『あゝ野麦峠』 - 山本茂実

 メールを掘り返して購入履歴を確認したら2017年3月に買っていた。読んでは止め読んでは止め、工女たちがついにストライキを始めたところでまた一年も中断していた。最近自分の集中力が少し回復していて読書に堪える程度にはなっているのでまた再開し、なんとか昨日読み終えた。

 明治以降に日本は急速な近代化と目覚ましい発展を遂げたが、そのためには兎にも角にも莫大な外貨が必要だった。当時どうやってそれを獲得したかといえばそのほとんどを製糸産業に頼っていた。そしてそれを支えたのはまだ10代やそこらの少女たちだった。その時代、劣悪な労働環境で搾取された名もなき工女たちの姿を膨大な取材によって描き出した傑作、日本近代史を語る上で欠くことのできない名著。というところ。
 序盤は話ができすぎているように感じて、昭和の中村淳彦かという印象を持ってしまったがとんでもない。次第に涙なくして読めないという感じになってくる。そこにあるのは圧倒的なヒューマニズムであり日本人が今や失ってしまった民族的感情なのだという気さえした。自分ではどうすることもできない社会の(世界の)荒波に翻弄されながら、時にそれに抗いながら、「昔の人は戦っていたんだな」と今の日本を恥ずかしくも思った。

 第二次大戦前後の日本の近代史って大抵の人はかなり曖昧になっていると思う。歴史を知らないからこそ変に美化する人たちまで現れる。これはそんな日本のリアルな近代史を伝える価値ある資料でもあるだろう。

 いつの時代・どこの国でも、しわ寄せがいくのは常に弱者だ。しかしそれは真理などではなくただ単に最も手軽な短絡に過ぎない。これからの時代は違っていてほしいが、今正に技能実習生制度で女工哀史の再来をやってしまっているのを見ると資本主義と新自由主義が続く限り、こういう惨状は縮小されながらもより悪質化・巧妙化し隠蔽されながら存続していくのではないかという悪い予感もする。

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