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『初恋、ざらり』 - ざく ざくろ

 Kindleでセールやってたので買った。全3巻。だいぶ昔に冒頭だけtwitterか何かで読んで続きが気になっていた。
 ウソでも何でもハッピーエンドで終わって良かった、という卑怯な感想を持った。なぜだろうか。他人事で終わるからか。

 母親があの感じで、おばあちゃんはアル中で、おじいちゃんの姿は見えなくて…、って無駄に解像度高いのが良かった。それで何を伝えたいのかなんて作者が考えることではなくて、ただ描いておけば読者が勝手に読み取るもの。そういう真の物語性(文学性)を感じた。
 物語には伝えるべきテーマが必要って何故かみんな誤解してるんだけど、そんなもんいらないのである。物語性の本質は追体験可能性にこそあって、それを自分自身の問題として経験したあと、どんな意味を見出すかは読者一人一人違うし、内容もどうだっていいのだ。
 配送業者の意地悪ババアも良かった。追体験可能な本物のリアリティがある。単なる線で描かれたマンガのコマなどではなく、本物の生きたババアがそこで陰口言ってるのかと思ったくらいだ。

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 実際には有紗ちゃんは若くて可愛い女子だからまだ救済されてるという重大な事実があって、「理解のある彼くん」系統の安っぽい量産ストーリーに過ぎないという見方もできる。軽度知的障害というハンディキャップに呻吟しつつ、偶然にも可愛くて巨乳に産まれたというアドバンテージには無自覚だ。あれがすごいブスだと全然話が変わってくるし、或いは男なら加害者属性まで付いて本格的に救いようがなくなったりする。マンガとして消費することすらできない本物の闇だ。

 こういう福祉の問題に真面目に答えを出そうとすると難しくて投げ出したくなる。市民はその負担を放棄し、専門に従事する政治家に委任しようというのが間接民主制のはずであるが、その政治家もまともに考えてなさそうなのが怖い。正直、こういうのは政治・行政によって既につつがなくカバーされているべき問題だと思うし、市民が今さら「考えさせられる」のはそもそもおかしい話だと思う。

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