『総員玉砕せよ!』 - 水木しげる

 『はだしのゲン』にしてもそうだけど、このような戦争体験をした人が表現の手段を持ち、自分の体験や感情を吐き出して世間にぶつける機会を得たそのことに対して快哉を叫びたい気持ちだ。内容如何よりも。
 そこにしかなかった憤りは勿論、最前線にある中でも長閑な日常や、美しい南島の風景。
 作品に意味なんてなくてもいいから、ただ語り得ぬその体験を語ったというカタルシスの方に目が行く。
 生き延びれて良かった、書けて良かったと心から思う。

 黙殺され、封殺され、死人に口無しでただ忘れられていくはずの一兵卒が、戦地で目にしたものを暴露してやったのだ、ざまあみろという気持ちだ。臭いものに蓋をしておきたい人たちには都合が悪かろう。

 動員されて単なる一兵卒に貶められ、消耗品としてその生を都合よく国家に利用され、旧軍の行き当たりばったりな作戦で、或いは誰かの面子のためだけに、人が無意味に死んでいく。勇敢に戦って死んだのならまだしも。
 そして戦後になってもなお「祖国のために戦った英霊を侮辱する気か!」と国内の言論をコントロールするためその死を再び利用されるのだ。
 実態はこうじゃないか。実際の現地の様子は、およそここに書いてある通りじゃないかと言える基準があるのは、後世の人にとっても意義がある。

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