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○チェーン店を選ぶ理由

「お昼っていつもどこに行ってるんですか?」
ある日、会社で突然同僚にそう聞かれた。
「えっ...と」
私は気まずくなってもごもごと答える。
「全然、あれです。Wi-Fi目的の適当なとこです」
そう言って、すぐに「最近おいしいお店ありましたか?」と質問を返すことで切り上げた。
その人は、「最近どこ行ったかなあ〜」と言いつつ、ゆず皮の出汁のラーメン屋とか、焼きたてパンのおいしいオシャレなカフェなどを紹介してくれた。
その楽しそうな顔を見ながら、内心ひやひやする。
言えない...全力でランチを楽しんでいる彼女の前で、ランチは9割チェーン店だなんてとても言えない。

社会人になって随分経ち、2度転職しているので地域も変わっているのだが、お昼ごはんに立ち寄る店にほとんど変化ない。
某格安レストランか、緑色のハンバーガー店か、各チェーンカフェ等だ。
正直、飲食ライターになるまで、自分が日々ほぼチェーン店しか訪れていないことに全く気づいていなかった。
なので、お店に詳しい人たちがランチ時に「折角だしおいしいもの食べたいですもんね〜」と言っているのを聞いてハッとした。

自分はランチに、というかもしかしたら食全体に、「程々においしいもの」そして「手頃な値段で済ませられるもの」しか求めていないのかも知れない(でも、こういう考えの人は意外と多いんじゃないだろうか...)。

チェーン店を選ぶ理由。
「値段が手頃」も勿論あるが、私の場合は他の2つの理由が大きいみたいだ。

まず「程よく居心地がいい」ということ。
昼休みの主な目的が「個人的な書き物を片付ける」だというせいもある。昼休みの混雑時にパソコン作業始めても放っておいてくれる場所...それがチェーン店だったのだ。

そして、「食べ物が一定」。
いつ行っても同じものが同じクオリティで出てくる。そして、そもそもの期待値が低いので、たまにもの凄く感動することがある(「えっこんなにおいしくていいの...?チェーン店なのに...?」というような)

しかし、よく使っていたチェーン店に、最近ある変化が現れてきた。

「あれ?」と最初に思ったのは前払い式の店でレジに並んでいる時だった。並んでいる一人ひとりに店員が「お待たせして大っ変申し訳ありません!」と顔を覗き込んで謝る。
「よければ」とメニューを差し出すのはいいけれど、「ご覧におなりくださいませ!」と丁寧がいき過ぎておかしな言葉遣いになっている。
「大変お待たせいたしました!!」とレジで向けられる笑顔は、はじけ過ぎて私のはるか向こうに向けられている気がする。

あれ...なんか丁寧が....苦しい。

また別の店では、全体的に食べ終わっていなくとも、開いたお皿があれば店員が飛んできて「こちらお下げしてもよろしいでしょうか?」とさっさとお皿を引いていく。
食事が終わって自分で返却棚に持っていこうとすると「お客様ー!申し訳ございませんー!!そちらに置いておいてくださいませー!!」と遠くから叫ばれる。こわい。

そう。最近のチェーン店は、どこの店もクオリティ向上のためか、サービスがどんどん過剰になってきているのだ。

ちがう。
そうじゃない!

私は声を大にして言いたい。
チェーン店のいいところはそこじゃない。
求めていたのは程々の距離感!!!!
クールで無愛想なこの空間が好きだった。
料理と一緒に熱い作り笑顔なんていらない。
頼むから放っておいてくれ.....

そこではたと思う。
もしかしたら、これはそろそろチェーン店を卒業するタイミングなのか....?
そこで同僚のオススメ店を聞きながら、メモを取り始めた。

しかし、なぜか今日もチェーン店にいて、これを書いている。
サービス過剰であっても、なんだかんだで様々な人間ドラマが見えるここが好きなのかもしれない。


(食欲をさがして 4)