『水と礫』 - 藤原無雨

 最近感情を動かされるのが疲れるので小説読むのが億劫になっていた。その自覚はあったのにうっかり買ってしまい、こわごわ読み始めたのだが全然良かった。抑制的で男性ホルモン多めの文章が心地良い。

 東京から故郷に出戻ったあと、ありふれた日本の田舎から(多分そう)説明もなく突然ファンタジーの世界に繋がっている構成が非常に良かった。日本にそんな砂漠は無い。地方で生まれ育って上京したという同じバックグラウンドを持つ人にしかこの小説的効果は感じられないかも知れない。要は翻訳された時に外国人にはこれ分からないだろうなという心配をした。母語というより文化的背景の都合で。

〈小説の体裁は取っていても小説になってない読み物〉というのが世の中にはあるのだけど、これは本物の小説だったと思う。

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