3月和歌山で2件目のスーパー銭湯として開業し、浴場施設で天然温泉を売りにしている。スーパー銭湯Uでの取材終了後、出てきた黒木氏の表情は硬く「馬鹿げている本当。」と言ったので「どうしたのですか?取材はいかがでしたか」と聞くと、「なんて言ったと思う?」と不機嫌そうな質問が返ってきた。その黒木氏の表情からよくなかったのだが、ここまで酷いとは思わなかった。

 スーパー銭湯Uの支配人H氏は、黒木氏の取材に対し資料を見せ同店であることを確認したところ「このビデオは撮るものと撮られるものが仕組んだ「ヤラセ」で、うちは場所を利用されただけです。
少なくとも私はそれを認識しています。」と応えたらしい。
そのK氏に対しその理由を求めたところ「アングルから言っても不自然。下から覗くような映像は映せません。まったく知らない人が見れば盗撮に見えるかも知れませんがね」と応えたと言う。余りにも馬鹿げている回答に呆れ果て、私は言葉にならなかった。盗撮犯の手口を解析すれば、その手口は簡単に解明できる。ましてや日々の業務の中で「現場」を見ているのだから解るはずだ。映像の角度に位置するところに顧客は何を持って来ているのか?

  それは簡単な答えだ。場所は入浴施設であり、ファッション的に色々な物をもってくる場所ではない。盗撮のアイテムとして、シャンプーなどを入れたお風呂セットしかないのだ。支配人が話すように「アングルから言っても不自然」は、不自然ではなく、お風呂セットの位置からすれば当たり前に撮れる視点なのである。小学生でもわかる答えを当たり前の様に語るなど……私からすれば「寝言は寝てから言え」と言いたかった。

 スーパー銭湯Uの盗撮については、平成9年以降くり返し行われており、当社資料で確認する限り数十回以上行われている。私達は馬鹿げた企業の体質に嫌気がさしていた。「企業としての責任」「安全とは何か?」「盗撮犯罪をなくす為の方法は?」黒木氏からの一問一答は、日々核心に向かって難しくなっていく。そして私達は本当の目的である和歌山県警への責任追及に向かって核心に王手を仕掛ける為、次の浴場施設へ向かった。

 3件目の取材先として私達が向かったのはK湯である。「K湯」は和歌山市内で2ヶ所のスイミングスクールを運営している会社が運営管理している公衆浴場である。黒木氏を近隣まで送った後私達は車内で待機していたところ、十数分後黒木氏から私の携帯に電話が入った。「今から北警察署へ行って来る。」という電話だった。北警察署?もしかして・・・不安はあったものの、「黒木氏なら大丈夫だろう」という安心感があり、和歌山北警察署へ向かう黒木氏を追尾して私達も向かった。

 結構長い時間が経過した。黒木氏から電話が掛かってきたのは約2時間後だった。「終わったよ。」私は、無事取材が終わった事に安心し、黒木氏を乗せた車を追尾し、K湯で合流したのだった。

 黒木氏が考えている以上に企業が努力している現状と警察とのタイアップの状況を説明してくれたが、「警察から指導をもらって、また努力してこの現状じゃ意味がないのでは?」と言うと、黒木氏は「他の2件と比べたら努力しているし。それが分かるからね。」との答えが返ってきた。それと過去の経緯について聞いてみたのだが、答えは返ってこなかった。

   翌日黒木氏は、和歌山県警広報課へ向かった。黒木氏の目的は県警に対し、和歌山県内の施設で盗撮事件が頻発している可能性があることを伝えて捜査を促すのと、もう一つは盗撮犯罪に対する県警の取り組み姿勢を促すことだった。黒木氏の取材対応に出てきたのは、和歌山県警警察本部警務部総務課広報室長で和歌山県警視小河原史朗と警務部総務課調査官・課長補佐で警部駒吉学の二名だった。(※役職は当時のものである)

 約40分間の歓談後、小河原警視は「黒木さんはどうするつもりですか?だったらFAXで企画書を出してもらう方法もあるんですけど・・・もっとも我々はそれを受け取ってから取材を受けるか検討します」と言ったらしい。約40分も話しこんだ後に、なぜこの様な杓子定規な事を言い出したのか?それは約2年半前、探偵平松が告発した事件を口に出した瞬間警察の対応は手のひらを返したように他人行儀な対応に豹変したズバリ、触れられては都合の悪い「М興産と県警の癒着疑惑」について切り出したからだった。その対応に疑問を持ったまま、戻ってきた。

 県警への対応を最後に、和歌山盗撮事件について取材を終了した。その後、黒木氏より私の元に送られて来たラフ原稿のタイトルは「ふざけるな!和歌山県警」だったが、構成の段階で「盗撮の告発を警察が握り潰した!」となり、最終段階で「盗撮露天風呂が野放しにされている!犯罪性は明らかなのに、なぜか温泉も行政も「知らん顔」・・・」というタイトルで全国に向けて発売されたのだった。

  発売前夜、私は夜眠れずにいた。2つの和歌山盗撮事件を通し多くの人と出会い、社会を学び、目標ができ、盗撮犯罪について私達から全国の浴場施設とすべての女性に対し警告を促す。そして私を悪者に仕立て上げた和歌山県警の一部の警察官に対し、もう一度襟を正し、盗撮犯罪に向けて頑張る姿勢を見たかった。そんな事を考えていると、結局朝方まで寝ることが出来なかった。

朝5時頃、自宅近くのコンビニでプレイボーイを見た。ラフ原稿の段階で何度も読んだ原稿だったが、誌面として見た瞬間、黒木氏に本当に感謝した。言葉にならなかった。

 ラフ原稿 ふざけるな和歌山県警

黒木氏と出会い
それが全国に向けて配信された忘れられない一冊となった。

 紙面掲載後、色々な方から電話がかかってきた。
協力者からメディアまで、一日中その対応に追われていた。
また、一般の読者の方からは「この原稿に掲載されているお風呂はどこですか?」と言った問い合わせは100件近く掛かってきたが黒木氏との約束で答えることは一切出来なかったので、「週刊誌に掲載の内容以外お答えできません。ただ和歌山市内の施設です。」と応えるのが限界だった。

 週刊プレイボーイ発売日、和歌山市内の盗撮現場であるスーパー銭湯Uは、突然改装を始めた。馬鹿げた回答をした施設だが、特徴のある部分を隠し、違う風呂で当店ではないとでも言いたいんだろうか。
企業の隠蔽体質が分かる。 最低な施設であることに違いはない。

そして、例の和歌山県警警察本部の対応は、なんともお粗末。県警記者クラブ詰めのマスコミに対し圧力を掛け「この記事を書く気か?出入り出来なくするぞ!」と言った感じで脅しているようだ。内部の警察官に対しても、箝口令を敷いたと言う話が私の耳に漏れ入ってきた。
 数社のマスコミ関係者からも、マスコミに対し圧力を掛け、警察権力を盾に厳戒令を引いているという噂を聞いていた。本当情けない話だ。

この頃、私達は黒木氏と別の事件を追っている時期でもあり、それらの動きは逐一伝えていた。
私は、「蛇に睨まれた蛙」の様に卑怯に逃げ惑う和歌山県警の対応を、本当に情けなく感じた。

 

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