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【天才】今敏監督作品の全て

虚構と現実の境目が溶け合う世界。呼吸を忘れ、瞬きを忘れ、身体の全機能がこの映画を観聴きすることへ注がれる感覚。これは今敏という才能でしか得られないものだ。今敏の全てを摂取したい。

ということで、今敏監督作品を全て紹介します。


『PERFECT BLUE』(1998年)

《あらすじ》
アイドルから女優へ転身した未麻だったが、ドラマの過激なシーンやヌードの撮影など思うような仕事ができずにいた。そんな中、彼女の元に脅迫めいたFAXが届く。脅迫行為はエスカレートし身の危険を感じ始める。
《ポイント》
◎今敏監督作品第一作
『PERFECT BLUE』の制作は一通の封筒が今敏監督の元へ届けられたことから始まりました。封筒の中には企画提案書とシナリオ第3稿。アイドル、サイコホラー、メディアミックス展開などと書かれているのを見た監督はこの時点ではあまり乗り気ではなかったようです。しかし、個人作業の漫画制作に飽きていたこと、そして何より“初監督”という魅力に釣られて仕事を引き受けました。
◎影の主役「未麻の部屋」
注目してほい箇所はいくつもありますが、その中でもとりわけ主人公・未麻の部屋に注目してみると面白いと思います。本編の中で繰り返し出てくる未麻の部屋は彼女の内面の象徴でもあります。しかし、監督は一人暮らしの女の子の部屋を数えるほどしか見る機会がなかったそうです。そこで、『YELLOW PRIVACY ‘94』という日本人女性の裸をその女性の部屋の中で撮影した写真集や、東京に暮らす人々の室内のディテール写真集である『TOKYO STYLE』などを参考にしたといいます。ファンからもらったであろうぬいぐるみ、可愛がっている熱帯魚、捨てられない花束の形をとどめようと作ったドライフラワーなど、小物を一つ一つ描いていく中で未麻という人物を掘り下げていったそうです。監督が女性の部屋の写真集を舐め回すようにして作り上げていった影の主役「未麻の部屋」に注目しながら視聴することでより、未麻の心情が浮き彫りになります。


『千年女優』(2001年)

《あらすじ》
かつて一世を風靡した女優・藤原千代子のもとにインタビュアーがやってくる。彼女の思い出と出演した映画のエピソードが渾然一体となっていき、インタビュアーも巻き込んで波瀾万丈の物語が展開される。“あの人”を追いかける中で彼女の真意が明らかになる。
《ポイント》
◎『PERFECT BLUE』と対をなす物語
『PERFECT BLUE』の主人公・未麻は自分の意思や欲求を持たず周囲に流され無自覚なまま事件に巻き込まれます。一方、『千年女優』の主人公・千代子はプリミティブであるため頑なな欲求「好きな人を追いかける」という意思を持ち自ら行動しています。『PERFECT BLUE』では人間の内面のダークさ『千年女優』では明るさをスポットを当てています。コインの裏表である2つの作品のを比較しながらその違いと共通する部分を見つけることは今敏という監督について知る一つの方法だと思います。
◎インタビューアー立花と千代子の距離
監督は千代子とインタビュアーである立花の物理的、心理的距離の変化を大事に演出したと発言しています。彼らの距離感に注目してみると面白いと思います。物語の中で立花は千代子に憧れを抱き、追いかけています。同様に千代子は初恋の人に憧れ追いかけています。どちらも追いかける側の愛は描かれますが、追いかけられる側の気持ちは描かれません。追いかけられる側がどう思っているのかという視点で観ると新たな発見があるかもしれません。


『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)

《あらすじ》
クリスマスの夜、ゴミ捨て場を漁っていた3人のホームレスは赤ん坊を拾う。わずかな手がかりを頼りに赤ん坊の母親を探し始めるが、さまざまなトラブルに巻き込まれていく。奇跡と偶然が織りなす家族愛についての物語。
《ポイント》
◎ これまでで最も「タチが悪い」作品
これまでの作品ではトリッキーな部分を「劇中劇」や「夢と現実の混交」という形で明示してきましたが、『東京ゴッドファーザーズ』ではトリッキーな部分がどこに行ったのか見えなくなるまでひねっていると監督は発言しています。ひねってひねってひねった結果、ストレートな人情ものとして見ることもできますし、その逆もまた然りです。監督はどこまでが冗談なのか、本気なのかわからない作品が好きとのことなのでそれが最も表現されているのがこの作品なのかもしれません。あなたはどのように捉えましたか?
◎顔に見える建物
『東京ゴッドファーザーズ』では演出として「顔に見えてしまう建物」を利用しています。通常の画面作りにおいて建物が顔に見えることは避けますが、あえてそういったことをすることにより、キャラクターと背景の建物がシンクロし、相乗効果を生み出すと言います。悲しみを強調したり、悲しみにユーモアを重ねる意図を持っているそうです。背景にも同時に注目してみると物語に新たな意味が加えられ、旨みが増すと思います。


『妄想代理人』(2004年)

《あらすじ》
東京武蔵野で発生した通り魔事件。被害者である月子の不明瞭な供述から周囲は本人の自作自演だと疑う。しかし、第二の被害が出たことで事態は一変。存在しないと思われていた犯人は“少年バット”として事件を取り巻く人を次々に襲っていく。
《ポイント》
◎テレビでしか作れない面白さ
監督初となるテレビシリーズである『妄想代理人』は劇場作品では表現ができない連続ものの面白さを狙った作品です。全13話それぞれ違ったテイストでシナリオをまとめ、複数の演出家で担当することによって多様性の実現を図ったそうです。どの話も間違いなく『妄想代理人』でありながら同時に全く別の作品のように感じられるのはこのような意図があったからです。
◎言い訳探しに躍起になっている人を殴る
『妄想代理人』の企画を考えていた時、監督はあまりに言い訳が多すぎると考えていたそうです。仕事に励むよりも「自分探し」と「言い訳探し」に忙しく、粗末な自我を頑なに守ろうとしている子供じみた人たちをバットでぶん殴ろうというのが当初からの作品のテーマでした。アニメに登場するバットがひしゃげている理由はこの方が絵になるのとたわけ共を殴るにはちょうどいいと監督が考えたためです。肝が冷えます。


『パプリカ』(2006年)

《あらすじ》
財団法人精神医療研究所から、他人の夢を共有できる画期的な装置・DCミニが盗まれる事件が発生。それと時を同じくして研究員たちが精神に異常をきたすように。セラピストである敦子はパプリカという名の探偵となり人の夢に中で犯人を追う。
《ポイント》
◎筒井康隆作品へのオマージュ
『PERFECT BLUE』や『千年女優』において夢と現実、幻想と現実、記憶と現実が揺らいでいく様を描いたのは小説の『パプリカ』のようなことをやってみたかったからだそうです。それらの作品を筒井氏が観たことが『パプリカ』の映画化につながったと言います。監督は原作を単純な形に戻し、他の筒井作品からも取り込めそうなアイディアをその枠組みに収めていきました。『パプリカ』は単なる原作の映画化ではなく筒井作品へのオマージュでもあるので、筒井作品を摂取しておくとさらに奥行きが増していきます。
◎パレードは「捨てられたものたち」
本編で印象的なのがパレードです。監督曰くパレードは「捨てられたものたち」だそうです。『パプリカ』においては「悪夢」を他の作品などでよくみるようなダークなイメージで描くのは避け、晴れやか過ぎて却って気色が悪いものにしようと監督は考えていました。神社の鳥居や仏像、招き猫やダルマ、時代遅れの車や家電などの時間が経過し捨てられたものたちが夢を通じて現実に戻ってきます。パレードの中に何があるか注目してみるとより一層怖さが増していきます。


■『オハヨウ』
《あらすじ》
朝起きてから出勤に向けて準備をする一人暮らしの女性を1分間で描いた作品。1分なので今すぐ見てください。


■ 『夢みる機械』


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